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『脳が認める最強の集中力』林成之さん|「イヤだ」と思った瞬間、集中力はゼロになる

健康・メンタル ✍ 林成之さん
約6分で読めます

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『脳が認める最強の集中力』
目次

机に向かった。やる気はある。なのに10分でスマホを触っている。

その原因を、あなたは「自分の意志が弱いから」だと思っていませんか。本書はそこをきっぱり否定します。集中できないのは、脳が「自分を守ろう」として正常に働いた結果なんです。

著者の林成之さんは脳神経外科医。北京オリンピックの競泳日本代表(北島康介選手など)や平昌オリンピックの選手たちに、脳の仕組みに基づいた集中の作り方を伝えてきた人です。

本書が言うのは一貫してこれだけ。集中力は根性ではなく、脳の「機能」だから、仕組みを知れば誰でも鍛え直せる。

図解

「気合」を真っ向から否定する一冊

本書がいちばん強く拒むのは、「気合で頑張れば集中できる」という発想です。

脳には、入ってきた情報に「好き・嫌い」「おもしろい・つまらない」のレッテルを貼るA10神経群という部分があります。ここで「イヤだ」というマイナスのレッテルが貼られると、その先の思考はもう深まらない。

「『イヤだ!』と思うことに集中力はゼッタイ働かない」

著者の言葉です。なぜそんな仕組みになっているのか。背景には自己保存の本能、つまり「自分を守りたい」という最も根本的な本能がある、と本書は説きます。

聞いたことのない話をすぐ受け入れられないのも、失敗しそうな仕事から逃げたくなるのも、この本能の働きだという見立てです。だから著者は「『集中力がない』は脳が拒否するための言い訳」だとまで言い切ります。

ここがこの本の出発点であり、強みでもあります。著者は脳内温度が40度以上に上がることに着目し、6年かけて「脳低温療法」を開発。回復は無理とされた重篤な脳障害の患者の4割を社会復帰へ導いた人物です。

極限のプレッシャーの中で集中力を使い続けた実体験が、全編の土台になっている。だから主張に妙な熱と説得力があるんです。机上の精神論ではなく、命を救う現場で磨かれた理屈だ、という点は読む前に押さえておきたいところです。

集中力の源泉は「自己報酬神経群」

本書の中心にあるのが、自己報酬神経群という神経の集まりです。

これは「自分からやってやる」「自分を認めてほしい」という気持ちを生み出す部分。集中力や意欲の源は、ここが働くかどうかで決まると本書は言います。そしてこの神経は、A10神経群が「好き」「おもしろい」とプラスのレッテルを貼った情報に対して活性化する。

つまり順番はこうです。「おもしろい」と感じる→A10神経群がプラスのレッテルを貼る→自己報酬神経群が動く→集中力が出る。気合はこの流れのどこにも出てきません。

本書によれば、人間の脳は最大で130%まで力を発揮できる。その130%を引き出すスイッチは、損得ではなく「好き」という感情だというのです。

面白いのは休憩の話です。気持ちが乗って「楽しい」と感じているとき、脳は疲れていない。だから無理に休まず一気に進めたほうがいい。著者が留学先で出会ったノーベル医学賞受賞者は、二日連続で徹夜して研究に没頭していました。

労いの声をかけられると「ワクワクしながら最高の気分でやっている」と、むしろ怒って答えたそうです。「楽しい仕事は休むな」というのは現代の働き方論と真逆ですが、脳の理屈に立てば筋が通っている。

ここで私は、自分がいかに「とりあえず損得で選ぶ」癖に縛られていたかを思い知らされました。

いちばん刺さるのは「集中力を奪う三つの敵」

本書を読んで手が止まったのは、集中力は「足す」より「引く」が大事だ、という考え方でした。著者が挙げる敵は三つあります。

一つ目は損得勘定。「これをやっても給料は上がらないし」と考えながら作業すると、自己報酬神経群の働きが弱まる。効率やタイパを重んじる発想が、実は集中力を削っているという指摘です。

二つ目は否定語。「ムリ」「疲れた」「できない」「でも」。こうした言葉が耳から入ると、A10神経群が「この情報は必要ない」とマイナスに反応する。ただ、ネガティブな感情が湧くこと自体は止められません。そこで本書が出す技術が否定の否定です。「無理だ」と思ったら、すぐに「……と思ったけれど、今日は全能力を出して一時間でやり遂げる」と言葉で打ち消す。言語中枢を使い、瞬時にプラスへ変換するわけです。松坂大輔投手は渡米前、エラーの後に一度マウンドを降りて「今回はオレがやってやる」と言ってから投げる、という秘策を著者から授けられています。

