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『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』森岡毅さん|変えたのは、たった1つだけ

マーケティング・営業
約6分で読めます
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』

倒産寸前だったUSJを、年間1390万人を集める人気パークへ。この劇的なV字回復で、いったい何を変えたのか。

答えは拍子抜けするほどシンプルです。「たった1つだけ」と森岡毅さんは言い切ります。それは、会社を「消費者視点」の組織に変えたこと。

『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』は、その1点を高校生にもわかる言葉で解き明かした本です。しかも著者は、この考え方が会社の業績だけでなく、読者一人ひとりのキャリアにもそのまま効くと言います。マーケティング部で働いていなくても、関係ありません。

こんな人におすすめ

この本の核心――会社を「消費者の方」に向けた

USJはかつて「作ったものを売る会社」でした。これを「売れるものを作る会社」へ。それが消費者視点(Consumer Driven)への転換です。

ここで言う消費者視点とは、ただ顧客の言いなりになることではありません。すべての意思決定を「どれだけの消費者価値につながるか」で判断する姿勢のことです。

会社側が思っているどんな事情もどんな善意も、消費者価値につながらないのであれば、一切意味がない。

作り手は、専門的になるほど素人である消費者の感覚から遠ざかり、玄人好みのものを作りがちです。その独りよがりを断ち切るのが、消費者視点です。

森岡さんが鋭いのは、ビジネスを左右する本質的な要因を見極めることに最も時間を使う点です。彼はこれを「ビジネス・ドライバー」、衝くべき焦点と呼びます。USJの場合、それはターゲット客層の幅、TVCMの質、チケット価格の3つでした。

結果は数字に表れます。新規事業の成功率は、改革前の約30%から97%超へ。この5年で単価を1.2倍、集客数を1.9倍に伸ばしました。

マーケティングの本質は「売れる仕組みを作ること」

そもそもマーケティングとは何か。森岡さんの定義は明快です。

マーケティングの本質とは「売れる仕組みを作ること」です。

営業が「商品を売る」仕事だとすれば、マーケティングは「売れるようにする」仕事です。消費者の頭の中、店頭、使用体験という3つの接点を制し、自社が選ばれる必然を作る。

その武器になるのがブランド・エクイティー、つまり消費者の頭の中にあるブランドへの資産やイメージです。ここを先に高めておくと、面白いことが起きます。値上げをしても、客が離れにくくなる。

著者の言葉を借りれば、一流のマーケターの仕事は「値上げしながら個数も伸ばす」ことです。USJは実際、大人チケットを5800円から7400円へ上げながら、集客を伸ばしました。

戦略とは、「やらないこと」を選ぶこと

本書で最も重要なスキルが、戦略的思考です。戦略という言葉は難しく聞こえますが、定義はこうです。

戦略とは、何か達成したい目的を叶えるために、自分の持っている様々な資源を、何に集中するのかを選ぶこと。

経営資源、つまりカネ・ヒト・モノ・時間は、目的に対して常に圧倒的に足りません。だから、どこかに集中するしかない。そして「何に集中するか」を選ぶことは、同時に「何をやらないか」を選ぶことでもあります。

