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『売上最小化、利益最大化の法則』木下勝寿さん|利益率29%を生んだ逆張りの経営

戦略・経営・事業
約6分で読めます
『売上最小化、利益最大化の法則』

売上を10倍にすると、トラブルも10倍になる。だから売上は最小に抑える。

そんな逆さまの主張をする経営書があります。著者の木下勝寿さんが率いる北の達人コーポレーションは、売上約100億円で営業利益約29億円。営業利益率29%という、業界標準の3%を10倍近く上回る数字を叩き出しています。

普通の経営書は「どう売上を伸ばすか」を教えます。この本は逆に「どう売上を追わずに利益を残すか」を教える。その違いが、本書を読む価値です。

こんな人におすすめ

この本の核心――売上は手段、利益が目的

木下さんの主張は一貫しています。売上と利益は対比するものではなく、利益が絶対の目的で、売上はそのプロセスだ、と。

なぜ売上を追ってはいけないのか。売上が大きくなれば、それに比例してクレームもトラブルも管理コストも増えるからです。同じ利益なら、売上は少ないほうが圧倒的に安定する。木下さんはこれを「売上10倍はリスク10倍」と表現します。

利益という数字の意味も独特です。利益は、その会社がどれだけ世の中に付加価値を提供できたかを示す指標。だから利益を出してたくさん納税することこそが、最大の社会貢献だと言い切ります。

お金を稼ぐことは社会貢献なのだ。

10万円のパソコンを10万台仕入れて、そのまま10万円で売る。売上は100億円になりますが、利益は0円です。これでは何も付加価値を生んでいない。でも「10年保証」という1万円分の価値をつけて11万円で売れば、10億円の利益が出る。売上ではなく、付加価値である利益にこそ意味がある、というわけです。

著者が目指すのは「永続的経営」。何があっても潰れない盤石な会社をつくることが、経営者の最大の使命だと考えています。

売上ゼロでも生き残れる期間――無収入寿命

本書の土台になる概念が「無収入寿命」です。これは、売上がゼロになっても、給料を減らさず全従業員を雇い続け、家賃を払って現状を維持できる期間のことを指します。

計算式はシンプルです。

純手元資金(総資産-固定資産-棚卸資産-流動負債)÷ 月額固定費

北の達人コーポレーションは、この無収入寿命を「24か月」に設定しています。売上が2年間まったく入らなくても会社が存続できる状態を、利益を貯めることでつくっておく。すると不況でも災害でも慌てずに事業を立て直せます。

この発想には背景があります。著者は起業して1年半後、取り込み詐欺のプロから120万円分のカニの注文を受け、納品したのに入金されず、全財産の120万円を失いました。無収入寿命が一気に「0か月」になった経験が、財務の備えを徹底する原点になっています。

借入金の使い方も常識と逆です。普通は借りたお金を設備や事業に投資します。でも著者は、無収入寿命の目標を達成するための現金をプールしておくためだけに借り、一切使わず毎月の利益から返済し続けるという手法を紹介しています。松下幸之助さんの「ダム経営」と同じ思想です。

隠れ赤字を一発であぶり出す――5段階利益管理

本書の中心にあるのが「5段階利益管理」という独自の管理会計です。利益をひとくくりにせず、商品ごとに5つの段階に分けて見える化します。

①売上総利益(粗利) 売上から原価を引いた、いちばん基本の利益です。

②純粗利 粗利から「注文連動費」を引きます。注文連動費とは、決済手数料・梱包資材・送料など、注文が1件入るたびに必ず発生するコストのこと。著者の造語です。

③販売利益 純粗利から販促費(広告費など)を引いた利益です。

④ABC利益 販売利益から「ABC(Activity-Based Costing)」を引きます。ABCとは商品ごとの人件費のこと。社員がどの商品の業務に何%の時間を使ったかを算出し、コストとして差し引きます。

⑤商品ごと営業利益 ABC利益から運営費(家賃や間接部門の人件費など)を引いた、最終的な利益です。

なぜ5段階に分けるのか。特に④のABCを引くと、「売上は高いけれど、社内の手間ばかりかかって実は利益が出ていない商品」が一目でわかるからです。逆に「売上は低いけれど、ほったらかしで勝手に売れて利益が多い商品」も見えてきます。