三つ目は反省。これは意外かもしれません。「なんで失敗したんだろう」とダメな点ばかり振り返る反省は、脳に否定語を浴びせ続ける行為だと本書は言う。「反省すればするほど勝負に弱くなる」──まじめな人ほどギクッとする一言です。見るべきは「どうすれば次はうまくいくか」だけ。反省を美徳としてきた私たちには痛烈ですが、否定語が集中力を奪うという前提に立てば、この極端な物言いにも芯があります。

「コツコツ」を捨てて一気に駆け上がる

本書でもっとも常識を覆すのが、「コツコツ努力する」を集中力の大敵だと断じるくだりです。

「コツコツやろう」という言葉の裏には、「失敗しないよう慎重にいこう」という安全策と、「そろそろ終わりだな」という気の緩みが潜んでいる。どちらも自己保存の本能を過剰に働かせ、パフォーマンスを落とす。

代わりに勧めるのが、期限を切って一気に達成する「即行」です。通常1時間の作業を「30分でやり切る」と課すと、脳は一気に集中モードに入る。

ただし最終ゴールだけ決めてもダメで、「今月中に」のような遠い期限では脳が緩む。だからマイルストーンをあえて小さく刻む。「今日は10ページ」のような必ず達成できる小目標を置き、「できた!」

という小さな成功体験を自己報酬神経群へのご褒美にする。8割終わって気が緩む場面でも、「大体できた」「まあいいか」はNGワード。「ここからが最後の仕上げだ」と引き締める。

これは安易な自己啓発の根性論とは逆で、脳のサボり方を見越して先回りする設計思想なのだと感じました。

環境と無心──「マイゾーン」「技体心」

集中は個人の中だけの話に留まりません。脳細胞が同じ目的でリンクする同期発火を起こせば、チームの集中力も上がる。方法は特別ではなく、相手の目を見て気持ちを込めて聴く、それだけ。会議でパソコンから目を離して相手を見る基本動作が、自分自身の集中トレーニングにもなるといいます。

環境面のキーワードがマイゾーンです。姿勢を正し、目線を水平にし、手で「ここが自分のゾーンだ」と空間を区切る。これだけでカフェでも集中モードに入れる。

背景にあるのは脳全体を支える空間認知能で、だから正しい姿勢を保つこと自体がトレーニングになる。逆に、成績トップの支社にフリーデスクを導入したらマイゾーンを作れず、一年後に業績最下位へ転落した企業の例も載っています。

最後の段階が、雑念も自己保存の本能も消える無心レベル。入り口は自分独自のルーティンを作り、体が勝手に動くまで繰り返すこと。ライバルも「打ち負かす敵」ではなく「自分を高めてくれる仲間」と捉え直すと、脳の「仲間になりたい本能」が集中力のツールに変わる。

そして本書はこの一連を「心技体」ならぬ「技体心」と呼びます。心で頑張るのではなく、まず「誰にも負けない技」を磨く。その技が自信を生み、折れない心を連れてくる、という逆転の発想です。

どんな人に効くか

精神論ではなく、脳の理屈から「なぜ自分は集中できないのか」を知りたい人に、本書はよく効きます。練習ではできるのに本番で頭が真っ白になる人、まじめにコツコツやってきたのに成果が出ず苦しんでいる人には、視界がひらける一冊になるはずです。

逆に、すぐ使える小技を数十個リストで欲しいタイプには少し回りくどい。本書はまず「集中できない根っこ」を脳の本能から解き明かし、そこから処方箋へ進む構成だからです。

読み終えて残るのは、テクニックの一覧ではなく一つの態度です。集中できないのは意志が弱いからではなく、脳が正常に自分を守っているだけ。だったら、脳に「これは好きだ」「やってやる」と思わせる側に回ればいい。

損得を脇に置き、否定語を打ち消し、3日で一気に駆け上がる。「年のせいで集中力が落ちる」は大ウソだ、と本書は言い切ります。落ちたのは脳の力ではなく、脳の使い方なのだと。

明日、「面倒だな」と思った瞬間に「……と思ったけれど」と言い直せたら、それだけでもう半分は変わり始めています。


合わせて読みたい

『スマホ脳』アンデシュ・ハンセン 本書が「集中力を奪う三つの敵」を脳の本能から説いたのに対し、こちらは集中を最も激しく奪う現代の装置=スマホの正体を進化の視点から解剖します。マイゾーンからスマホを排除する理由を、生物学的に裏づけたい人に。

『集中力がすべてを解決する』樺沢紫苑 本書の「無心レベル」やマイゾーンと同じ、ゾーンに入る技術を扱った一冊です。脳科学者である林さんの本能アプローチと、精神科医の樺沢さんの実践アプローチを並べると、集中の入り口が立体的に見えてきます。

『整える習慣』小林弘幸 「実力を120に上げても、70しか出せなければ意味がない」という問題意識が、本書の「本番で力を出す集中力」とまっすぐ重なります。自律神経のコンディショニングという別ルートから、同じゴールへ近づける本です。


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