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ブクドリ | BOOK DRIP

「100万円の利益」は、良いニュースか悪いニュースか

約4分で読めます 思考法・問題解決
目次

この問いに即答できる人は少ないと思います。

正解は、「比較する対象が何かによって変わる」です。

目標が50万円なら2倍達成で大成功。前月が500万円だったなら8割減で危機的状況。同業他社が5億円を稼いでいる中での100万円なら、存在感がない。

ほぼすべての数字は、比較があって初めて意味を持ちます。それにもかかわらず、多くの職場では数字を単体で眺め、「多い/少ない」を判断した気分になっています。これが、データを活用しているようで活用できていない状態の正体です。

数字が「判断した気分」を生む

データを見た後、何も変わらない。そういうミーティングは珍しくないはずです。

「売上は先月から1.5%増加しました」→ 「そうですか」→ 次の話題へ。

なぜこうなるのか。答えは単純で、その数字だけでは「良いのか悪いのか」がわからないからです。1.5%増は好調の証拠かもしれないし、目標が10%増だったなら未達もいいところです。

中尾隆一郎さんは著書の中で、ビジネスの現場では「数字を見ること」と「数字で判断すること」の間に大きなギャップがあると指摘しています。多くの人は「データを確認した」という行為自体に満足し、そこから具体的な行動判断に至らない。

これは怠慢ではなく、「比較の設計」がされていないことの問題です。何と比べるべきかが決まっていないと、どんな数字を見ても「そうですか」という反応にしかなりません。

3種類の比較で、数字は意味を持つ

数字に意味を与える比較には、主に3つのパターンがあります。

1. 目標比(計画との比較) 設定した目標に対して、今どの位置にいるか。「今月の受注件数は48件」という数字が、目標40件に対してなら達成。目標60件に対してなら未達。同じ数字でも意味が逆転します。

2. 時系列比(過去との比較) 前月、前四半期、前年同期との比較。「新規顧客数が20件」という数字も、前月30件から落ちているのか、前月10件から伸びているのかで、次の行動が変わります。

3. 外部比較(業界・競合との比較) 同じ業界や規模の他社と比べたとき、自社はどの位置か。粗利率30%が高いか低いかは、業界平均を知らないと判断できません。

この3つを設計せずにレポートを作ると、「先月との比較のみ」のような視野の狭いダッシュボードが生まれます。先月比で1%改善しているように見えても、業界全体が10%改善している中では「遅れている」のかもしれない。

「3つの問いかけ」で数字を動かす

比較によって数字に意味を持たせた後、それを行動につなげるためのフレームがあります。

山本康正さんは「データリテラシーを高めるための3つの問いかけ」として以下を提示しています。

「何が起きたのか?(把握)」 数字が示している事実を確認する。前月比で20%低下している、という事実の確認です。

「なぜそうなったのか?(因果)」 その変化の原因を探る。新規顧客が減ったのか、既存顧客の離脱が増えたのか、それとも季節的な要因か。

「どうすればいいのか?(予測・提案)」 次の行動を決める。離脱が原因なら、どの顧客が、いつ、なぜ離れたのかを特定して対策する。

「何が起きたか」だけ把握して終わるミーティングは、最初の問いにしか答えられていません。「なぜ」と「どうすれば」まで進んで初めて、数字は組織の行動を変えるものになります。

逆に言えば、この3つの問いを毎回たどることを習慣にするだけで、「データを見る会議」が「決断をする会議」に変わります。

具体例として、あるECサイトの月次レビューを考えます。

把握:「今月の購入率が先月より0.3%低下した」 因果:「スマートフォンからの購入率は変わっていないが、PCからの購入率が1.2%低下している」 提案:「PCユーザーのカート離脱ページを確認すると、決済フローに追加されたステップで離脱が集中している。このステップを削除する」

この3ステップを踏むことで、0.3%という数字が具体的な改善施策に変わります。

「比較の設計」を先に決める

実務での応用として最も効果的なのが、「レポートを作る前に比較設計を決める」という習慣です。

誰かに数字を報告する前に、以下を確認する:

  • この数字を何と比べると、良いか悪いかが判断できるか
  • 時系列で見るなら、どの期間の比較が意思決定に最も有効か
  • 外部との比較が必要なら、どのベンチマークが適切か

この設計を先にせずにデータを集め始めると、「後でどう使うかわからないデータが大量に蓄積される」状態になります。外資系データサイエンティストの間では「取得されたデータの9割は使えない」という認識が一般的ですが、その原因の多くは「何と比べるか」を決めずに収集したことにあります。

比較対象が決まれば、集めるべきデータが決まる。集めるべきデータが決まれば、分析の目的が明確になる。目的が明確になれば、ミーティングで話すべきことが絞れる。


数字は、事実を教えてくれます。しかし、「良いのか悪いのか」は教えてくれません。

それを教えるのは、比較の設計です。

「100万円の利益」がどんな意味を持つかは、何と比べるかで決まる。この一点に気づくだけで、数字を見る目がまったく変わります。


この記事で参考にした本

『「数字で考える」は武器になる』中尾隆一郎さん → 比較の重要性と計数感覚の鍛え方。「数字の理解」と「数字での判断」の間のギャップを埋める実践的なアプローチ。

『外資系データサイエンティストの知的生産術』山本康正さん → 「何が起きたのか/なぜ/どうすれば」という3つの問いかけフレームワーク。データをビジネスの行動変容につなげる思考プロセス。


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