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『トロント最高の医師が教える 世界最新の太らないカラダ』ジェイソン・ファン氏|太るのは意志のせいではなく、ホルモンのせいだった

健康・メンタル ✍ ジェイソン・ファン氏
約8分で読めます

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『トロント最高の医師が教える 世界最新の太らないカラダ』
目次

食べる量を減らした。ジムにも通った。なのに、体重が落ちない。

その失敗を、あなたは「意志が弱いから」だと思っていませんか。本書は、その自己嫌悪を真正面から否定するところから始まります。痩せられないのは性格のせいではなく、体の中で起きているホルモンの異常のせいだ──と。

著者のジェイソン・ファン氏は、トロントで活動する腎臓病の専門医です。末期腎不全の最大の原因が2型糖尿病だと気づいたところから、肥満の根っこにある「インスリン」というホルモンにたどり着きました。

原題は『The Obesity Code(肥満の暗号)』。長年信じられてきたカロリー神話を、人体のメカニズムから一枚ずつ解体していく一冊です。

読み終えると、ダイエットという行為そのものの捉え方が静かに上書きされます。

図解

この本がひっくり返す「カロリー神話」

著者がまず壊しにかかるのは、「食べる量を減らして運動量を増やせば痩せる」という、誰もが疑わなかった黄金律です。

なぜそれが間違いなのか。理由はシンプルで、摂取カロリーを減らすと、体は消費カロリーも一緒に減らしてしまうからだといいます。「摂取カロリーを減らせば体重が減る」という理論は、その根幹の仮定がそもそも崩れている、というのが著者の指摘です。

この主張は理屈だけではなく、過去の有名な実験で裏づけられています。1944年のミネソタ飢餓実験では、36人の男性に半年間1570キロカロリーという少ない食事を課したところ、安静時の代謝量が40%も落ちました。

被験者は常に寒がり、心拍数も体温も下がり、髪が抜け、食べ物のことばかり考えるようになった。そして実験後、あっという間に以前より太ってしまったのです。

逆に1960年代のシムズ教授の過食実験では、1日4000〜10000キロカロリーを無理やり食べさせると、予想に反して太りにくく、代謝が50%も上がって余分なカロリーを燃やそうとし、実験後は努力なしに元の体重へ戻りました。

体重は足し算引き算では決まらない。体は、ある一定の体重を必死に保とうとする。ここが本書の出発点です。私たちが「意志でカロリーを管理する」と思っていた裏側で、体は淡々と帳尻を合わせていた。この事実を知るだけでも、過去のダイエットの敗北が違って見えてきます。

肥満の黒幕は「インスリン」というホルモン

では何が体重を決めているのか。著者の答えがインスリンです。

インスリンは膵臓から出るホルモンで、血液中の糖を細胞に取り込ませる働きをします。同時に、余ったエネルギーを脂肪として蓄える「肥満ホルモン」でもある。

証拠として著者が挙げるのが、肥満患者にインスリンを多量投与した実験です。食事量を変えなくても、インスリンを足すだけで体重が平均4.5キロ増えた。

ホルモンが太らせている、という主張がここで一気に現実味を帯びます。

ここで本書の核になる概念が登場します。脳の視床下部が「維持しようとする体重」をあらかじめ決めているという、体重の設定値(セットポイント)の考え方です。インスリンはこの設定値のつまみを回す役割を持ち、高い状態が続くと、体は代謝を落としてでも太った状態を守ろうとします。

だから著者は、過食と肥満の因果がそもそも逆だと言い切ります。

私たちは食べ過ぎるから太るのではない。太っているから食べ過ぎるのだ

(ジェイソン・ファン『トロント最高の医師が教える 世界最新の太らないカラダ』より)

設定値が高く書き換えられているから、体は空腹のサインを送って食べさせようとする。食べ過ぎは原因ではなく、結果だったという視点の転換です。この一本の線で、なぜ短期のダイエットがリバウンドするのか、なぜ意志の力では勝てないのかが説明されていく。

長年自分を責めてきた人ほど、ここで肩の力が抜けるはずです。

抜け出せない悪循環「インスリン抵抗性」

設定値を上げ続ける真犯人が、インスリン抵抗性です。

頻繁な食事や糖質の摂りすぎでインスリンが常に出続けると、体がインスリンに反応しにくくなる。効きが悪くなった分を補おうと、体はさらに大量のインスリンを分泌します。すると設定値はもっと上がり、もっと太る。この自己増殖する悪循環こそが肥満の根本だと著者は言います。

ここが、糖質制限だけでは足りない理由でもあります。炭水化物を減らせばインスリンの分泌は一時的に下がる。けれど、長年かけて染みついた「抵抗性」そのものは、それだけでは改善しない。

だから抵抗性を断ち切るには、もう一つの軸が必要になる。それが「いつ食べるか」です。本書はこの先で、食べる中身と食べるタイミングという二つの軸を立て、肥満という現象を立体的に攻めていきます。

「何を食べるか」──敵と味方を見分ける

本書のフレームワークは、太らない食事を二つの問いに分けます。「何を食べたらいいか」と「いつ食べたらいいか」。この二本立てが本書の背骨です。

まず「何を食べるか」。著者が最悪の食品とするのが、添加糖、とりわけフルクトース(果糖)です。砂糖や「果糖ブドウ糖液糖」に含まれる果糖は肝臓に直接運ばれて脂肪肝を引き起こし、インスリン抵抗性の直接の原因になる。

