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『PRIDELESS 受け入れるが正解』藤森慎吾|「自分は空っぽ」と認めた人が生き残る

キャリア・働き方 藤森慎吾
約7分で読めます

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『PRIDELESS 受け入れるが正解』
目次

舞台の上で、相方から人格を否定されるようなツッコミを浴びせられたら、笑っていられる人がどれだけいるでしょうか。

オリエンタルラジオの藤森慎吾さんは、まさにそれをやられた側です。相方の中田敦彦さんが台本にない毒舌をぶつけてきても、藤森さんは怒るどころか「さすがうちの相方はスゴいな」と感心してみせる。

理由は単純で、言われたことに心当たりがあったからです。

『PRIDELESS 受け入れるが正解』は、その「心当たり」を丸ごと認めるところから始まる一冊です。自分には人よりずば抜けた才能も、譲れないこだわりも、守るべきプライドもない。

だったら、近くにいるすごい人の力を借りて、その照り返しで輝けばいい。芸歴20年近いタレントが、2021年にたどり着いた結論がこれでした。

図解

こんな人におすすめ

自分の内側を掘っても何も出てこないと薄々気づいている人ほど、本書の開き直りは効きます。

「自分」は内側ではなく、周りが作る

多くの自己啓発書は「本当の自分を見つけろ」と言います。内省を重ね、自分軸を掘り当てろ、と。

本書はこの前提そのものをひっくり返します。自分の内側には、実はたいしたものが入っていない。人という存在は、近くにいる優れた誰かの光を浴びて反射しているときだけ、輪郭を持つ——。

空っぽを弱点ではなく武器として差し出す発想が、本書の背骨です。

なぜこれが戦略として機能するのか。理由は身動きの軽さにあります。積み上げてきた実績やプライドがある人ほど、新しい場所で恥をかくことを恐れて動けなくなる。逆に守るものが何もない人は、先を行く人のやり方をそのまま拝借できる。だから動き出しが速い。

「自分は特別である」「唯一無二の、何者かである」といった思いを、まずはいち早く捨ててしまうことを、生存戦略にしたわけだ。

面白いのは、相方の中田さんが真逆の哲学を著書『天才の証明』で語っていることです。片方は自力で頂点を目指す本、もう片方は他力を全開で使う本。同じコンビの二人が、正反対の答えにたどり着いている構図が興味深いところです。

一読して気になるのは、これが単なる「人に取り入る処世術」と何が違うのかという点です。本書の答えは、見返り目当てで愛想を振りまくのではなく、まず自分の弱さを本人が先に認めてしまう点にあります。

取り繕う相手には愛想笑いが要りますが、空っぽを自認した相手には取り繕う理由自体がありません。ここが、ただの迎合と一線を画す部分だと思います。

挫折のたびに、誰かの一言で立ち直ってきた

本書は5つの章それぞれに「受け入れる」というテーマを割り振り、藤森さんの半生をたどっていきます。

出会いは、保険会社のコールセンターでのアルバイトでした。休憩時間に周りを笑わせていた中田さんに惹かれ、藤森さんの方から声をかけてコンビを組みます。中田さんの返事はにべもなく、これまでの友達関係ではいられなくなる、その覚悟があるかと念を押すものでした。

そこから始まる猛練習の量が尋常ではありません。養成所NSCに入るまでの2ヶ月で、中田さんは持ちネタを100本用意し、入学金40万円も二人でバイトを重ねて自力で貯めました。

毎年千人単位が入るNSCで、まともにデビューできるのはせいぜい1組。中田さんはそこを「3分間のオーディション会場」と捉えていたといいます。

後に代表作となる「武勇伝」の生まれ方も象徴的です。ネタ作りに行き詰まった中田さんがノートを差し出し、藤森さんが直感で選んだ自慢話のネタに、2ヶ月がかりでリズムとダンスを重ねてあの形に育てました。

選んだのは藤森さんですが、書いたのは中田さん。それでも本書は、この「選ぶ」役割を過小評価していません。

デビューは順風でしたが、すぐに壁が来ます。持ちネタが「武勇伝」一本しかなく、人気が急降下。仕事が欲しい焦りから空気を読まず本番でその「武勇伝」を出してしまい、スタジオを凍らせた失敗は、本人いわくトラウマになるほどの出来事でした。

そのどん底で救われたのが、先輩芸人からのひと声でした。

藤森さんは、失敗した直後こそ人に頼ることで、次の扉を開けてきた人です。

その後、当時のレギュラー番組の楽屋で、来る週も来る週もタモリさんに他愛のない雑談をし続けたことがきっかけになり、「中身のないチャラ男」というキャラクターを見出されます。

2011年には、その象徴的なフレーズが流行語大賞にノミネートされるところまで戻ってきました。自分で発明したのではなく、周りに指摘されて初めて自覚した強みだった、というのがポイントです。

