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『残酷すぎる成功法則』エリック・バーカー氏|成功法則の9割は、あなたには当てはまらない

キャリア・働き方 ✍ エリック・バーカー氏
約8分で読めます

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『残酷すぎる成功法則』
目次

「成功するならエリートコースを歩め」「勝者は決して諦めない」「いい人は最後に損をする」。

こういう言葉を、私たちはどこかで信じています。でも、その根拠を聞かれたら答えられません。誰かの成功体験談だったり、偉人の逸話だったり。要するに「宝くじの当選者が、宝くじを買えば億万長者になれると言っている」ようなものなんです。

エリック・バーカー氏の『残酷すぎる成功法則』は、世間にあふれる成功法則を一つずつエビデンス(科学的なデータや証拠)で検証した本です。監訳は橘玲さん。

原題は「Barking Up the Wrong Tree」、つまり「間違った木に向かって吠えている」。その的外れな努力をやめるための一冊です。

図解

こんな人におすすめ

特に刺さるのは、こんな場面に心当たりのある人だと思います。真面目に頑張ってきたのに職場で抜きん出る感覚がない人。親切にしているのに損な役回りばかり引き受けてしまう人。

「ここで諦めたら負けだ」と思って成果の出ないことを続けている人。そして、自己啓発本を何冊も読んだのに結局どれが正しいのか分からなくなった人。

精神論ではなく、データで「努力の方向」を確かめたい人に効きます。逆に、「これさえやれば100%成功する」という断言がほしい人には向きません。本書はそういう魔法の杖を、最初から放棄しているからです。

この本が壊そうとしている思い込み

著者がいちばん強く拒むのは、「普遍的な成功法則は存在する」という前提です。

ある環境で武器になる特性が、別の環境では致命傷になる。だから本書は「どんな状況でも成功する魔法の法則」を探しません。代わりに、自分の強み(あるいは欠点)を理解し、それがプラスに評価される環境を意図的に選ぶこと。それを成功の鍵だと言い切ります。

論の進め方は、裁判に似ています。まず世間の常識を取り上げ、そのメリットをデータで示す。次に、真逆の主張が成功をもたらす研究を出して常識を揺さぶる。

そして両者を統合して現実的な結論を導く。賛否を検証してから判決を下すような、弁証法的な構成です。読んでいて気持ちがいいのは、著者が「結論ありき」で都合のいいデータだけを並べないからでしょう。

私がこの本でいちばん独創的だと感じたのも、自己啓発に進化生物学や統計学を持ち込んだ点でした。ネガティブに見える特性が特定の文脈で圧倒的な力を持つ、という発想は、ただの自己肯定とはまるで違います。

「あなたのままでいい」ではなく「あなたが輝く文脈を探せ」。優しいようで、かなり戦略的な提案なんです。

エリートが世界を変えられない理由

第1章のテーマは「エリート vs はみ出し者」です。ここでいきなり、私たちの常識が揺さぶられます。

高校を首席で卒業した生徒を追跡した調査では、95%が大学に進み、60%が大学院の学位を取り、40%が弁護士や医師になりました。文句なしに立派な人生です。

ところが、世界を変革するレベルの成功を収めた者はゼロでした。理由はシンプルで、学校は「言われたことをきちんとこなす能力」に報い、全科目でそつなく点を取るゼネラリストを評価する場所だから。

一方で実社会のトップに立つのは、特定分野に全精力を注ぐスペシャリストや、ルールを破ってシステムごと変えてしまう人なんです。

ここで本書の主役級の概念が登場します。増強装置(インテンシファイア)です。普段は欠点とされる特性が、特定の環境下で圧倒的な強みへ反転するメカニズムを指します。

チャーチルの偏執的な防衛意識は平時には危険人物扱いでしたが、ナチス・ドイツの脅威という極限下では国を救う指導力に変わった。水泳のマイケル・フェルプスの胴長短脚も、陸上では不器用に見えて、水中では最強の推進力を生みます。

本書はこれを「蘭とタンポポ」でも語ります。タンポポはどんな環境でもそこそこ育つ。蘭は劣悪な環境では萎れるが、最適な温室では遥かに見事な花を咲かせる。

多くの「はみ出し者」は、この蘭なのだと。

卓越した人になるには、一風変わった人間になるべきだ。

著者はそう書きます(エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』より)。実際、フォーブス400の富豪のうち58人は大学に行かなかったか中退していて、その平均純資産はアイビーリーグ卒業生より167%高い。

自分の尖った部分を矯正するより、その尖りが武器になる場所を探す。これが本書を貫く一本の背骨です。

「いい人」は損をするのか、しっぺ返しの戦略

ここから先、本書は対立軸を次々と検証していきます。「いい人 vs 嫌なヤツ」では、まず残酷な事実から始まります。短期的には利己的で協調性の低い人のほうが収入が高く、リーダーにもなりやすい。協調性の低い人は年収が約1万ドル多かった、という調査さえあります。

ところが本書はここで反転します。他人に惜しみなく与える「ギバー」を調べると、成績が最下位なのもギバー、最上位なのもギバーだった。同じ「いい人」が、なぜ両極端に分かれるのか。

分かれ目は「自分を守る術」を持っているかどうかでした。最上位のギバーが使っていたのは、ゲーム理論で最強とされるしっぺ返し戦略です。最初は無条件で協力し、裏切られたら報復し、相手が協調に戻ればすぐ許す。

協調を基本にしつつ、カモにはならない。この寛容さと報復の絶妙な配合が、長期では最も強いのです。ちなみに他者への信頼度を10段階で「8」と答えた人の所得が最も高く、「9」以上はむしろ下がる。