コストには、利益に貢献するコストと、貢献しないコストがある。この前提に立って無駄を削るための道具が、5段階利益管理です。

採算の合わない広告は、ためらわず止める――上限CPOと時系列LTV

販売戦略では、広告費を厳しく管理します。鍵になるのが「上限CPO」と「時系列LTV」です。

CPO(Cost Per Order)は、1件の注文を獲得するためにかかったコスト。LTV(顧客生涯価値)は、1人の顧客が取引期間を通じてもたらす利益の総額です。著者は、商品×広告媒体ごとに時系列でLTVを算出し、そこから逆算して「ここまでなら広告にかけていい」という上限CPOを厳格に決めます。

そして、上限CPOを超える広告は思い切って全部止める。すると驚くことが起きます。採算の合わない広告を止めた結果、売上は半減しても、利益は1.5倍、利益率は3倍になった、と。

ROAS(広告の費用対効果)についての指摘も逆説的です。普通はROASが高いほど効率がいいと考えますが、著者はROASが高すぎるのは「機会ロス(取りこぼし)」だと言います。上限CPOギリギリまでROASを下げて広告費を増やすほうが、全体の利益は大きくなる。

商品開発の発想も独特です。大手が参入しない小さなニッチ市場で、お客様の深い悩みを根本から解決する。「2匹目のドジョウは狙わない。他社のヒット商品をマネることは絶対しない」と明言し、流行を追う「多産多死」ではなく、ロングセラー前提の「少産少死」で品質にこだわります。

一度買った人と一生付き合う――演歌の戦略

顧客戦略の核が「演歌の戦略」です。一過性のブームを狙うのではなく、一度商品を買ってくれたお客様と一生お付き合いするつもりで、熱烈なファンになってもらう。

きっかけは矢沢永吉さんの「一回レコードを買ってくれたお客様とは一生つき合っていく」という趣旨の言葉でした。秋元康さんがAKB48で実践した握手会、GLAYのTERUさんがファンの誕生日に一人ひとり個別コメントを書き込んだエピソードも、同じ思想として紹介されています。

具体策も泥臭い。素人臭さを残した手書き風の使い方マニュアルを同封して正しい効果を実感してもらう。商品カウンセリング課を設けてお客様の悩みに直接寄り添う。こうして関係性の濃いファンを増やしていきます。

だからプロモーションは目立たなくていい。話題性でできる「行列」は供給量を増やすと希少価値が下がってすぐ消える。それより、比較検討した上で選んでくれる「実需」の顧客を確実につかむほうが長く続く、という考え方です。

組織づくりでも一貫した哲学があります。「人は変わらない」という前提に立ち、部下を変えようとせず、作業のほうを変える。業務を細かく分けて分業する「ベルトコンベア方式」を使えば、未経験者でも短期間で戦力になり、ミスも激減します。

優秀な人がきてくれれば、会社が大きくなるわけではない。優秀な人がきてくれるように会社を大きくするのだ。

明日から何を変えるか

自分の「無収入寿命」を計算する 個人や家庭でも、収入が途絶えたら今の貯金で何か月暮らせるかを計算してみる。目標期間を決めて備えると、挑戦するための心の余裕が生まれます。

「ABC(手間)」の視点で仕事を見直す 日々の仕事で「この作業にかけている自分の時間は、本当に成果に見合っているか」を問う。売上につながっていても、手間がかかりすぎる作業は隠れた赤字を生んでいます。

「ピッパの法則」を実践する ピッと想ったらパッとやる。すぐできないことは「いつやるか」を今すぐ決める。この習慣だけで、仕事の処理スピードは大きく変わります。

おわりに

この本を読むと、「売上=正義」という思い込みがいかに根深かったかに気づかされます。たくさん売ること自体が目的になり、その裏でコストもリスクも膨らんでいたのかもしれない。

木下さんが繰り返すのは、残るものを見ろ、というシンプルなメッセージです。利益、手元資金、一生付き合えるお客様。派手な数字ではなく、静かに積み上がるものが会社を強くする。

D2Cやサブスクに最適化された手法なので、業態によってはそのまま使えない部分もあります。それでも「利益を起点に逆算する」という発想は、業種も会社の規模も超えて効く。売上の呪縛から自由になりたい人に、強くおすすめできる一冊です。


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