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『最大化の超習慣』堀江貴文さん|長期目標は、ただの足かせである

生産性・時間術・習慣

「5年後のキャリアプラン」を書かされて、手が止まった経験はありませんか。

私たちは「ビジョンを持て」「長期目標から逆算しろ」と言われて育ってきました。本書は、その前提を最初の章で壊しにきます。長期目標はいらない。それどころか、ただの足かせになる。

理由はシンプルで、世界も自分の人生も予測不能だからです。

『最大化の超習慣』は、堀江貴文さんが49歳(執筆当時)で自分のメソッドを集大成としてまとめた仕事術の本です。気合と根性を排除し、「アクション」「アイデア」「時間コスパ」「ストレスフリー」「トップコンディション」の5つの軸で、手持ちの能力を最大化する習慣を語ります。

こんな人におすすめ

どれも、著者に言わせれば才能の問題ではありません。習慣の設計の問題です。

逆に「精神論にも意味がある」「礼節こそ大事」という価値観の人には、本書の合理主義は劇薬かもしれません。

気合と根性を捨てるところから始まる

本書の核心は一文で言えます。「アクションとは、習慣なのである」。

著者はアクションを、「なにか」を変えようとする意志と実行、と定義します。それを続けさせるのは根性ではなく、持続的・連続的・永続的な習慣です。根性に頼った行為は疲れるわりに見返りが乏しく、誰も幸せにしないからです。

この主張に説得力があるのは、著者の実践に裏打ちされているから。23歳で起業し、4年後に東証マザーズに上場。プロ野球の新球団設立に動き、ロケット開発まで手がけてきました。

その行動量が「歯磨きのような習慣」から生まれていると聞くと、読む目が変わります。

ただし限界もあります。批判を法的措置でドライに処理する感覚など、著者並みのストレス耐性をそのまま再現するのは正直難しい。「使えるところから取り入れる本」と割り切るのがよさそうです。

本書の全体像──行動から体まで、5階建ての構造

全体は5章構成です。

行動を起こす。発想をつかむ。時間を作る。心を守る。体で支える。マインドセットから生活習慣へ、ピラミッド状に積み上がる構成です。ここから各章の中身を見ていきます。

「2+■」では動けない。「2+■=5」なら動ける

第1章の中心は、短期目標への集中です。

著者は長期目標を「たんなる足かせ」と切り捨てます。テクノロジーの進化も世界の変化も予測できない以上、遠くのゴールから逆算する計画は、立てた瞬間から古びていくからです。

代わりに勧めるのが、目の前の短期目標。本書には「2+■」という例えが出てきます。■に何を入れるべきかは、これだけでは決められない。でも「2+■=5」と先の結論が見えれば、■は3だとすぐわかる。

著者自身、福岡の田舎町から「東京に出るために東大に合格する」という短期目標を置き、必死に勉強して現役合格しています。壮大な夢ではなく、一歩先の明確なゴールが手段を絞り込んでくれます。

では、その短期目標はどう選ぶか。著者の答えは「自分に正直になる」です。

損得勘定を抜きにして、夢中になれるものに没頭する。ここで効くのが「『楽しそう』と『楽しい』はまったくの別物だ」という指摘です。前者は他人を見て思うこと、後者は自分の内側から湧くもの。混同すると、流行の職業に飛びついて消耗します。

天職は事前に予測できず、夢中でやり抜いた先に事後的に行き着く場所だ、というのが著者の整理です。だから「いつかやる」は機会損失。未来の自分を当てにせず、今の自分に期待することを求めてきます。

点を打ち続ける人に、運は「数の論理」で訪れる

スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業式で語った「Connecting the dots」。未来を見て点をつなぐことはできず、点は振り返ったときに初めてつながる。本書はこの言葉を、行動の真理として引用します。

だから、興味に従って点を打ち続けるしかない。無軌道に見えても構わない。点を打つ習慣そのものが、「堅実に一つの仕事をしろ」といった同調圧力の雑音を遠ざけてくれます。

面白いのは、運さえも「数の論理」で説明するところです。

秋元康さんは、ピカソが世界一有名な画家になれた理由を、15万点とも言われる多作に求めました。そして著者に「もっと本を出せ」と檄を飛ばしたそうです。著者の著書は200冊以上。アクションの母数が多いほど、成功の確率は上がるという単純な理屈です。

実際、著者の点の打ち方は本業の枠を持ちません。ロケット開発、和牛レストラン「WAGYUMAFIA」、通信制サポート校「ゼロ高等学院」。打った点の多さが、つながる線の多さになっています。

