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『リード・ザ・ジブン』宇佐美潤祐さん|戦略の正しさより、それを実行する「人」を変える

リーダーシップ・組織 ✍ 宇佐美潤祐さん
約9分で読めます

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『リード・ザ・ジブン』
目次

優れた戦略を提案したのに、現場が動かず、結局なにも変わらなかった。

著者の宇佐美潤祐さんは、戦略コンサルタントとして何度もこの場面に立ち会ってきました。提言の質が高くても、成果が出ないことがある。逆に、質がそこそこでも大きな成果が出ることがある。その差はどこにあるのか。たどり着いた答えが「人」でした。

『リード・ザ・ジブン』は、ユニクロを展開するファーストリテイリングの人材育成機関で責任者を務めた著者が、属人的とされてきた「実行力」を再現可能な手法に落とし込もうとした一冊です。

タイトルは「自分自身を導く」という意味。過去最高の自分を育て、仲間を育て、最強チームをつくるための、変革の本でした。

図解

戦略の正しさは、成果を約束しない

本書の出発点は、著者がコンサルタント時代に抱えた違和感です。

その違和感には、著者自身の経験から弾き出された数字が添えられています。自分が提言した戦略のうち、質が高くても成果が小さかったケースが全体のおよそ4割。

一方で、提言の出来はイマイチでも、クライアントが「自分事」として取り組んだ結果、大きく化けたケースがある。戦略の質と成果は、思ったほど相関していなかったのです。

私はこの4割という数字に、ひやりとさせられました。コンサルタントが心血を注ぐのは普通「提言の質」です。ところがその質を上げても、成果の半分近くは説明できない。

だとすれば、磨くべきはレポートの精度ではなく、それを受け取った人がどれだけ本気になるか、という別の変数だということになります。

ここから著者は決定的な問いに向かいます。これまで「熱意」や「考え方」として属人的に扱われ、いわばアートの領域とされてきた実行力を、誰でも使えるプロセスに変えられないか。

その答えが「リード・ザ・ジブン」でした。土台には、社会変革リーダーシップを説く野田智義さんの「リード・ザ・セルフ」がある。リーダーシップの根源は、肩書きでも権限でもなく、自分が人生で何を成し遂げたいのかという「志」にある、という考え方です。

それが周囲の共感を呼んで「リード・ザ・チーム」になり、やがて社会へ広がる「リード・ザ・ソサエティ」へとつながっていく。

個人的に唸ったのは、この本が「組織を変える本」の顔をしながら、本当の主語をずっと「自分」に置いていることでした。チームを動かす前に、まず自分を導けるか。そこを外さない潔さがあります。

なぜ今「人の変革」なのか

背景にあるのは、過去の経験が通用しなくなったVUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)の時代認識です。

著者はここで、従来の「バックミラー型経営」の限界を指摘します。過去のデータと事例をファクト&ロジックで分析し「正解」を導く手法は、後ろを見て運転するようなもので、未踏の道では機能しない。代わりに必要なのが「未来志向型経営」で、それを著者は一本の式に落とし込みます。

ありたい姿 - 現状 = 本質的課題

過去の不満をつぶすのではなく、理想の未来から逆算して解くべき課題を定義する。考え方の向きそのものを反転させる発想です。

そのうえで突きつけられる日本の現在地が重い。ギャラップ社の調査で、会社に熱意を持って関わっている(エンゲージしている)と答えた日本の社員はわずか7%。

米国の30%と比べても先進国で最低水準でした。世界の時価総額トップ50に入る日本企業も、平成元年には32社あったのが、平成30年にはトヨタ1社だけに減っている。

「会社が主、個人が従」という相互依存の構造が、個人の自律性を削いできた——だから人を変えるところから始めるしかない、という主張には説得力があります。

ただ私としては、エンゲージメントの低さを個人の自律の問題に寄せきってよいのかは留保したい。賃金や雇用の構造といった土台の話とセットで読むほうが、現実的でしょう。

「自分事化」と「絆づくり」のかけ算

本書の背骨にあるのが、この式です。

自分事化 × 絆づくり = 飛躍的な成果

自分事化とは、個人の「志」を会社の「ありたい姿」と重ね、仕事に自分なりの意味を見出すこと。これができると、指示を待つ人から、自ら課題を見つけて動く「自律自走人材」へと変わっていきます。