与えすぎず、疑いすぎず。成功するギバーは、その中間に立っています。

そして環境の話が鋭い。「あなたが社会の中で置かれている場所より、社会の質のほうが重要だ」。利己主義が蔓延する職場では善人でも不幸になり、悪い従業員がたった一人いるだけでチーム全体の業績は30〜40%下がる、というデータまで添えられます。

諦めることは、れっきとした戦略になる

「やり抜く力 vs 諦める力」も裏切りの連続です。グリット(やり抜く力)が重要なのは確か。海軍特殊部隊シールズの訓練では志願者の94%が脱落しますが、生き残るのは「いつかもっとうまくできるさ」と自分に楽観的な物語を語り続けられた人たちでした。

しかし本書はここでブレーキを踏みます。達成不可能な目標に固執するのは、機会費用の損失でしかない。だから成功者は戦略的放棄を使う。一番大切なものに資源を集中するために、二番目以降をきっぱり諦め、空いた時間で「小さな賭け」を数多く打つ。

マシュマロとスパゲッティでタワーを作る有名な実験で、計画を立てずに「作っては試す」を高速で繰り返した幼稚園児が、計画好きの大人を上回ることがあるのも同じ理屈です。

未知の課題では、知識より「早く失敗して学ぶサイクル」が強い。続ける工夫として紹介される「WNGF」――勝てる(Winnable)、斬新(Novel)、目標(Goals)、フィードバック(Feedback)の4要素で仕事をゲーム化する発想も、地獄をゲームに変えて生還した登山家ジョー・シンプソンの逸話とともに腹に落ちます。

自信より、自分への思いやり

「外向型 vs 内向型」では、世間の思い込みがまた覆ります。成功者に外向型が多いのは事実ですが、歴史を変える業績を残すのは孤独を好む内向型が多い。

チェスや音楽のトッププレーヤーに上達の秘訣を聞くと、90%が「独りで練習すること」と答えました。だから内向型は無理に社交的になる必要はなく、著者の提案は「ネットワーキング」ではなく「友だちづくり」。

打算の人脈ではなく、旧友と旧交を温めることです。

さらに意外なのが「自信 vs 謙虚さ」。自信過剰は現実を見失わせ、他人の意見を聞けなくする最も危険な状態だと著者は警告します。チェスのカスパロフは、コンピューターのバグによる無意味な一手を「高度な戦略」と誤読し、自信を失って敗北しました。

著者の結論は明快で、自信は成功の原因ではなく結果でしかない。だから必要なのは根拠のない自信ではなくセルフ・コンパッション(自分への思いやり)です。

失敗した自分を責める代わりに、親友にかけるような言葉を自分にかける。すると落ち込みが減り、かえって再挑戦への意欲が高まる。生涯ただ一人、四六時中あなたに寄り添えるのは、あなた自身だ。この一文が章の核心でした。

全部は手に入らない、という前提

最後の対立軸は「仕事バカ vs ワーク・ライフ・バランス」です。ここで著者は、ある種の諦めを促します。すべてを最大化することはできない、と。

アインシュタインは家庭を犠牲にして偉業を成し、息子とは30年以上会いませんでした。一つの尺度だけで人生を測る生き方を、著者は「崩壊戦略」と呼びます。

代わりに提案されるのがビッグ・フォー(幸福の四要素)。幸福感(人生を楽しんでいるか)、達成感(何かで抜きんでているか)、存在意義(身近な人に良い影響を与えているか)、育成(誰かの未来の成功を助けているか)。

この4つにどれだけ時間を割いているかを記録し、偏りを直す。年に12万1000ドル余分に稼がないと幸福度は上がらないというデータがある一方、感謝と幸福の相関は0.7に達します。

これは喫煙とガンの相関より高い。お金より、満たし方のバランスのほうが効くのです。

そして本書は、長期研究の結論をこう置きます。キャリアやお金以上に、人生の幸福と成功を決めていたのは「他者との良好な関係」だった、と。タイトルの「残酷さ」は、私たちが信じたい物語を容赦なくデータで切り崩してくる点にありますが、その先で差し出される答えは、案外あたたかいものでした。

おわりに

本書を読み終えて残るのは、「正解の成功法則」ではありません。

残るのは、問いです。自分はどんな特性を持っているか。それが武器になる池はどこか。自分にとっての成功とは、誰の基準で測るものか。

世間の常識を一度脇に置いて、自分の基準で人生を選ぶ。他人から借りた物差しで「成功」を測るのをやめる。その出発点をくれるのが、この本でした。実務に落とすなら、自分の「池」が特性を増強してくれる場所か点検し、惰性で続けているタスクを一つ手放し、空いた時間を小さな賭けに回す――そのくらいから始めれば十分です。

明日、何かを「諦めようか、続けようか」と迷ったら、思い出してほしい。それは意志の問題ではなく、戦略の問題なんです。


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『科学的な適職』鈴木祐 本書の「自分の特性が評価される池を選ぶ」という主張を、仕事選びに特化して掘り下げた一冊です。「好きを仕事に」「やりたいことで選ぶ」がなぜ後悔につながるのかをエビデンスで解き明かしていて、本書の環境選択論と強く響き合います。

『RANGE』デビッド・エプスタイン 本書の「小さな賭けを数多く打つ」「専門に絞る前に幅広く試す」という戦略を、より体系的に論じた本です。早く専門特化するより、幅を持って試行錯誤するほうが長期的に強いという視点が、本書の戦略的放棄と補完し合います。

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲 本書の監訳者・橘玲さんによる一冊で、「やればできる」という呪いから自由になる生存戦略を扱っています。本書の「弱みは環境次第で強みになる」「自分を変えるより環境を選べ」という核心を、別角度から立体的に理解できます。


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