そしてもう一つの鍵が、他者の力です。著者は「あなたを最大化するのは、他者の力にほかならない」と書きます。

ロケット開発のインターステラテクノロジズでは、他社への就職が決まっていた大学院生の稲川貴大さんを口説き落としました。結果、2019年に全長10メートルのミニロケットが宇宙空間へ到達します。

「弱みをさらけだせないひとは成功しない」。壁にぶつかったら、独力に固執せず人に頼る。それが問題解決の最善手だという話です。

アイデアは「完コピ」から始めていい

第2章の主張は、本書でいちばん身も蓋もないかもしれません。オリジナリティを追わない。それが第一義だと著者は言います。

ゼロから斬新なアイデアをひねり出そうとする行為を、錯覚と無知の産物とまで呼びます。ビジネスなんて、ありもののバージョンアップか掛け合わせでしかない、と。

例に挙がるのがFacebook(現Meta)です。OrkutやGREE、mixiといった先行SNSのアイデアを徹底的にトレースしました。

「実名登録」はウィンクルボス兄弟の考案で、「いいね!」はブログのコメント機能からの派生。それでも2006年の一般公開からトップシェアを獲得しました。完コピも立派なアイデアの選択であり、真似と試行錯誤の中から結果的に自分のカラーが出てくる、という順番です。

では、掛け合わせの素材になる情報はどう集めるか。

著者の答えは「ありふれた情報の中にこそ解法がある」。とっておきの秘密情報を探すのではなく、ジャンルの食わず嫌いをせず、スマホで幅広く触れる。そして触れたらSNSでコメントを付ける。「アウトプットはインプットを兼ねる」からです。発信は記憶への定着と、人とのつながりを同時に生みます。

加えて、所有欲を捨てること。著者は「所有欲こそが目を曇らせるノイズの最たるもの」と書きます。使っていないモノにかまける時間とお金が、思考の密度と情報への感度を奪うからです。

最後に、遊ぶこと。「楽しく暮らす」→「仕事がうまくいく」には因果関係がある、と著者は言います。違う景色を持つ相手との飲み食いや他愛ないおしゃべりが盲点を突き、ビジネスの転機になるアイデアを運んでくるからです。

仕事は塊で扱わない──すきま時間×スマホ×マルチタスク

第3章は時間術です。柱は3つあります。

1つ目は、すきま時間の事前設計。移動や待ち時間が来てから「何をしようか」と考えるのでは遅い。「次の移動時間で、あのプロジェクトの指示を出す」と先に決めておきます。

2つ目は、タスクの細分化です。1つの仕事を1つの塊として扱うのはNG。細切れに分割して同時並行で進めれば、どんな長さのすきま時間にも最適なタスクをはめ込めます。

優先順位をつける必要はない、というのが著者の割り切りです。分割すると頭が整理され、集中力もむしろ増すとされます。

3つ目は、デバイスへの投資。著者はあらゆる業務をスマホで処理します。常に最高スペックの最新機種を買うのは、未来の有限な時間を生み出すための投資だという発想です。

そして、時間を奪う最大の敵が「儀式」。形骸化した定例会議や、時候の挨拶が連なる長文メールのことです。プロセス自体が目的化した行為は、徹底的にショートカットする。

著者のモーニングルーティンはトータル20分。1時間かける人と比べて、毎朝40分を浮かせている計算になります。

瞑想よりも、予定を埋め尽くせ

第4章のストレス論は、本書でもっとも逆張りが効いています。

著者によれば、ストレスの多くは「過去」か「未来」に由来する一種の錯覚です。済んだことへの後悔と、まだ起きていないことへの不安。だから、心を空にする瞑想は逆効果だと著者は言います。空白を作れば、そこに後悔と不安が入り込むからです。

処方箋は逆方向です。没頭できる仕事と遊びで、スケジュールを限界まで埋め尽くす。「暇」をなくせば、ストレスが入り込む隙もなくなるという独自のマネジメントです。

人間関係にも、ドライな原則が貫かれます。人間関係には賞味期限がある。人生のフェーズが変われば付き合う相手も変わるのだから、「捨てられたくない」という怯えを手放して関係を更新する。

