本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド』アルバロ・フェルナンデス氏ほか|脳トレでもサプリでもない、本当に効く脳の鍛え方

健康・メンタル
約6分で読めます
『脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド』

「最近、物忘れが増えた」。それを年齢のせいにしていませんか。

昔は、人間の脳はある年齢で固まり、あとは衰える一方だと考えられていました。でも、それは間違いだったとわかっています。

本書『脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド』は、世界トップの神経科学者22人への取材をもとに、脳を生涯にわたって鍛え続ける方法をまとめた一冊です。著者のアルバロ・フェルナンデス氏らは、約7年をかけてこのガイドを書き上げました。

クロスワードやサプリといった「特効薬」に頼るのではなく、自分自身が「脳のコーチ」になる。そういう本です。

こんな人におすすめ

毎日同じクロスワードを解いて、それで認知症予防になっていると信じている人。実はその習慣、脳への刺激にはなっていないかもしれません。

この本の核心――脳は「使うか、失うか」で決まる

本書の土台にあるのは「神経可塑性(しんけいかそせい)」という考え方です。学習や体験という刺激に応じて、脳の神経回路が生涯にわたって組み換わり続ける能力のことです。

脳には神経細胞(ニューロン)がおよそ1000億あり、その結合点であるシナプスは100京にのぼります。この巨大なネットワークは、固定されたものではありません。

「私たち科学者は、何歳になってもすべての脳が変化しうることを知っている。ニューロンは、繰り返し使われたときはいつも新しいつながりを増やしていくので、学びに限界はない」

ここで働くのが「ヘブ則」です。一緒に発火した細胞同士の結合は強くなり、使われない結合は弱まって、最後には消えてしまう。これが「使うか、失うか」という原則です。

だから本書は、脳のメンテナンスを誰かに外注することはできない、と言います。あなた自身が自分の脳のコーチになるしかない、と。

クロスワードだけでは脳は鍛えられない

意外かもしれませんが、毎日同じパズルを解き続けても、脳全体の力は上がりません。慣れてルーティンになった瞬間、それは脳への刺激ではなくなるからです。

脳を鍛えるのに必要なのは、3つの要素です。

1. 新規性 慣れ親しんだ思考パターンから離れること。通勤経路を変える、利き手と逆の手を使うなど、小さなことでかまいません。

2. 多様性 いつもと違う種類の活動を取り入れること。一つの得意分野を磨くだけでは足りません。

3. チャレンジ性 少し難しいと感じるレベルに挑むこと。新しい言語、楽器、ダンスなど、未経験の学習が効きます。

この3つを満たす活動を続けると、「認知的予備力」が蓄積されます。これは脳の防波堤のようなもので、たとえアルツハイマー病の病変が脳に起きても、症状の発現を遅らせてくれます。

実際、レジャー活動を頻繁に行う人はアルツハイマー病のリスクが38%低く、活動を1つ追加するごとにリスクが8%ずつ下がるというデータもあります。

「心臓に良いことは脳にも良い」――運動と食事の力

頭を使うだけでは、脳は最適化されません。本書が強調するのは、体の健康と脳の健康がつながっているという事実です。

カギを握るのが有酸素運動です。ウォーキングや水泳など、心拍数が上がる運動は脳への血流を増やし、神経細胞の成長を促すBDNF(神経成長因子)の分泌を高めます。

「有酸素エクササイズには、数多くの脳機能、とくに、前頭葉が受け持つ実行機能(計画力、タスク切り替え力、抑制力など)を向上させる可能性がある。」

推奨されるのは、1日30〜60分、最低でも週3回。激しい運動である必要はなく、単に歩き回る以上の強度があれば十分です。

食事では「地中海食」が中心です。野菜、果物、オリーブオイルを多くとり、魚を適度に、肉や乳製品を控える食べ方です。地中海食を厳格に実践している軽度認知障害の人は、アルツハイマー病への移行リスクが48%減少したという研究があります。

一方で、本書はサプリには冷静です。イチョウ葉エキスは75歳以上の数千人を対象に調べても、認知症の発生率を下げる効果が確認できませんでした。記憶力アップを謳うサプリの多くは、プラセボ以上の効果が証明されていません。

ストレスは脳細胞を殺す――瞑想という対処法

ここで驚いたのですが、慢性的なストレスは比喩ではなく、物理的に脳を傷つけます。

「慢性的で絶え間のないストレスはニューロンを殺します。とくに記憶機能に有害です。」

逃れられないストレスが続くと、脳はコルチゾールを浴び続け、記憶の中枢である海馬が萎縮します。新しいニューロンの誕生も妨げられます。

ただし、すべてのストレスが悪いわけではありません。短期的な良いストレスは、注意力や敏捷性を高め、目標達成のモチベーションになります。問題なのは、長期的な慢性ストレスのほうです。

