最強の保険は、すでに入っている健康保険だった
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大病をしたら医療費で家計が壊れる。多くの人が、そう思っています。
ところが日本には高額療養費制度があります。医療費が一定額を超えた分は戻ってくる仕組みで、一般的な収入の会社員なら、自己負担は月におよそ9万円弱に収まります。
後田亨さんと永田宏さんの『いらない保険』は、この事実から議論を始めます。最強の保険は、すでに給料から引かれている健康保険だ、と。
私はこれを読むまで、公的制度の中身をほとんど知りませんでした。知らないまま、不安のほうにお金を払っていた。
今日は、保険という商品の構造を見ていきます。
公的保険の実力を、たいていの人は知らない
まず、会社員が使える公的な備えを並べてみます。
高額療養費制度。医療費の自己負担には上限があり、超えた分は払い戻されます。
傷病手当金。病気やけがで働けなくなったとき、健康保険から給付が出ます。収入が完全に途切れるわけではありません。
この2つを知っているかどうかで、必要な民間保険の量が変わります。
たとえば「がんになったら数百万円かかる」という不安。実際には、公的制度が効く範囲がかなり広い。もちろん差額ベッド代や先進医療のように対象外の費用はありますが、莫大な自己負担が常に発生するわけではありません。
もうひとつ、著者たちが挙げるのは民間医療保険の「もらいにくさ」です。入院日数は短くなり、内視鏡やロボット手術が普及した。給付の条件が入院日数や手術の種類に紐づいていると、想定していた場面で給付が下りないことが起きます。
長期契約の宿命でもあります。後田さんたちは、これを「陳腐化」と呼び、鮮やかな比喩で説明しています。数十年後の自分に合う服を、今、選べるだろうか、と。
医療技術は変わります。契約は変わりません。
保険料の約3割は経費。だから貯蓄には向かない
次は、商品としての構造です。
『いらない保険』によれば、保険料には約3割の経費が含まれています。手数料や販売コストです。
ここから、ひとつの結論が出ます。貯蓄や運用を目的に保険を使うのは、割に合わない。
たとえば、同じ金額を積み立てるとします。片方は貯蓄型保険、もう片方は確定拠出年金やつみたてNISA。前者は最初に3割近い経費を引かれた残りが運用に回ります。後者にも手数料はありますが、桁が違います。
「保険で貯める」は、ひとつの商品に保障と貯蓄を混ぜた形です。混ぜると、どちらの条件が悪いのか見えなくなる。
両@リベ大学長さんも『本当の自由を手に入れるお金の大学』で、同じ方向のことを書いています。民間保険を「カジノの胴元」にたとえ、必要なのは掛け捨ての死亡保険、火災保険、自動車保険の対人対物の3つだけだと整理しています。
ここは断定の強い主張なので、そのまま従うべきとは言いません。ただ、保障と貯蓄を分けて考えるという原則は、誰にとっても点検の価値があります。
入るべきかは、4つの条件で決まる
では、どう判断するか。
『いらない保険』が示す軸は4つです。緊急性、重大性、経済合理性、不確実性。
この4つで見ると、備え方が分かれます。
現役世代の死亡。緊急性が高く、重大で、貯蓄では到底埋まらない。だから保険が向きます。
医療費。公的制度がかなりの部分を吸収するので、重大性は思ったほど高くない。貯蓄で対応できる範囲に収まりやすい。
介護。数十年先の話で、不確実性が高すぎる。今の商品設計が将来の状況に合っている保証がありません。
考え方を一言にすると、こうなります。保険は「起きる確率は低いが、起きたら生活が終わる」ことに使う道具です。
逆に言えば、確率が高いことや、起きても貯蓄で吸収できることに保険を使うと、手数料のぶんだけ確実に損をします。宝くじと同じで、胴元の取り分は必ず引かれるからです。
ただ、この整理には前提があります。著者たちの議論は、健康保険に入っている会社員が中心です。傷病手当金のないフリーランスや自営業者は、条件が変わります。小規模企業共済など、別の備えを検討する必要があります。
明日からできること
誤解:不安が大きいほど、手厚い保険に入るべきだ → 不安の大きさと、実際のリスクの大きさは一致しません。まず公的制度でどこまで守られているかを確認してからでないと、必要量が決められません。
正しいアプローチ:加入中の保険を、4つの条件で仕分けする → 契約している保険を紙に書き出し、それぞれ「起きる確率」と「起きたときに貯蓄で埋まるか」を書く。埋まるものは、保険である必要が薄い候補です。
もうひとつ、今日できることがあります。
勤務先の健康保険組合のサイトを開いて、高額療養費と傷病手当金の内容を読む。10分で終わります。この10分をやっていないまま保険を選ぶのは、値札を見ずに買い物をするのに近い。
固定費の見直しとしても効率がいい作業です。両学長さんは、人生の6大固定費として通信費、光熱費、保険、家、車、税金を挙げています。保険はこの中でも、一度直せば毎月効き続ける項目です。
なお、ここに書いたのは一般的な考え方です。制度の内容や上限額は改定されますし、家族構成や持病、就業形態によって最適解は変わります。実際の解約や乗り換えを決める前に、最新の制度を確認し、必要なら特定の商品を売らない立場の専門家に相談してください。
おわりに
保険は、安心を売る商品のように見えます。
でも中身は、確率と手数料でできています。確率を知り、手数料を知れば、どこに使うべき道具かがはっきりする。
不安に払うのをやめると、家計に余白が戻ってきます。
この記事で参考にした本
『いらない保険 生命保険会社が知られたくない「本当の話」』後田亨、永田宏 → 公的保障の実力、保険料の経費構造、そして緊急性・重大性・経済合理性・不確実性という判断軸をくれた一冊。
『本当の自由を手に入れるお金の大学』両@リベ大学長 → 貯める・稼ぐ・増やす・守る・使うの5つの力。6大固定費の見直しという実務の順番がわかる。
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