ここで面白かったのが、やりがいと成果の「順番」をめぐる指摘です。私たちはつい「言われたことを頑張る→成果が出る→幸せになれる」と考えますが、本書はポジティブ心理学を引きながら、その矢印はむしろ逆だと言う。

先に「自分でやりたいことをやる(=幸せ)」があって、成果は後からついてくる、と。やりがいが原因で、成果が結果なのです。この一点が腑に落ちると、「やらされ感をどう外すか」という問いの切実さが、急に自分ごとになります。

もう一方の絆づくりは、互いの志や価値観、過去の挫折といった「気恥ずかしいもの」を開示し合うこと。表面的な自己紹介ではなく、青臭い思いをさらけ出すことが、本音で言い合えるチームの土台になる、と著者は実感を込めて語ります。

そして掛け算であることが肝で、片方がゼロなら成果もゼロ。主体性と信頼は、どちらか一方では足りない。足し算ではなく掛け算にした点に、著者の本気が出ていると思いました。

志を見える化する「三種の神器」

この自分事化と絆づくりを、精神論で終わらせないための道具立てが「三種の神器」です。

一つ目は人生曲線。横軸に時間、縦軸にモチベーションをとり、幼少期から今までの浮き沈みをグラフにして、「自分は何を大切に生きてきたか」を掘り起こす。

これをチームで共有しフィードバックし合うと、相手の歩んできた道が見えてリスペクトが生まれ、一気に距離が縮まります。二つ目はEGAKUと呼ばれる、自分を突き動かすものを右脳でパステル画にして可視化するワークショップ。

言葉にならない深層を絵として外に出し、互いに鑑賞し合うことで自己発見につなげます。三つ目はMy Aspiration。アリストテレスの三要素ETHOS(信念)・LOGOS(専門性)・PATHOS(共感)を埋めて「志」を一文に結晶化させるもので、著者はここで「嘘でもいいから、非常識と思えるほど高い目標を立てよ」と促します。

机上の空論ではない証拠として、ある関西の上場企業の経営会議でEGAKUを実施した話が紹介されます。最初は「しらふでパンツを脱がされた」と抵抗していた専務が、互いの作品と思いを共有するうちに信頼を築き、発言が一部門代表の視点から全社経営者の視点へ変わっていったといいます。

手を動かしてこそ効くタイプの章ですが、効能の方向はこのエピソードに凝縮されています。

ユニクロの育成思想——「大きい服を着せる」

第3章は、著者がファーストリテイリングで見た人材育成の現場で、本書のなかでも特に読み応えがあります。

象徴的なのが「大きい服を着せる」という考え方。柳井正社長は「人は25歳になればどんな挑戦にも成果を出せる力を備えている」と信じ、若手に身の丈よりだいぶ大きな試練をあえて与える。もがき苦しむ経験を通じて殻を破らせる、という発想です。

紹介される再起のエピソードが、とにかく生々しい。中国事業の立ち上げで実質撤退という失敗をした潘寧さんは、退場ではなく香港事業の責任者として再チャレンジの機会を与えられ、ターゲットを大衆層から中産階級へ切り替える「顧客発見」をする。

それが現在5025億円規模に育ったグレーターチャイナ事業の出発点になりました。野菜事業で8億円の特別損失を出して辞表を持ってきた柚木治さんには、柳井社長が「損失分はきっちり返してね」と引き留め、のちに売上2387億円のジーユーを任せた。

失敗が終わりではなく、次の挑戦の入り口になっている。桁の大きさが、この育成思想が建前ではないことを物語ります。

この土台にあるのが、ユニクロ流のバイブル『経営者になるためのノート』で、経営者を「成果をあげる人」と定義し、仕事は計画1割・実行9割だと説く。立派な計画も実行しなければ無価値だという思想が、ここでも貫かれています。

失敗の責任を、定義し直す

本書はさらに「失敗の責任をとる」という言葉そのものを定義し直します。

普通、私たちは「責任をとる=途中でやめて謝る」と捉えます。でも『経営者になるためのノート』の定義は違う。最後まで試行錯誤を尽くすこと、原因を徹底的に探求して学びを得ること、そしてそれを次に活かして結果を出すこと——これが責任をとるという意味だ、と。