気まずさを避けるための「おべんちゃら」のような些細なウソも、やめるべき対象です。神経をすり減らし、自分を蝕むからです。

お金の不安についての整理も鮮やかでした。不安の正体は、生活水準に縛られた「生存の不安」と、他人と比較する「プライドの不安」。著者はどちらも妄想だと断じます。

いざとなれば生活をダウンサイジングすればいいし、公的なセーフティネットもある。カードローンの金利でさえ最大20%未満で、200万円借りても利子は年40万円未満。数字を並べて、「どうにでもなる」と不安の輪郭を具体的に潰していきます。

だから、貯金を抱え込むより時間・健康・遊びへの自己投資にリソースを突っ込むほうが合理的。「お金はあくまで一手段だ。お金そのものに価値はない。そんなものは妄想だ」とまで言い切ります。

体力が、最後のひと押しを決める

第5章は、すべてを支える土台の話です。

まず睡眠。徹夜はナンセンスであり、絶対に睡眠時間を削らない。スタンフォード大学のウィリアム・デメント教授が提唱した「睡眠負債」の概念どおり、寝不足の蓄積は知力・体力・集中力を不可逆的に劣化させるからです。著者は平均7〜8時間、最低でも6時間の睡眠を守っています。

良質な睡眠の条件も具体的です。就寝後30分以内に眠りにつく。夜中に目覚めるのは1回以内。目覚めても20分以内に再入眠できる。睡眠時間の85%が布団の中にある。この4条件が紹介されます。

次に筋トレです。筋肉量は20歳ごろにピークを迎え、30歳以降はほとんど運動しないと急激に減少します。加齢で筋肉が減るサルコペニアには、日本の40歳以上の約4分の1が該当するそうです。

アメリカの医療チームが高血圧や肥満の人を対象に調査したところ、筋トレとストレッチの組み合わせが最も健康改善効果を示しました。一方、持久力運動はテストステロン値を下げ、老化を加速させる可能性が指摘されます。

ここで効いてくるのが、フェラーリをデザインした奥山清行さんの言葉です。デザインワークで一番大切なのは、最後のひと押しができる「体力」。知的な仕事ほど、土台は体だという話です。

そして予防医療の「先手必勝」。日本の糖尿病は患者・予備軍を合わせて約2000万人、5人に1人にのぼります。合併症の壊疽で年間1万人が足を切断し、年間3000人が失明しています。

著者は2014年に登場した治療薬「SGLT2阻害薬」を予防的に活用し、定期的な歯科通院を「寿命管理」と位置づけます。心疾患で死亡した5000人の解剖で、90%以上から口腔内細菌が見つかったという報告には、ぞっとしました。

食事はストイックではありません。我慢のストレスのほうが体に悪い。嫌いな野菜は食べず、好物の肉とお酒を楽しみながら99歳で天寿をまっとうした瀬戸内寂聴さんの生き方が、その例として登場します。

今日からできる3つの実践

本書のアクションプランから、始めやすいものを3つ選びました。

1. すきま時間が来る前に、やるタスクを決めておく 明日の予定を見て、「あの移動の15分でこの返信を処理する」と先に割り当てます。すきま時間に入ってから考えない。これだけで時間の密度が変わります。

2. 最寄りの歯医者で、定期クリーニングの予約を取る 本書でいちばん地味で、いちばん命に直結する一手です。あわせて週に数回通えるジムに入会し、筋トレを始めます。

3. 使っていない服とモノを捨てる 所有欲というノイズを減らし、情報への感度を上げる環境づくりです。捨てて浮いたお金は、時間や健康や遊びに回します。

形骸化した会議の欠席やリモート切り替え、賞味期限切れの人間関係の整理は、この3つが回り始めてからで十分です。

おわりに

読み終えて残るのは、「特別な才能はいらない」という、意外なほど地に足のついたメッセージです。

ビジョンではなく、今日の習慣。気合ではなく、設計。本書の言葉でいちばん覚えておきたいのは、これでした。

「目のまえの1日1日をひたすらこなして、楽しむこと。目のまえの短期目標をひとつひとつクリアしていくことだ。」

5年後の計画を書く時間があったら、明日のすきま時間に何をやるかを決める。本書の習慣は、その小ささから始まります。


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『「後回し」にしない技術』イ・ミンギュ 「いつかやる」は機会損失、という本書の警告を、実行力を生む具体的な技術に分解した本です。アクションを習慣にする最初の一歩を補強してくれます。

『複利で伸びる1つの習慣』ジェームズ・クリアー 本書が言い切る「アクションとは習慣である」を、行動科学の側から仕組み化した定番書です。堀江式の豪腕な実践論に、習慣が定着するメカニズムを足せます。


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