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『生成AI活用の最前線』バーナード・マー|成果の差は、技術ではなく心構えで決まる

AI・テクノロジー
『生成AI活用の最前線』

日本企業で、生成AIの活用方針を定めている割合はわずか42.7%です。

米国は78.7%、ドイツは80.1%、中国にいたっては95.1%。この差は、技術力の差ではありません。バーナード・マー氏が世界100以上の事例から導く結論は、もっと身もふたもないものでした。

成果を分けるのは、ツールでもデータでもなく、人間の側の「心構え」だ、と。『生成AI活用の最前線』は、その心構えを、具体的な企業事例でひたすら証明していく一冊です。

こんな人におすすめ

漠然とした期待を、明日の打ち手に変えたい人にこそ向いています。

この本の核心――AIは「魔人」であって、主人ではない

マー氏は生成AIを、ランプから現れる「ジーニー(魔人)」にたとえます。

強力な願いをかなえてくれる。けれど、何を願うかを決め、結果に責任を持つのは主人である人間です。

完全な自動化を目指すのではなく、人間が生成AIと協力して、より良い結果を出すことである。最終的には、生成AIはただのツール、道具に過ぎない。

ここから本書のもう一つの核心が出てきます。誰もがAIを使える世界で、差をつけるのは何か。マー氏はそれをウィズダム(知恵)と呼びます。深い業界・業務ノウハウと生成AIを掛け合わせて価値を生む力です。AIが普及するほど、固有のノウハウを持つ人に価値が移っていきます。

生成AIは「文章ツール」ではない

まず押さえたいのが、生成AIと従来のAIの違いです。

従来の識別型AIは、データに基づいて予測する、いわば人間の「意思決定」をまねる技術でした。生成AIはもう一歩踏み込んで、人間の「創造性」をまねます。

生成AIは意思決定や問題解決といった人間の認知プロセスをシミュレーションするだけでなく、人間の創造性をシミュレーションするのである。

だから文章だけでなく、画像、動画、音楽、コード、さらには新薬の候補まで生み出せます。ゼネラル・モーターズは、生成ツールで設計したシートベルトのブラケットを、既存品より40%軽く20%強くしました。コカ・コーラは過去の名画と実写を融合させた広告「マスターピース」を作り、生成AI責任者の役職まで新設しています。

世界の現場で、いま何が起きているか

本書の圧巻は、業界をまたぐ事例の厚みです。代表的なものを業界ごとに見ていきます。

顧客対応 英国のオクトパスエナジーは、ChatGPTで問い合わせの44%を処理し、250人分の仕事をこなしました。しかも顧客満足度は、人間の担当者より高い評価でした。

小売 カルフールはChatGPTベースのロボット「ホップラ」で、客の予算や好みに応じた商品選びを支援。デューデリのような重い言葉は要りません。ディーゼルは商品の自動タグ付けで、1人あたり週30時間を節約しました。

メディア AP通信は決算やスポーツの記事作成を10倍に増やし、ニューズコープのオーストラリア部門は、わずか4人で週3000件のローカル記事を生成・管理しています。一方でMSNが偽ニュースを公開し非難を浴びた失敗例も、本書は隠しません。

金融 資産運用会社シュローダーは、内部版ChatGPTで2日かかっていた翻訳を2分に短縮。マッキンゼーによれば、生成AIは銀行に年間2000億〜3400億ドルの価値をもたらしうるといいます。

新薬開発 ここが最も衝撃的でした。エヌビディアとリカージョンは、従来なら10万年かかる化合物のスクリーニングを、わずか1週間で完了。英国のエトセンブリは、がんの免疫療法薬を従来の半分、11カ月で設計しました。

B2B交渉 ウォルマートは「マイ・アシスタント」をサプライヤー交渉に使い、89社のうち64%と契約を締結。驚くのは、サプライヤーの83%が「AIとの交渉のほうを好んだ」点です。人間同士の駆け引きが不可欠、という思い込みが崩れます。

