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『僕らが毎日やっている最強の読み方』池上彰・佐藤優|ネットは「上級者のメディア」である

学習・インプット
『僕らが毎日やっている最強の読み方』

ネットは情報収集に向いている。多くの人がそう信じています。でも本書は、ネットを「非常に効率が悪い上級者のメディア」だと言い切ります。

著者は池上彰さんと佐藤優さん。ジャーナリストと元外務省主任分析官、いわば「知の巨人」2人です。この2人が、新聞・雑誌・ネット・書籍という4つのメディアを毎日どう使い分けているかを、対談形式で全部明かしました。

おもしろいのは、結論が「とにかく読め」ではないことです。むしろ「何を読まないか」「どれを捨てるか」という取捨選択の技術が、本書の中心にあります。情報の海で溺れないために、4つのメディアをどう泳ぎ分けるのか。順に見ていきます。

図解

こんな人におすすめ

この本の核心――「知る」と「理解する」を分ける

本書の土台にあるのは、メディアの役割分担です。

世の中で起きていることを「知る」には新聞がベースになり、世の中で起きていることを「理解する」には書籍がベースになります。

「知る」と「理解する」は別物だ、というのがまず大事な区別です。新聞で全体像をざっと知り、書籍で背景まで深く理解する。この2つを混同すると、いくら情報を浴びても知識にならない。

そしてもうひとつの核心が「基礎知識」です。新聞もネットも書籍も、土台となる基礎知識がなければ理解できない。基礎知識が欠けたままインプットを増やしても、情報は積み上がらず、ただのノイズになる。本書はここを繰り返し強調します。

全体像――4つのメディアを「速くて浅い」から「遅くて深い」へ並べる

本書は、読者が日常的に接する順に、メディアを段階的に深掘りしていく構成です。

序章で「知は武器であり楽しみ」というスタンスを共有し、第1章で新聞、第2章で雑誌、第3章でネット、第4章で書籍、第5章で教科書・学習参考書へと進みます。前半ほど速くて浅く、後半ほど遅くて深い。最後にすべての土台となる基礎知識の作り方に着地する流れです。

ここからは、5つのメディアそれぞれの使い方を見ていきます。

新聞――最強の一覧性。ただし「最低2紙」で

新聞は、世の中を「知る」ための基本かつ最良のツールだと位置づけられます。一覧性に優れ、新聞社や通信社が直接取材した第一次情報源だからです。ネットニュースの多くは、もとをたどれば新聞情報がソースになっています。

ただし、1紙だけでは危ない。

理由は明快です。1紙だけだと、その新聞のバイアス(偏り)に自分が気づけない。だから論調の異なる新聞を最低2紙、読み比べる。これで初めて、自分が今どんなフィルターを通して世界を見ているかが見えてきます。

そして読み方は「飛ばし読み」です。端から端まで読むのではなく、まず全ページをめくって「見出し」と「リード(前文)」だけを確認する。本当に必要な記事だけ本文に進む。新聞を読むとは、捨てる記事を素早く見極める作業でもあるわけです。

雑誌――「読書人階級」のための娯楽

雑誌の章では、いきなり前提がひっくり返ります。雑誌は基本的に「娯楽」だ、という位置づけです。

佐藤さんは、新聞・雑誌・書籍を日常的に読む層を読書人階級と呼びます。総合週刊誌や総合月刊誌は、この階級のための娯楽だと割り切る。だから雑誌は、自分の専門外の興味や関心、視野を広げるために「拾い読み」すればいい。

ここ数年で雑誌との付き合い方を激変させたのが、定額読み放題サービスです。佐藤さんはdマガジンで、雑誌をまとめて流し読みするようになったと言います。1冊ずつ買って精読する対象ではなく、広く浅く視野を広げる装置として雑誌を使う。この割り切りが軽やかです。

ネット――効率が悪く、偏見を増幅する「上級者のメディア」

冒頭でも触れた、本書で最も挑発的な主張がこの章です。

ネットは玉石混淆で、情報収集の効率がむしろ悪い。しかもネットには「編集権」も「校閲」もない。だから情報の真偽を自分で判断できる上級者でないと、かえって振り回される。誰でも手軽に使えるからこそ危ない、という逆説です。

最大の危険として挙げられるのがプリズム効果です。

ネットやSNSでは、自分の好む情報や考えに近いものばかりが目に留まり、大きく見えてしまう。

結果として視野が狭くなり、自分の偏見がどんどん増長される。心地よい情報に囲まれて、いつのまにか世界を歪んで見るようになる。これを自覚し、意識して反対意見に当たる必要があります。

ではネットをどう使うか。検索やWikipediaの不確かな情報に頼るのではなく、「ジャパンナレッジ」などの有料辞書サイトや、官公庁・海外メディアの「公式の一次情報(原文)」に直接アクセスする。ネットは「調べる」より「一次情報に当たる」ために使う道具だ、という発想の転換です。

書籍――基礎知識は本でしか身につかない

第4章で、すべての土台に戻ります。基礎知識は書籍でしか身につかない、というのが本書の最終的な結論です。

膨大な本をさばくために、佐藤さんは本を「熟読する本」と「速読で済ませる本」に仕分けます。その仕分けに使うのが超速読です。

「はじめに」「目次」「結論」の1ページだけを読み、残りは文字を追わずに見出しやキーワードを視覚的に頭へ焼き付ける。これで1冊を約5分で処理し、熟読に値するかを見極める。仕分けが終わったら、1ページ15秒の「普通の速読」や、線を引きながらの熟読へ振り分けます。