この章にはもう一つ、独自の芸風論が出てきます。誰かの容姿や弱みをいじって笑いを取るのではなく、相手が本当は褒められたいと思っている部分を見つけて持ち上げる芸風です。自分がいじられるのが苦手だから他人にもしない、という理由づけが率直でした。

「弱さ」を仕組みに変える2つの習慣

この章の前提になっているのが、子ども時代からの「ショボさ」の自己申告です。少年野球では花形ポジションを任されていましたが、それは監督だった実父が贔屓していたから。

実力は打率1割に届かず、中学で新しい指導者に実力を見抜かれてからは、居残り特訓の常連になりました。モテたいという動機だけでサッカーやバンド、スケートボード、ラグビー、卓球、写真、テニスサークルへ次々と手を伸ばしては、どれも長続きしませんでした。

木村拓哉さんへの憧れから美容師を志して母に却下されると、今度はせめてバイクだけでもと半年で32万円を貯めて手に入れています。東京でモテる自分になりたい一心で丸刈りになり、1日8時間以上机に向かって大学合格を勝ち取ったのも、根っこは同じ動機でした。

動機が全部あけすけで、才能より執着で押し切ってきた人だとわかります。

本書で一番実践しやすいのが、そんな自分への向き合い方をメモに落とし込むやり方です。

藤森さんは自分を精神的に脆いタイプだと認めていて、反省や叱責を記録すると本番前にメンタルが崩れると考えています。だから、スマホのメモには褒められた言葉だけを残す。

メモにはプラスのことしか書かないと決めている。怒られたり、けなされたりしたことは、いっさいメモしない。

失敗こそ記録して次に活かせ、という定石とは真逆のやり方です。ここは賛否が分かれるところで、反省を記録しないと同じ失敗を繰り返すのではないか、という疑問も浮かびます。

ただ本書の狙いは反省の放棄ではなく、精神的に脆いという自己診断を前提に、崩れやすいメンタルの管理を優先させる設計だと読むと筋が通ります。効果は二つ。

気持ちが前向きに保たれることと、自分がどんな場面で喜ばれる人間なのかが可視化されることです。新しい仕事の誘いに迷わず手を挙げられるのは、この蓄積のおかげだと本人は振り返ります。

もう一つの柱が、聞き役に徹する対人スタイルです。会話の主役はいつも相手に譲り、まず笑顔で相づちを打って受け止める。見返りを求めず先にエネルギーを差し出す「Give first」も、同じ発想の延長線上にあります。

ミュージカルで演技未経験のまま大舞台に立ったときも、素人であることを隠さず、周りに教わりながら乗り切っています。

家族という土台と、この生き方の弱点

最終章のテーマは、家族という帰る場所です。就職活動をやめてNSCに通うと打ち明けたとき、母親は電話口で絶句しながらも、最後には背中を押す言葉を返してくれました。何をやっても見捨てられないという安心感が、無謀に見える挑戦を支えてきた、というのが本書の結論です。

この感覚の原点は母親の教育にあります。小学校低学年のとき、作業用の車を見て給料の安さを揶揄する発言をしてしまい、母親から本気で叱られた経験があるそうです。

働く人には敬意を払え、という一点は譲らない家庭だったといいます。人を悪く言わない、バカにしないという線引きが、後年の対人スタイルにそのままつながっています。

もう一つ興味深いのが、藤森さんがかつて、恵まれた家庭に育ったこと自体をコンプレックスにしていた時期があるという告白です。芸人の世界では貧しさや荒れた時代がトークのネタになりやすく、自分には語れる「暗い過去」がないと感じていたからです。

それでも本書は、その屈託のなさこそが最終的な武器になったと結論づけます。

ただし、ここは留保が必要です。藤森さんが乗っかってきた相手は、中田さんやタモリさんのような、突出していてなおかつ彼を見捨てない人たちでした。

頼れる相手がいない環境や、他人を利用するだけの相手がいる場所では、同じ全面依存は危険な賭けになります。本書も「合わない相手は直感で避ける」とは書いていますが、その直感の鍛え方や、自分を守る線の引き方までは踏み込んでいません。

もう一つの前提が、頼る前に自分でできることをやり切っておくという条件です。本書は、まず自力でやれるところまでやってから人を頼れ、と念を押しています。

この泥臭い下地がないと、本書の思想はただの甘えの正当化に見えてしまいます。そこを飛ばさずに読むことが、本書を実用書として使う上での分かれ目です。

おわりに

藤森さんは自分を「究極の八方美人」と呼び、節操がないと言われることをむしろ勝利条件にしています。ミュージカルにもYouTubeにも節操なく手を出す姿は、自分らしさを固定しない生き方の実例です。

冒頭の毒舌シーンに戻ると、あれは仲の悪さの証拠ではなく、むしろ逆でした。図星を突かれても崩れない土台を、藤森さんは20年近くかけて自分の外側に作ってきたということです。

自分の強みを探して立ち止まっている人ほど、この開き直りは効くはずです。今日誰かに褒められたら、その一言をメモに残してみてください。反省は書かなくて構いません。それだけで、明日の自分の見え方が少し変わります。


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