この再定義があるから「敗者復活ありの挑戦風土」が成り立つ。学んで次に活かせる人には、何度でも挑戦の機会を与えられるわけです。日本企業にありがちな「同期横並び意識」や「失敗悪玉論」を内側から溶かす、静かな名所だと感じました。

組織を変えるとき、誰から動かすかも具体的です。著者は2:6:2の法則を使う。自ら燃える「自燃性人材」が約2割、火をつければ燃える「可燃性人材」が約6割、燃えにくい「不燃性人材」が約2割。

狙いは真ん中の6割で、まず2割の自燃性人材を火つけ役(チェンジエージェント)に育て、彼らを通じて6割へ広げていく。全員を一度に変えようとしない現実的なステップで、ここは多くの組織変革論と響き合うところです。

心理の「箍」を外す

組織の話のあと、本書はもう一度「自分」へ戻ってきます。

印象的なのが「根拠のない自信」をめぐる議論です。脳には網様体賦活系(RAS)という、自分の思い込みに沿って情報を選り分けるフィルターがある。

ならば、その仕組みを逆手にとって自分への期待値を書き換えてしまえばいい。ネガティブな考えがよぎったらポジティブに捉え直す、寝る前に一日を振り返って明日のポジティブな行動を考える——こうした習慣をある研究では32日続けるとRASが変わるといいます。

ここで引かれる、1マイル4分の壁の逸話が効いています。人間には破れないと信じられていた記録を、1954年にロジャー・バニスターが破ると、その後わずか1年で23人もが同じ壁を越えた。

制約をかけていたのは記録ではなく、「自分には無理だ」という心理の箍(たが)だった。たがが外れた瞬間、ポテンシャルは一気に解き放たれる。

加えて、毎晩鏡の前で「思い描く最高にカッコいい自分」と「今日の自分」を比べ、何が足りなかったかを問い直す——あるユニクロの上席執行役員が続けているという、地味な反復の習慣も紹介されます。

派手さはないけれど、自己変革はこの繰り返しでしか進まないのだ、と思わされました。RASや32日という数字の科学的厳密さはひとまず脇に置くとしても、「期待が情報の見え方を変える」という芯は、日々の習慣としては素直に試す価値があります。

40代・50代への、静かなエール

夢とは自分のためのもので、志とは他者のためのもの

本書を貫くこの一文が、終盤で中年期へのメッセージへと重なっていきます。

周囲を本気で巻き込む力は、自分の利益(夢)からは生まれにくく、誰かのため・社会のためという利他の心(志)から生まれる。著者は、日本の幸福曲線が欧米と違う形をたどりやすいことも指摘します。

欧米は40代で底を打って再び上がるU字型なのに対し、日本は退職後に「人に認められたい」を満たす場を失い、会社に依存しきった右肩下がりのL字型になりがちだ、と。

それを避けるには、40代前後で自らの志を再発見する「ミドル脱皮」が要る。

その実践ツールが「ジブン・チェンジ・プラン」です。ありたい自分と現状のギャップを認識し、何を変え、どう行動するかを描く。そのプランを見て「ワクワク」が湧くかどうかが、方向が合っているかのリトマス紙になる。

著者自身、57歳でUNLOCK POTENTIALを起業してこれを実践した当事者であり、渋沢栄一の「四十、五十は洟垂れ小僧」という言葉を力強いエールとして引いています。

だからこそ言葉に重みがある。

この本が向いているのは、提言の質は高いのに成果につながらず悩むリーダーや人事担当者、そして「会社人生、このままでいいのか」というモヤモヤを抱える人です。

逆に、深い内省や自己開示にどうしても抵抗がある人、手早く使えるマネジメントの小技だけがほしい人には、やや重く感じられるかもしれません。本書はその抵抗も織り込んで、火のつけ方から書いている点が誠実でした。

読み終えて残るのは、フレームワークそのものではありませんでした。正しい戦略を持つことと、それを人が実行することは別の問題なのだという気づき。そして、組織を変える前に、まず自分を導けるか——という問いです。

週末に半日だけ静かな時間をとって、人生曲線を一本描いてみる。本書の効果は、たぶんそこから静かに立ち上がってきます。


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