本選びのコツも具体的です。本のレベルを測るには「真ん中」を読む。冒頭は誰でも気合いを入れて書くので、真ん中を見れば実力がわかる。そして、あるジャンルを理解する核になるタネ本(基本書)を見つける。後続の関連書籍のベースになっている重要な1冊で、これを熟読すれば、その分野の基礎が効率よく入ります。

本の費用対効果は非常に高い。

だから「迷ったら買う」。知りたいテーマがあれば書店で関連本をまとめ買いし、その中からタネ本を探す。本書の読書観はとことん実利的です。

教科書――大人の学び直しは「歴史A」と「公民」から

最終章の提案は、多くの人にとって意外なはずです。基礎知識の欠損を埋めるなら、専門書ではなく中学・高校の教科書を使え、というのです。

ニュースが理解できないのは、頭が悪いからではなく、土台が抜けているから。その土台は、高校の「世界史A」「日本史A」や中学の「公民」で効率よく補える。

時事ニュースを理解するために必要な基礎知識は、小学校の教科書におおむね揃っている。

ビジネスパーソンこそ、無理に難しい本へ進まず、まず学習参考書で世界情勢や政治経済の基礎を立て直す。遠回りに見えて、これが判断の精度とスピードを最も上げる近道だ、という主張です。

本書を支える「技法」のディテール

本書の説得力は、抽象論で終わらない具体性にあります。

人から情報を引き出す技術として紹介されるのが緩やかな演繹法です。事前に仮説(ストーリー)を立てて人に会うが、現場で予想外の有益な情報が出たら、仮説に固執せず臨機応変に修正していく。情報源は活字だけではない、というわけです。

組織での学びには黒い勉強/白い勉強という分類があります。語学や仕事のスキルといった表向きの知識が「白い勉強」。トラブル時に上司へどこまで報告するか、どう収めるかといったマニュアルにない処世術が「黒い勉強」。後者は数年上の先輩から学べ、と説きます。

記憶の定着には、読書ノートの工夫があります。本を読み終えたら、書名とともに「その日の大きなニュース」を1行メモしておく。後からそのニュースが記憶のトリガーになり、本の内容を思い出しやすくなる。

情報管理は2人で対照的です。佐藤さんは新聞の8割を電子版で読み、紙の資料はスキャンしてエバーノートに放り込みキーワードで引き出す。ただし「きちんと読んでから保存する」が大前提です。一方の池上さんは紙で読み、記事を切り抜いてファイルする。デジタルとアナログ、どちらが正解というより、自分に合う型を選べばいい。

明日から何を変えるか

本書の実践を、3つに絞ります。

1. 新聞は「見出しとリード」で取捨選択する 全部読もうとしない。まず全ページをめくり、見出しとリードだけ確認して、必要な記事だけ本文へ。読むより先に「捨てる記事」を決めます。よくある失敗は、最初の面から順に丁寧に読み始めて、後半に着く前に力尽きること。

2. 1日1時間の「ネット断ち」をつくる 読書や思索に集中するため、1日のうち1時間はスマホとPCの電源を切る。プリズム効果から距離を置き、深い情報に向き合う器を確保します。注意点は「あとで時間ができたら」では永遠に作れないこと。先に時間を逆算でブロックします。

3. ニュースがわからなければ「歴史A」か「公民」を買う 理解できない時事問題に出会ったら、専門書に手を伸ばす前に、高校の学習参考書で土台を埋める。背伸びをやめて基礎に戻るのが、結局いちばん速い。

おわりに

読み終えて意外だったのは、「知の巨人」2人の結論が、最新ツールではなく「新聞」と「教科書」という地味な媒体に着地したことでした。

本書が刊行された2016年は、フィルターバブルやフェイクニュースが社会問題になり始めた時期です。あれから情報環境はさらに荒れました。だからこそ、紙のメディアの一覧性、基礎知識の土台、一次情報に当たる姿勢という本書の主張は、今のほうがむしろ効きます。

ひとつだけ補足を。佐藤さんの「月に300〜500冊目を通す」「1日4時間インプット」といった水準は、一般人には物理的に無理です。著者自身も「一般人は1日1〜2時間で十分」とフォローしています。すごい人の極端な数字に圧倒される必要はありません。拾うべきは数字ではなく、メディアを役割で使い分けるという考え方のほうです。


合わせて読みたい

『調べる技術 書く技術』佐藤優 本書の共著者・佐藤優さんが、情報収集と発信に絞って書いた一冊。本書で繰り返される「高校教科書が知性のOSになる」という主張を、より実践的に掘り下げています。

『ノイズに振り回されない情報活用力』鈴木進介 情報洪水を泳ぎ切る「引き算思考」がテーマ。本書の「何を読まないか」「捨てる技術」という核心と、まっすぐ響き合う内容です。

『読書の技法』佐藤優 本書で紹介された「超速読」と「熟読」の使い分けを、知識を血肉化する方法として体系化した一冊。書籍の章をもっと深く知りたくなったら次はこれです。


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