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『無病法』ルイジ・コルナロ氏|102歳まで病気知らずだった貴族の「極少食」

健康・メンタル

1日に食べるのは、わずか350グラム。それで102歳まで生きた人がいます。

しかも、ただ生き延びたのではありません。晩年まで頭は明晰で、声は朗々と響き、馬車に引きずられる大事故に遭っても後遺症なく自然治癒した。そんな人物が16世紀のイタリアに実在しました。

『無病法』は、ベネツィア貴族ルイジ・コルナロ氏が自らの体験をもとに書いた、健康と長寿の古典です。彼の主張はたった一つ。「食べる量を減らせ」。500年前の言葉が、飽食の現代にこそ突き刺さります。

こんな人におすすめ

食べることが好きで、でも体のことも気になる、という人に読んでほしい本です。

この本の核心――飽食こそが万病の元

コルナロ氏は若い頃、暴飲暴食で身を持ち崩しました。

30代で生活習慣病を患い、40代で生死の淵をさまよいます。医師団からは「食事を最小限に抑える以外に助かる道はない」と宣告されました。そこで始めたのが「極少食」です。

結果は劇的でした。数日で回復の兆しが見え、1年で完全な健康体に戻ります。以後、彼は102歳で穏やかな自然死を迎えるまで、病気とは無縁の人生を送りました。

「節食の生活では、病気の原因といったものが日々とり除かれているからである。要するに、原因がなければ、現象は生じ得ない、という道理である」

病気の原因を毎日取り除いていれば、病気は起こりようがない。この単純明快な論理が、本書の背骨です。

「好きなものを好きなだけ食べて長生きする人もいる」という反論には、彼はこう答えます。そういう人は5万人に1人もいない例外であり、しかも最後は何らかの病気で亡くなる、と。彼の生きた16世紀のルネサンス期は、貴族の暴飲暴食がステータスで、若死にが当たり前の時代でした。

そして今は、砂糖やトランス脂肪酸があふれる「新たな飽食の時代」です。日本では過去50年で肉の消費が15倍、卵が12倍に増えました。500年前の警鐘は、現代人にこそ切実に響きます。

大事なのは「質」より「量」

健康法というと、つい「何を食べるか」を考えます。でもコルナロ氏の答えは違いました。

「飲食いずれの点でも重要なことは、質よりむしろ量の制限である」

どんなに体に良い食べ物でも、食べ過ぎれば害になる。逆に言えば、量さえ守れば体は整う。彼自身の1日の量は、固形物が約350グラム(パン、卵の黄身、少しの肉、スープなど)、ワインが約400cc。これを2回に分けて摂りました。

実践のコツは、満腹まで食べないこと。

「常に食欲を少し残した状態で食卓をはなれることにしたのである」

腹八分目どころか、もっと手前で箸を置く。「もう少し食べたい」という気持ちを残したまま終えるのが、彼の流儀でした。

美味しいものが、体に合うとは限らない

量と並んで彼が重視したのが、自分に合うものを見極めることです。

コルナロ氏は気づきました。口に合う美味しいものが、必ずしも胃に良いとは限らない、と。だから彼は、自分の体が容易に消化できるものだけを選び、合わない肉やワインは退けました。

ここで重要な考え方が出てきます。

「自分がいう生活習慣をとり入れた者は、いまや自分自身が自分の医者となる」

他人の体質まで分かる名医などいません。自分にとって最良の食べ物と量を見つけられるのは、日々自分の体を観察している自分だけ。だからこそ、定説に盲従せず、食後の体調を注意深く見ることが大切になります。

歳をとるほど、食事は「減らす」のが自然

ここが現代の常識と真っ向からぶつかる部分です。

私たちは「歳をとったら体力をつけるために、しっかり食べよう」と考えがちです。でもコルナロ氏は逆だと言います。

「老いは若さの反対ですから、それに応じて、飲食の量を逆行させなければならないのです」

加齢とともに消化力は落ちていきます。だから成長期に増やしてきた食事量を、今度は減らしていくのが自然の摂理だ、と。

彼自身がそれを身をもって証明しました。79歳のとき、家族や医師の「栄養が足りない」という忠告に従い、しぶしぶ食事をほんの少し増やしたのです。固形物を約50グラム、ワインを約50ccだけ。

するとどうなったか。10日後に異変が起き、15日間も高熱と痛みで死の淵をさまよいました。元の極少食に戻した途端、回復したといいます。

ほんの50グラムの差が、命を脅かす。少食の威力が逆説的に証明された瞬間でした。

少食がもたらすのは、体だけでなく心の安定

コルナロ氏の主張は、健康にとどまりません。

極少食を続けると、かつて短気で怒りっぽかった性格が穏やかになり、常に快活でいられるようになったといいます。記憶力や判断力も衰えるどころか高まり、不当な裁判沙汰に巻き込まれても、心を乱されず冷静に対処できました。

