「買う理由」は、論理ではなく本能で決まっている
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なぜそれを買ったんですか、と聞かれれば、たいていの人は答えられます。
問題は、その答えが正しいとは限らないことです。
鈴木祐さんの『ヒトが持つ8つの本能に刺さる 進化論マーケティング』は、購買を意思決定ではなく、進化の過程で組み込まれた欲求の発露として扱います。
読んでいて怖くなるのは、私たちが自分の選択の理由を、その場で作れてしまうという実験でした。
選んでいないものの理由を、人は説明できる
ルンド大学のペター・ヨハンソンらの研究です。
パッケージを隠した数種類のジャムやお茶を用意し、参加者に好きな味を選ばせます。そのあと、こっそり別の商品にすり替えて、もう一度試食させる。
そして「なぜそれを選んだのか」を尋ねました。
ほとんどの参加者は、すり替えに気づきませんでした。それだけではありません。当初はオレンジを選んでいたのに、すり替えられたブルーベリーについて「ベリーの酸味がちょうどいい」と、選んでもいない選択の理由をその場で作り出したのです。
この現象はチョイス・ブラインドネス、選択盲と呼ばれます。
顧客アンケートで「なぜ買ったか」を集めるとき、私たちが集めているのは、この後づけの説明かもしれません。
買う直前に何を見たかで、買うものが変わる
もうひとつ、ダグラス・ケンリックらが2010年に行った研究があります。
異性愛者の男性を集め、半数には魅力的な異性の写真を、残り半数には一般的な建物の写真を見せました。そのうえで「いま2,000ドル使うとしたら何を買うか」を尋ねます。
魅力的な異性の写真を見た男性ほど、高級ブランドのサングラスや高級カーステレオといった高額品を欲しがりました。同時に、低価格のジーンズには金を使う気がなくなっています。
写真は商品と無関係です。それでも予算配分が変わりました。
本人に理由を聞けば、たぶん「前から欲しかった」と答えるでしょう。実際に効いていたのは、直前に活性化した本能のほうでした。
「人のため」の買い物も、本能の材料になる
利他的な消費についても、同じ視点が向けられます。
ノースウェスタン大学などの研究チームによれば、集団内の地位を高めたいという欲求が活性化した人は、自分よりも他人のためにお金を使うようになりやすい。
エコグッズの購入もボランティアも、無意識のうちに地位争いの材料になっているという指摘です。競争的利他主義と呼ばれます。
自分について語ることの快さも、生理的なものでした。ハーバード大学の神経学チームがMRIで約200人の脳を調べたところ、「私はスポーツが得意です」といった自分語りをさせると、食事やセックスのときと同じ快楽エリアが活性化しています。
顧客に語らせる仕組みが効くのは、内容が有益だからではなく、語ること自体が報酬だからでした。
明日からできること
誤解:良い商品なら、良さを説明すれば伝わる → ベイン・アンド・カンパニーのエリック・アルムキストらは、30年のリサーチで顧客が求める価値要素を300種類以上から30に集約しました。それを1万人以上の消費者に見せ、グローバル企業50社を評価させています。
結果、4つ以上の欲求を満たしていると判断された企業は、そうでない企業に比べて売上増加率が約400%高く、信頼や愛着のスコアには2,000%以上の開きが出ました。
説明の巧拙ではなく、いくつの欲求に触れているかが効いています。
正しいアプローチ:顧客が「上達している」と感じる場面を1つ作る → レゴの再建がこの例です。1990年代後半に主力の売上が激減し、2003年に最大の赤字を出した同社は、調査チームを一般家庭に送り込み、親子と数か月生活を共にして遊び方を観察させました。
そこで見えたのは、子どもの真の欲望が玩具の簡易さではなく、組み立てのスキルが少しずつ向上していく快感にあるということでした。製品設計をそこへ切り替え、同社は10年以上にわたる2ケタ成長を取り戻します。
もうひとつ、顧客の頭の中に合わせる話も付け加えておきます。神田昌典さんの『不変のマーケティング』には、東急百貨店日本橋店の閉店セールの例が出てきます。336年続いた老舗が幕を閉じるという物語が、「いま買わないと損をする」という感情を強く動かしました。
売っているのは同じ商品です。動いたのは、損失を避けたいという本能のほうでした。
おわりに
この視点には、当然ながら危うさもあります。
本能を突く技術は、必要のないものを買わせる技術でもあります。だから、どこまで使うかは自分で決めるしかありません。
ただ、少なくとも「なぜ買ったか」という問いへの答えを、そのまま信じるのはやめたほうがよさそうです。自分の買い物についても、同じように。
この記事で参考にした本
『ヒトが持つ8つの本能に刺さる 進化論マーケティング』鈴木祐 → 購買行動を進化心理学の枠組みで整理した一冊。チョイス・ブラインドネスやベインの30の価値要素など、研究の引用が具体的。
『不変のマーケティング』神田昌典 → 感情を動かす具体的な打ち手の集積。理論ではなく現場の実例から、同じ構造が読み取れる。
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