朝、アラームが鳴る。手が伸びて、スヌーズボタンを押す。あと5分だけ、と。
この何気ない動作を、著者は「敗北宣言」と呼びます。自分の人生に対して、無意識に「今日も頑張りたくない」と宣言している。たかが二度寝、されど二度寝。本書はその一手から、人生のクオリティが静かに削られていくと言い切ります。
著者のハル・エルロッド氏は、20歳のときに飲酒運転のトラックと正面衝突し、6分間の心肺停止と11箇所の骨折を経験した人です。「二度と歩けない」と宣告されながら復活し、さらに2008年の経済破綻で42万5000ドルの負債を抱えてうつ状態に陥った。そのどん底から這い上がった方法が、朝の習慣でした。本書は世界20カ国で翻訳され、アメリカだけで24万部以上を売り上げています。
こんな人におすすめ
向いているのは、こんな朝を過ごしている人です。
- アラームを止めるたびに二度寝して、毎朝ギリギリで家を飛び出している
- 「変わりたい」と思いながら、忙しさを言い訳に自己投資の時間を後回しにしている
- 新しい習慣を始めても、いつも数週間で消えてなくなる
特に効くのは、「自分は朝型人間じゃない」と思い込んでいる人です。本書は朝が苦手な人を責めません。むしろ、なぜ朝が苦痛になるのか、その仕組みから解きほぐしていきます。逆に、すでに早起きが完璧に習慣化している人には、目新しさは薄いかもしれません。
この本が問うていること
著者がもっとも強く言い切る一文があります。
あなたの成功のレベルが人間としての成長のレベルを超えることはめったにない。
成功は、追いかけて手に入れるものではない。理想の自分にふさわしい人間に成長したとき、自然と「引き寄せる」もの。だから、望む人生が10点満点なら、自分自身を10点の人間に育てる時間が要ります。
ところが多くの人は、その時間を持っていません。日々の仕事と生活をこなすだけで精一杯で、自己成長の「余分な」時間は残らない。そこで著者は、まだ何にも邪魔されていない一日の最初に、その時間を確保しようと提案します。「最初の1時間が1日の方向を決める舵になる」というのが、本書を貫く前提です。
ここで一つ、背筋が寒くなるデータが出てきます。アメリカ社会保障局の追跡データによると、キャリアを始めて40年後、経済的に自由な人生を築けたのはわずか5パーセント。残り95パーセントは、一生苦労が続くか、誰かの世話になっている。多くの人は、潜在能力以下のレベルで妥協して生きている。著者はこれを「妥協の人生」と呼びます。
なぜ過去が、今の自分の限界を決めてしまうのか
平凡に留まってしまう原因として、著者が名づけたのが「バックミラー症候群」です。
車のバックミラーは後ろを映します。人は無意識に、過去の失敗や「昔の自分」をそのミラー越しに参照して、今の自分の限界を勝手に決めてしまう。前は無理だったから、今度も無理だろう、と。本当はフロントガラスの向こうに無限の道が広がっているのに、後ろばかり見て進んでいる状態です。
ここから抜け出す出発点が、100パーセントの責任という考え方です。
著者は、責任と非難をはっきり分けます。事故に遭ったとき、悪いのは飲酒運転のトラックです。それは事実。でも、その後の人生を改善する責任は、誰のものでもなく自分にある。「誰が悪いか」ではなく「誰が改善するか」に焦点を移した瞬間から、変化が始まる。
起こった出来事には意味がある。しかし、どの意味を選びとるかを決めるのは、自分の責任だ。
逆境を「落ち込む材料」にするか「前進する燃料」にするか。それを選ぶのは自分だ、という強い覚悟の話です。
スヌーズボタンを押した時点で、もう負けている
本書がもっとも挑発的なのが、目覚めの場面です。
二度寝は無害な習慣だと、普通は思います。でも著者に言わせれば、スヌーズボタンを押すのは敗北宣言です。ベッドにしがみつくその数分間、人は「自分の人生に抵抗している」。ネガティブなエネルギーで一日を始めることになる。