これだけの事例が示すのは、マー氏の言葉どおり「ほとんどあらゆる職業が、何らかの形で生成AIの影響を受ける」という現実です。

どこに価値が生まれるか――4つの領域

事例を整理すると、生成AIの価値は4つの領域に分かれます。

1. オフィスワークの効率化 文書作成や議事録要約など、最も身近な使い方。

2. 顧客接点業務の効率化 問い合わせ対応の自動化やパーソナライズ提案。

3. 事業変革 データ分析や新製品開発の支援。

4. 新サービス創出 バーチャル試着や個別最適化された体験など、これまでなかった価値。

多くの企業は1で止まります。けれど競争力につながるのは、3と4の領域だ、というのがマー氏の主張です。マッキンゼーの調査では、消費者の71%がパーソナライズされた対応を期待し、76%が画一的な体験に不満を感じています。究極の個別最適化こそ、生成AIの最大の武器なんです。

導入を成功させる5つの観点

日本語版では、組織が成果を出すための枠組みが5つの観点で示されます。ここは網羅したいので、すべて挙げます。

1. 生成AI活用方針 経営戦略の実現に向けて、何のために使うかを定義する。

2. ユースケース どの経営課題を解くのか、具体的な活用場面を特定する。

3. ITシステム データの整備や既存システムとの連携で、信頼性を担保する。RAG(検索拡張生成)で自社データを参照させれば、AIにカンニングペーパーを見せながら答えさせられます。

4. 体制・人材 求める人材を定義し、組織を変える。外部採用より、自社を深く知る既存人材のリスキリングが効くといいます。

5. ガバナンス リスクを抑えつつ価値を最大化する。利用ルールを定める「予防的ガバナンス」と、ログを監視する「発見的ガバナンス」の両輪です。

成功を決めるのは、技術より「マインドセット」

そして本書がもっとも強調するのが、ここです。

変革はテクノロジーから始まるわけではない。

技術を使いこなす人と、遅れる人を分けるのは、6つの生成AIマインドセットだとマー氏は言います。一つも落とさず並べます。

1. 適応力 既知のやり方を捨て、新しいことを試す意志。

2. 好奇心と謙虚さ 「もっと良くするには?」と問い続ける姿勢。

3. 継続的学習 学校で学んだことだけで一生を築く時代は終わった。常にスキルを更新する。

4. 協働の意欲 人間とマシンの最適な役割分担を追求する。

5. 倫理的配慮 新技術がもたらす課題に意識を向ける。

6. 批判的思考 マシンの回答を盲信せず、自ら考える。

ウォルマートが従業員に「マイ・アシスタント」を開放したとき、経営陣は使い方を細かく指示しませんでした。従業員自身に「どう活かせるか」を考えさせ、組織の適応力を育てたんです。

リスクから目をそらさない

便利さの裏には、影もあります。

代表がハルシネーション、つまりAIが事実に基づかない、もっともらしい嘘を自信満々につく現象です。生成AIは「次に来そうな単語の確率」を出しているだけなので、複雑な計算を間違えることもあります。著作権侵害、プライバシー、ディープフェイクによる誤情報の拡散も無視できません。

サムスンは、エンジニアが機密のソースコードをAIにアップロードしたことを受け、社内でのAIチャットボット使用を一時禁止しました。さらにマー氏は、AIに頼りすぎて人間のスキル自体が衰える危険にも警鐘を鳴らします。だからこそ、人間による監視と判断を組み合わせることが欠かせません。

明日から何を変えるか

本書の提案から、今日始められるものを3つに絞ります。

1. 自分の仕事を「委任できる部分」に仕分ける 1週間のタスクを書き出し、反復的な低レベル作業と、共感や複雑な判断が要る高レベル作業に分ける。低レベルの一つを、今日AIに任せてみます。

2. 質問ではなく「前提と役割」を渡す AIにいきなり問うのをやめ、参照データとペルソナを指定する。そして出力は必ず一次情報でファクトチェックします。

3. リスクの低い「クイックウィン」を一つ立ち上げる 議事録要約や顧客メールの下書きなど、効果がすぐ見える小さなAI活用を始め、チームで成功体験を共有します。

おわりに

読み終えて残るのは、技術の話ではなく、姿勢の話でした。

マー氏は「自分がもたらす価値を考えた上で、次に『その価値をAIが提供できるのか?』と自問すべきだ」と書きます。これは脅しではなく、自分の市場価値を見つめ直す招待状です。

明日、自分のタスクを一つだけAIに渡してみる。空いた時間で、AIには代えられない自分の価値を伸ばす。その問いから、変革は始まります。


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