「なにごとであれ、くり返し行なわれることは、やがて習性となり、そしてついにはそのことによって、人の運命を決定的に左右する」

食欲という強い本能を理性で律する習慣が、感情に流されない強い精神を育てる。節制は単なる健康法ではなく、生き方そのものを変える訓練でもありました。

現代科学が裏づける「カロリー制限」の力

500年前の経験論を、本書の解説は現代科学で補強します。

少食、つまりカロリー制限には、いくつもの効果が確認されています。摂取エネルギーを抑えると、細胞や遺伝子を傷つける活性酸素の発生が減ります。

消化に使われていた体内酵素を、代謝や修復に回せます。そして「カロリーの制限」によって、老化を防ぐ長寿遺伝子(サーチュイン)のスイッチが入ります。

実際の研究も紹介されます。米ウィスコンシン大学がアカゲザルを20年間調べたところ、カロリーを30%制限したサルは外見が若々しく、病死は飽食組の約3分の1にとどまりました。

米予防医学研究所の調査では、ライフスタイルを改善した3カ月後に、48個の長寿遺伝子が活性化し、453個の疾患を促進する遺伝子が機能を停止しています。

何を食べるか――人間本来の「穀菜食」

量が最重要とはいえ、解説は質についても指針を示します。

人間に最も適しているのは「穀菜食」、つまり未精白の穀物(玄米など)と野菜、海藻を中心とした食事です。理想の割合は、未精白穀物が約50%、野菜・海藻・発酵食品が約40%、魚介類が10%未満。

逆に避けるべきものも明確です。砂糖は胃の働きを止め(糖反射)、血液を酸性化させる「万病の温床」。マーガリンなどのトランス脂肪酸は、細胞膜を透過して炎症を起こす「食べるプラスチック」。過剰な肉や乳製品も現代病の元凶とされます。

「自分が住んでいる土地でとれる穀物や野菜を中心とした食事、すなわち『身土不二の原則』にしたがった『穀菜食』のことである」

古代ローマの兵士は、粗挽き小麦のパンだけで体格の大きな蛮族を打ち破りました。穀菜食は活力を奪うどころか、むしろ持久力を生みます。20世紀初頭の超長距離マラソンでも、穀菜食の選手が上位を独占し、肉食者は一人も入賞できなかったといいます。

「動くこと」も健康長寿の柱

食の節制に加えて、解説が強調するのが「歩くこと」です。

コルナロ氏自身、働きすぎや悪い空気を避け、否定的な感情を抱かないよう心がけていました。そこに解説者は、日常的によく歩く習慣を加えます。特に食後に少し歩くと消化を助け、内臓の負担を減らします。

「真に優れた思想はすべて歩くことから生まれている」

ニーチェのこの言葉が示すように、歩くことは体だけでなく思考にも好影響を与えます。食後すぐに横になるより、少し体を動かすほうがいい、というわけです。

「いい死に方」を確信できる生き方

本書が単なる食事法を超えるのは、死生観にまで踏み込むからです。

コルナロ氏は、自分の臨終を「ランプの油がなくなるように穏やかなもの」と予感していました。病気の原因が日々取り除かれているので、苦しい病死ではなく、眠るような自然死を迎えられると確信していたのです。

そして実際、彼は予感どおり102歳で穏やかに息を引き取りました。

「わたしはこれまで、老年というものが、これほど素晴らしいものとは知らなかった」

官能的な欲望が弱まる老年こそ、理性的な生活へ切り替える好機。若い頃には気づかなかった「妙なる喜び」に満ちている、と彼は言います。老いを衰えではなく、到達点として描く。それが本書のいちばん温かいメッセージです。

明日から何を変えるか

コルナロ氏の食事量をそのまま真似るのは難しいかもしれません。でも、方向性は今日から取り入れられます。

1. 満腹になる前に箸を置き、「少し食べたい」を残して食卓を離れる 毎日のこの一手が、体質を根本から変えていきます。

2. 主食を白米や白パンから、玄米や全粒粉に変える 砂糖とトランス脂肪酸を減らし、穀菜食に近づける第一歩です。

3. 食後に少しだけ歩く 消化を助け、内臓を休ませる。机に向かいっぱなしの日こそ意識します。

おわりに

この本を読んで、私がいちばん考えさせられたのは「引き算の健康法」という発想でした。

サプリを足す、栄養を足す、品目を足す。健康法はいつも「足す」方向に向かいがちです。でもコルナロ氏が500年前にたどり着いたのは、その正反対でした。減らせば、体は勝手に整う。

今日の夕食。いつもより少しだけ早く、箸を置いてみませんか。


合わせて読みたい

『「ファスティング」が、体と脳を変える科学』 本書の「極少食」と通じる、食べない時間が体と脳にもたらす変化を科学的に掘り下げています。少食の効果を現代の研究で確かめたい人に。

『世界最新の太らないカラダ』ジェイソン・ファン 「カロリーを減らしても痩せない」謎に、インスリンの視点から答える一冊。本書の量の話を、現代栄養学の角度から補えます。

『最高の体調』鈴木祐 現代人の不調を「進化のミスマッチ」と捉える本書。コルナロ氏の穀菜食や少食が、なぜ人間の体に合うのかを進化医学で理解できます。


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