加糖飲料を毎日1杯飲むだけで2型糖尿病のリスクが83%高まるというデータも示されます。白いパンや白米のような精製炭水化物も、食物繊維という「解毒剤」を取り除かれているぶん危険で、インスリンを急上昇させます。

著者いわく、本質的に悪い食べ物などなく、悪いのは「加工された食品」だけだ、と。

逆に味方になるのが、オリーブ油やナッツ、アボカドといった天然の「いい脂肪」です。これらは三大栄養素の中で最もインスリンを刺激しないとされ、避けるべき敵から一転、頼れる存在として描き直されます。食物繊維や酢も、糖の吸収をゆるやかにする予防因子として働く。

意外な悪役が人工甘味料です。カロリーゼロでもインスリン値を上げ、脳の報酬系を満たさないため、かえって甘いものへの欲求を強める。ダイエット飲料を毎日飲む人は肥満リスクが47%高いというデータも添えられ、著者は「まったくメリットがない」と切り捨てます。

そしてもう一つの落とし穴が、置き換えの発想です。野菜を「プラス」しても痩せない。悪い食べ物を野菜に「置き換える」ことで初めて効く。足すだけでは意味がないのです。

「いつ食べるか」──現代人は18時間インスリンを出しっぱなし

そして本書がもっとも独創的なのが、二つめの「いつ食べるか」です。

私たちは「こまめに食べると代謝が上がる」と信じてきました。著者はこれを否定します。1日3食に間食を足すと、1日中インスリンが分泌され続け、それこそがインスリン抵抗性を生む最大の原因になるからです。

著者によれば、現代人はおよそ18時間インスリン分泌が多い状態にあり、分泌が少ない時間はわずか6時間ほどしかない。アメリカでは1977年にほとんどの人が1日3回の食事だったのが、2003年には5〜6回食べるようになった。

インスリンが休む時間が消えたわけです。

「朝食はしっかり食べたほうが痩せる」という神話も同様に崩れます。お腹が空いていないのに無理に食べれば、摂取量とインスリン分泌をただ増やすだけ。本書のルールはシンプルで、空腹でないなら何も食べなくていい、というものです。

そこで登場する解決策が、間欠的ファスティング(断食)です。夕食から翌日の夕食まで24時間あけたり、食事を1日8時間以内に収める16時間ファスティングなど、意図的に「食べない時間」を作る。

これによりインスリン値が劇的に下がり、抵抗性が改善し、脂肪が燃え始めます。断食中も水・コーヒー・緑茶は飲め、空腹の波は塩を少し入れた自作のだし汁でやり過ごせる。

サプリも特別な食品もいらない、お金のかからない方法だというのが著者の推しポイントです。「筋肉が落ちる」「頭が回らなくなる」という不安も神話だとされ、断食中はむしろ成長ホルモンが倍増して筋肉や骨は維持され、脳は脂肪由来のケトン体を使い始めて知的に鋭くなることさえあると説明されます。

食事だけではない──ストレスと睡眠も人を太らせる

もう一つ、本書を単なる食事本と一線を画させているのが、肥満を「多因子的な疾患」として捉える視点です。

カギを握るのがストレスホルモンのコルチゾール。慢性的なストレスで血中の糖の値が高いままになり、それが続くとインスリンの多量分泌を招いて太りやすい体になります。

睡眠不足も強いストレスとしてコルチゾールを増やす。5〜6時間しか眠らない人は体重増加リスクが50%高く、睡眠を4時間に制限しただけでインスリン感受性が40%も下がったというデータは強烈です。

食事を整えても痩せない人が、次に疑うべき場所がここにあります。

運動についての評価も独特です。運動で燃やせる脂肪は消費カロリー全体のわずか5%が限界で、直接の減量効果はほとんどない。3万9876人の女性を10年追った研究でも、よく運動するグループに体重の減少は見られませんでした。

それでも運動は、ストレス(コルチゾール)を減らすことで肥満予防に役立つ。運動は減量の道具ではなく、ホルモンを整える道具として捉え直すべきだ、というわけです。

明日から始める、現実的な順番

本書を生活に落とすなら、一気に全部ではなく、効くものから順に手をつけるのが現実的です。著者は実践の核として、添加糖を減らす/精製穀物を減らす/たんぱく質を摂りすぎない(総カロリーの20〜30%程度に抑える)/いい脂肪を増やす/食物繊維と酢を増やす、という五つのステップに間欠的ファスティングを組み合わせることを挙げます。

最初の一歩としておすすめできるのは、まず間食と「ながら食い」をやめてインスリンを休ませること。次に添加糖と人工甘味料を切り、ダイエット飲料も水・炭酸水・お茶に置き換える。

そして「時間が来たから」ではなく「本当に空腹か」で食べるかを決める。慣れてきたら、夜7時から翌朝7時まで食べないといった12〜16時間の空白を作り、週に2〜3回は24時間へ伸ばしていく。

1番から順に習慣化していくくらいでちょうどいい、という設計です。

読み終えて残るのは、カロリーの数字ではありません。痩せられなかったのは意志が弱かったからではない、という静かな赦しと、それなら戦い方を変えられるという手応えです。

脂肪の蓄積がホルモンで調節されているのなら、肥満はカロリーの摂り過ぎではなく、ホルモンの異常によって引き起こされるものだと言い切れる。これが本書の最終的な結論です。

カロリーと格闘する代わりに、インスリンを休ませる。何を食べるかに加えて、いつ食べないかを設計する。今日の昼、お腹が空いていないなら、一度「食べない」を選んでみてほしい。その小さな空白から、本書の言う変化は始まります。


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