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『数値化の鬼』安藤広大さん|「頑張ってます」が評価されない本当の理由

思考法・問題解決

成約率80%の営業と、成約率50%の営業。どちらが優秀だと思いますか。

数字だけ見れば前者です。でも、80%の人が10件中8件、50%の人が50件中25件だったらどうでしょう。取ってきた契約は8件と25件。会社を支えているのは、明らかに後者です。

「%」という一見客観的な数字にすら、人はだまされる。『数値化の鬼』は、この数字の見方を根本から鍛え直す一冊です。

著者の安藤広大さんは、組織コンサルティング会社・識学の代表。意識構造学「識学」のメソッドは2022年3月時点で約2700社に導入され、会社は創業から3年11ヶ月で上場しました。前著『リーダーの仮面』は29万部を超えるベストセラーです。

その著者がプレーヤー個人に向けて書いたのが本書。核心はたった一つ、「いかなるときも感情を脇に置き、いったん数字で考える」です。

こんな人におすすめ

次のどれかに心当たりがあるなら、読む価値があります。

どれも能力不足ではなく「数値化の欠如」が原因、というのが本書の見立てです。とくに1つ目。評価への不満は、仕事を曖昧な言葉で語っていることから生まれると著者は指摘します。

「数字がすべてではない」は、順番が逆

著者の現状認識は強烈です。現代は「言葉は過剰、数字は不足」している。

「数字がすべてではない」「自分らしさが大事」という風潮がもてはやされる。でも、まだ結果を出していない人がこの言葉を使うとき、それは「数字は無視していい」という都合のいい解釈にすり替わっている、と。

正直、ここで痛いところを突かれました。私も「数字より中身」と言いたくなる側だったからです。

著者はこれを「順番」の問題だと整理します。スポーツのほとんどは点数という数字で競い合っていて、数字のないところに競技は成立しません。

数字を追いかけ、結果を出し、ふと振り返ったときに初めて「あなたの強みは〇〇ですね」と個性が滲み出る。自分らしさは、数字の先にあるものなんです。

そのうえで、数字の定義がいい。

数字は、「不足を見るためのもの」です。不足を埋め、次の行動を考えるための材料です。

過去を採点される点数ではなく、未来のための手段。数字は自分を客観視する「モノサシ」であり、感情を横に置いてラクにしてくれるツールでもあります。

象徴的なのが、「ムカつくことを言われた」を「3回言われた」に変換する例。主観を事実に置き換えるだけで、冷静さを取り戻せます。

成長は5つのステップで設計されている

本書の構成はシンプルです。プレーヤーが成長するプロセスを5段階に分解しています。

ステップ1. 行動量 まず行動の回数を圧倒的に増やす。

ステップ2. 確率 「%」の数字に潜むワナを避ける。

ステップ3. 変数 成果に直結する「変えられるもの」を見つける。

ステップ4. 真の変数 変数を捨て、最重要の1つに絞り込む。

ステップ5. 長い期間 5年後、10年後から逆算する。

面白いのは、各章が「前の章で生まれる壁」を破る構造になっていることです。量を増やすと確率が気になり、変数を探すと変数が増えすぎる。成長の踊り場が、あらかじめ設計図に織り込まれています。

計画に時間をかけるな、「行動量」が土台になる

最初のステップは身も蓋もありません。数をこなす。これが基本中の基本です。

カギはPDCAの回し方にあります。識学流では「P(計画)」に時間をかけません。すぐに「D(行動)」へ移し、その回数を数え、うまくいった行動を伸ばす。

完璧な計画を作ってから動く人は、動きながらデータを集める人に勝てないわけです。

ここで効くのが「KPI」。大きな目標を、迷いなく実行できるレベルの行動指標に砕いたもので、著者は「目標のための目標」と呼びます。

「英語を話せるようになる」ではなく「英単語を1日10個覚える」。著者の知り合いの保険営業マンは、アポ回数を日々の行動レベルまで分解し、手帳が真っ黒になるほどの行動量でトッププレーヤーになったそうです。