対処法として本書が挙げるのが、マインドフルネス瞑想です。1日10〜20分、呼吸に意識を向けるだけで、感情をコントロールする前頭葉の働きが強化されます。

著者の一人は、こんな視点の転換を提案しています。

「人生をアスレチックジムだと考えるといいですよ。そして、出会う障害を、筋肉を鍛えるためのダンベルの重さだと考えるのです。」

困難を避けるべき不幸ではなく、脳を鍛える資源と見る。この捉え直しが、レジリエンス(回復力)を育てます。

一人より、議論しながら歩くほうが効く

社会的な交流も、脳を最適化する強力なツールです。他者の感情や意図を理解し、対話することは、脳の実行機能を強く刺激します。

ここで面白いのは、交流の「質」の問題です。気楽なおしゃべりよりも、相手の立場に立って議論し合うような「目的を持った交流」のほうが、ワーキングメモリを強く鍛えます。

ミシガン大学の実験では、10分間議論したグループのワーキングメモリが、パズルを解いたグループと同じくらい向上しました。

著者の一人は、理想的な組み合わせをこう語ります。

「社会的に交流しながら、身体的刺激と知的刺激を融合させる方法がベストといえます。たとえば、ある本について友人と議論しながらウォーキングするといいと思います。」

運動、知的刺激、社会的交流を一度に満たす。これが本書の言う「クロス・トレーニング」の発想です。スポーツ選手が専門外の競技を取り入れるように、多様な刺激を組み合わせて脳を総合的に鍛えます。

脳トレソフトを選ぶときのチェックポイント

コンピュータを使った認知トレーニングについて、本書は是々非々の立場です。良質なプログラムなら効果が期待できる、と認めています。

ポイントは「学習転移」が証明されているかどうかです。ゲームが上達するだけでは意味がなく、そこで鍛えた力が実生活の判断力や記憶力に役立つかが問われます。

たとえばACTIVE研究では、処理速度トレーニングによって、実際の道路上での危険な運転操作が40%減りました。ただし効果を得るには、目的とする認知力1つにつき最低15時間、それを8週間ほどかける必要があります。

本書はソフトを選ぶための10項目のチェックリストを用意しています。科学的根拠はあるか、難易度が自動で調整されるか、学習転移が証明されているか。こうした基準で、消費者が賢く選べるように設計されています。

明日から何を変えるか

本書のメソッドは多岐にわたりますが、まず手をつけるべき行動を3つに絞ります。

1. 週3回、30〜60分の有酸素運動を予定に入れる 「運動が脳に良い」と知って終わりにせず、早歩きやジョギングの時間をスケジュールに書き込みます。心臓に良いことは、脳にも良いからです。

2. 今までやったことのない学習を1つ始める 新しい言語、楽器、ダンスなど、快適なゾーンから踏み出す活動を選びます。いつものクロスワードに時間を費やすのはやめます。

3. 1日10分、呼吸に意識を向ける時間をつくる 静かな場所で、ゆっくりした呼吸に集中します。日々のストレスをリセットし、海馬を守ります。

おわりに

本書を貫くのは、こんな言葉です。

「自分の脳を今日どう扱うかが、今から先の脳の健康と能力に影響するのだ。」

脳の最適化に特効薬はありません。運動、食事、知的な挑戦、社会的交流、ストレス管理。これらを少しずつ組み合わせていくしかない。

まずは今夜、いつもの散歩に「友人との議論」か「新しい学習の話題」を一つ足してみる。脳を庭にたとえるなら、その小さな手入れが、何年も先のあなたを支えます。


合わせて読みたい

『60歳からでも遅くない!脳を一生成長させる「ブレインフィットネス」の科学』アルバロ・フェルナンデス氏ほか 同じ本を別の角度から軽く紹介した記事です。本書の全体像をまず短時間でつかみたい人は、こちらから読むと入りやすいはずです。

『運動は薬だった。スタンフォード研究が証明した「体を動かすことで人生が変わる」科学的理由』 本書が脳の最適化の柱に据える「有酸素運動」を、さらに掘り下げた一冊。なぜ運動が前頭葉や海馬に効くのか、そのメカニズムを深く知りたい人におすすめです。

『「もう歳だから」は、科学的に嘘です』 「年齢のせいで脳は衰える」という思い込みを、神経可塑性の視点から崩すコラム。本書の核心と響き合う内容で、加齢への見方を変えたい人に向いています。


この記事をシェア:

関連記事

前の記事
『小飼弾の超訳「お金」理論』小飼弾さん|お金の正体は「みんなで信じている幻」だった
次の記事
『「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術』高松智史さん|計算で終わらせない、ビジネスの武器としての推定術