森岡さんは、振られた球を全部打とうとするのは「戦略なき愚か者」だと言い切ります。やることを絞り、やらないことを決める勇気。これが戦略の正体です。

では、良い戦略かどうかをどう見分けるのか。本書は「戦略の4S」という4つのものさしを示します。

1. Selective(選択的か) やることとやらないことを、はっきり区別できているか。

2. Sufficient(十分か) 勝つために投下する資源が、足りているか。

3. Sustainable(継続可能か) 中長期で維持し続けられるか。

4. Synchronized(整合性はあるか) 自社の強みや特徴を有利に活かせているか。

この4つをすべて満たして、初めて筋の良い戦略になります。

売れる必然をつくる、思考の「型」

戦略を具体的な打ち手に落とすために、本書はマーケティング・フレームワークという頭の使い方の型を用意します。

まず自社を取り巻く「戦況分析」で土台を固める。そのうえで、次の順番でブレイクダウンします。

目的(OBJECTIVE) 何を達成したいのか。例えば売上を何%上げる、など。

WHO(誰に) 誰の資源、つまり誰のお金や時間を狙うのか。ターゲットです。

WHAT(何を) その人はなぜ買ってくれるのか。商品がもたらす根源的な価値、ベネフィットです。

HOW(どうやって) 製品、価格、流通、販促という具体的な手段。

肝心なのは順番です。多くの人は、いきなり「どうやるか(HOW)」から考え始めます。でも、目的が変われば戦略も戦術もやり直しになる。だから目的から考える。森岡さんはこうも言います。「戦略の大きなミスは、戦術ではリカバリーできない」。

この順番が威力を発揮したのが、ハロウィーン・ホラー・ナイトです。設備投資の予算がないなか、伸びしろが最大と分析した10月前後に着目しました。

WHOは「動きやすい若い女性」、WHATは「思い切り叫んでストレス発散できる」という消費者インサイト。それをHOWとして「パーク中をゾンビが徘徊するホラー・ナイト」に落とし込みました。

消費者インサイトとは、消費者自身も気づいていない、あるいは直視したくない隠れた本音のことです。これを衝かれると、購買意欲が大きく動きます。結果、目標14万人に対して約2カ月で40万人以上を追加集客。140億円かけたアトラクションと同規模の集客を、設備投資ほぼゼロで実現しました。

キャリアにも、同じ思考が効く

ここからが本書のもう一つの顔です。この戦略的思考は、そのまま個人のキャリアに転用できます。

森岡さんのキャリア観は、はっきりしています。

会社と結婚してはいけません。会社はあなたと結婚することができません。「職能(スキル)」を選んでそれと結婚することをオススメします。

終身雇用が崩れた時代に、会社名にしがみつくのは危うい。自分が情熱を傾けられる職能を選び、それを磨いてプロとして自立する。これがこれからのキャリア戦略です。

そして強みの扱いも、戦略そのものです。弱点克服に資源を分散させるのではなく、自分の強みを圧倒的なレベルまで伸ばすことに集中する。ナスビをキュウリにしようとせず、立派なナスビを育てる。これも「選択と集中」です。

明日から何を変えるか

本書の知恵を、今日から動かせる3つの行動にします。

1. 朝、手のひらを見て「3つ」だけ選ぶ 著者が実践する「手のひら法」です。片手の5本の指を見て、一番長い3本を「今日達成すべき最も重要な3つの仕事」とする。残りの仕事は流すか後回しにし、選んだ3つに時間と集中力を全振りします。

2. いまの仕事を「目的→WHO→WHAT→HOW」で書き直す 抱えているプロジェクトを、目的、ターゲット、便益、手段の順に紙に書き出す。もしHOW、つまりやり方から考え始めている自分に気づいたら、必ず目的に立ち返ります。

3. 自分の「好きで得意な行動」を書き出す 過去の経験から、好きな行動と得意な行動をリストにする。そこから見える強みを、弱点克服より優先して伸ばすと決めます。

おわりに

本書には、マーケティングの枠を超えて胸に残る一文があります。

失敗しない人生なんて、何にも挑戦しなかった臆病者の命の無駄遣いです。

消費者視点も、戦略も、結局は「目的に向かって、限られた資源をどこに賭けるか」という一つの問いに行き着きます。仕事でも、キャリアでも、人生でも。

明日の朝、手のひらを見てください。今日、あなたが本気で勝ちにいく3つは、どれでしょうか。


合わせて読みたい

『苦しかったときの話をしようか』森岡毅さん 同じ著者が、戦略的思考を「自分の強みの見つけ方」に全振りした一冊。本書のキャリア論にうなずいた人が、次に読むべき続編のような本です。

『マーケット感覚を身につけよう』ちきりんさん 「何が売れるか」を見抜く感覚を養う本です。本書の消費者視点を、市場全体を読む力へと広げたい人にぴったりです。

『顧客起点の経営』西口一希さん たった一人の顧客を起点に成長の壁を破るフレームワークを示します。本書のインサイトやWHOの絞り込みを、より体系的に学びたい人に最適です。


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