注意したいのが「ニセモノの数値化」です。「会話力」「集中力」のような〇〇力は、数字っぽく見えてただの定性的な言葉。1日に何を何回やるか、数字が伴って初めて目標になります。

もう一つ、行動量のカウントには正直さが要ります。「気合いを出せばできる」「徹夜すればできる」という錯覚は、自分の限界を厳しく見積もると消えていく。

失敗も同じです。「10回やって7回失敗した」という貴重なデータとして受け入れる。隠したり正当化したりした瞬間、改善の材料が消えます。

「確率のワナ」が、働かないおじさんを生む

冒頭の成約率80%の話には続きがあります。

行動量が増えてくると、人は「%」を気にし始めます。成約率、達成率。そして失敗して数字が下がるのが怖くなり、行動にブレーキをかける。これが本書の言う「確率のワナ」です。

分母を減らせば、確率は守れます。確実に取れる案件だけやれば、成約率80%は維持できる。でもそれは、挑戦をやめた状態です。

著者はこの自己保身の積み重ねの先に、「働かないおじさん」が生まれると言います。

だから本書は、評価の考え方まで踏み込みます。評価にゼロはない。プラスか、マイナスか。現状維持を「悪くない」と捉えた瞬間、成長は止まる。

企業にとって現状維持が「沈む」ことを意味する以上、マイナス評価を受け入れる覚悟が要る、と。ここは賛否が分かれるはずです。

ただ、「質を上げること」が目的化して量が減るのは大問題、という指摘は刺さります。キャリアの中盤に差しかかった人ほど、耳が痛いはずです。

言い訳の正体は「定数」、見るべきは「変数」

第3章が、私には一番効きました。

仕事には「変えられるもの(変数)」と「変えられないもの(定数)」があります。天候、景気、他部署の動き、上司の性格。これらは定数です。いくら嘆いても変わらない。

なのに結果が出ないとき、人は定数を言い訳にします。「景気が悪いから」「上司と合わないから」。その時間を全部、変数に向けようというのが本書の提案です。

変数の見つけ方は「なぜ?」の繰り返しです。なぜアポが契約につながらないのか。プロセスを細かく砕いて、数字で検証する。

プレゼンなら、資料のデザインに時間をかけても成功回数が変わらないなら、デザインは変数ではありません。「最初の10秒で結論から話す」で成功が増えたなら、それが変数です。

そして痺れたのがこの一文。

他人の成功論はすべて「変数」ではなく「仮説」

本やセミナーのノウハウも、試して自分の数字が動いて初めて変数になる。ビジネス書の読み方まで変わる視点でした。

「やらないこと」を決め、真の変数を1つに絞る

変数は、放っておくと増えます。あれも大事、これも大事。全部やろうとして、全部が中途半端になる。

そこで第4章は絞り込みです。複数の変数から、目標達成に最も寄与する「真の変数」を1つ見極める。そのために「やらないこと」を決めます。

ある有名な投資家の例が出てきます。やりたいことを10個書き出し、上位3つを残して7つを「やらないことリスト」として捨てる。結果、最重要の3つをやり遂げられるようになった。

集中とは、捨てる行為の結果なんですね。

目標の数にも上限があります。識学流では評価項目は5つ以内。「いつでも思い出せる数字」でなければ、日々の行動につながらないからです。

組織の話として面白かったのが「人を変数にしない」。上司の人間性で部下の成果が左右される「上司ガチャ」は、組織として危険な状態です。カリスマに頼らず、ルールと仕組みでフェアな環境を作る。

識学らしい補足もあります。人は放っておくと「優秀2:普通6:無能2」に分かれるが、マネジメントの仕事はこれを10:0:0に近づけること。プレイングマネージャーの評価も、個人成績ではなくチーム成績のみ(0対10)で見るそうです。

目先の1万円を取ってしまう脳と、「長い期間」で戦う

最後のステップは時間軸です。

本書は行動経済学の有名な実験を引きます。「1年後に100万円か、1年1ヶ月後に110万円か」なら、多くの人が110万円を選ぶ。

なのに「いま1万円か、1ヶ月後に1万1000円か」だと、多くの人がいまの1万円を選んでしまう。人間は、目先の利益に弱くできています。

だから意識的に「5年後、10年後はどうか」から逆算する必要がある、というのが第5章です。

失敗例も具体的でした。全国100店舗まで広げた外食企業が、売上の頭打ちを受けて下位3割の店舗を削減。短期的には利益が回復したものの、仕入れ単価の上昇などを招き、2年後には再び経営が苦しくなったそうです。

インセンティブ制度への警鐘も同じ文脈です。歩合で目先の利益だけを追うようになると、チームプレーが失われて長期的には組織が弱る。

短期的には損に見えても、長期的にトクをする選択がある。長期から逆算して、今日のKPIに意味を持たせる。5つのステップはここで完結します。

言葉を数字に変えるだけで、誤解が消える

5つのステップの土台として、全編を貫くのが「言葉の数値化」です。

「なるべく早くやります」を「14時までに出します」に。「かなり進みました」を「7割終わりました」に。形容詞と副詞を数字に置き換えるだけで、上司と部下の認識のズレが消えます。

著者はこれを「コミュニケーションコストの削減」と呼びます。頑張る姿勢が見えにくいテレワーク時代に、数字という共通言語の価値はむしろ上がっています。

「うちは数値化できない仕事だから」という反論にも答えがあります。総務や経理でも、ミスの回数、業務改善の数、期限遵守率と、測れる部分はある。タスクをポイント化する方法も紹介されています。

ただし限界もあります。デザインや介護のように価値が定性に寄る仕事へ無理に数値化を当てると、本質的な価値評価とズレるリスクがある。万能の法則ではなく、まず「いったん」数字で考えるための技術と捉えるのがフェアだと思います。

今日からできる3つのこと

本書のアクションプランから、最初の一歩を3つ選びました。

1. 今日の報告から、形容詞と副詞を消す 「なるべく早く」を「14時までに」、「もっと頑張る」を「1日10件」に置き換える。

2. 1日の終わりに、行動量だけを数える 何回やったか、何時間やったか。評価も反省も後回しにして、まず嘘なくカウントする。

3. 結果が出なかったら「なぜ?」を繰り返す 環境や他人のせいにする前に、プロセスを砕き、自分が変えられる変数を1つ見つける。

3つ目までできたら、その変数に行動量を注ぎ込む。本書の5ステップが、そのまま日常で回り始めます。

おわりに

数字で評価されると聞くと、冷たいプレッシャーを想像します。私もそうでした。

でも読み終えると、印象が逆転します。数字は感情を切り離し、人間関係のモヤモヤや失敗の恐怖から自分を解放してくれる道具でもある。鬼になるのは、誰かを責めるためではなく、自分の不足から目を逸らさないためです。

数字に向き合わずに成長できる人は、誰一人としていません。

明日の報告で、形容詞を1つ数字に変えるところから。その小さな一歩が、「数値化の鬼」への入り口になります。


合わせて読みたい

『とにかく仕組み化』安藤広大 同じ安藤広大さんの識学シリーズです。本書がプレーヤー個人の数値化を扱うのに対し、こちらは「人を変数にしない」を組織の仕組みとして実装する側の一冊。セットで読むと識学の全体像がつかめます。

『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』三木雄信 本書で身につけた「いったん数字で考える」姿勢を、組織を動かす攻めの数値化へ広げる実践編です。孫正義さんの現場で磨かれた数字の使い方は、行動量と変数の考え方と響き合います。

『継続する技術』戸田大介 「行動量を増やせ」と言われても続かない人のための一冊です。200万人のデータから三日坊主の科学的な治し方を導いており、本書のステップ1を現実に回すための補助輪になります。


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