ここで著者が挑むのが、睡眠時間の常識です。目覚めたときの気分は、実際に何時間眠ったかよりも、寝る前に「自分には何時間必要だ」と考えていたか、その思い込みに大きく左右される。著者の実験では、寝る前に「この睡眠でエネルギーに満ちて目覚める」と言い聞かせることで、4〜5時間でもスッキリ起きられたといいます。
科学的エビデンスは弱い主張で、ここは本書の限界の一つです。ただ、起きる前から「どうせ眠い」と決めつけている人にとっては、試す価値のある問いではあります。
そのうえで、確実にベッドを出るための5つのステップが用意されています。
1. 前夜のうちに意志を固める 寝る前に「明日の朝はエネルギーに満ちて目覚める」と前向きに自分へ宣言しておく。朝起きて最初に考えることは、たいてい寝る前に最後に考えたことと同じだからです。
2. アラームをベッドから遠ざける 止めるために必ず立ち上がらなければならない位置に置く。身体を動かすこと自体が目覚めのスイッチになります。
3. 起きたらすぐ歯を磨き、顔を洗う 口と顔をさっぱりさせて、頭をシャキッとさせる。
4. コップ1杯の水を飲む 睡眠中に失われた水分を補給して、身体を起こす。
5. 運動着にすぐ着替える この後のエクササイズへ、流れで入れるようにしておく。
目指すのは、子どもの頃の「クリスマスの朝」です。ワクワクして、早く起きたくて仕方がない、あの感覚を朝に取り戻す。
人生を変える6つの習慣「SAVERS」
本書の中心が、毎朝行う6つの習慣です。英単語の頭文字をつなげて「SAVERS」と呼ばれます。一つずつ見ていきます。
サイレンス(沈黙) 瞑想や深呼吸で心を鎮める時間です。沈黙には、ストレスを軽減し、頭をクリアにする効果がある。やり方はシンプルで、背筋を伸ばして座り、3秒吸って3秒止めて3秒吐く呼吸を繰り返す。思考が浮かんでも気にせず手放し、呼吸に意識を戻す。最初は1日5分で十分です。タッパーウェア社のCEOリック・ゴーイングス氏は、毎日20分の瞑想で重要なことを見極める眼力を得た、と紹介されています。
アファメーション(自己暗示) なりたい自分や目標を、肯定的な言葉で繰り返し唱える習慣です。過去の経験から作られた「自分には無理だ」という思い込みは、いわばプログラミング。そしてプログラミングは、いつでも書き換えられる。著者の友人マット氏は、毎朝シャワーで「俺は成功して当然の人間だ」と叫び続け、25歳までに5軒の家を所有するトップエンジニアになった、というエピソードが出てきます。
イメージング(視覚化) 目標を達成した自分や理想の一日を、五感を使ってありありと思い描く。映像が鮮やかなほど、現実化に向けた行動がスムーズになる。タイガー・ウッズ氏はショット前に必ず完璧なスイングを心の中でリハーサルし、ジャック・ニクラス氏は鮮明な画像を思い浮かべない限り打たなかった。ジム・キャリー氏は無名時代に「俳優業の報酬として」と書いた1千万ドルの小切手を自分宛てに書き、そのイメージを再生し続けた末、実際に1千万ドルのギャラを得たといいます。
エクササイズ(運動) 朝のうちに身体を動かして心拍数を上げ、脳と身体にエネルギーを巡らせる。ヨガでも軽い体操でもいい。著者が強調するのは、なぜ朝なのか、です。
疲れてしまう前、1日が忙しくなる前、エクササイズをしない新しい言い訳を思いつく前にやってしまおう。
仕事終わりのジムが続かないのは、夜にはもう言い訳が10個も用意されているからです。
リーディング(読書) 自己成長に役立つ本を、1日10ページ読む。専門家の知識を最速で吸収するための時間です。ここで効くのが「時短再読」という読み方。目的を持って読み、刺さった箇所に印をつけ、読了後はその印の部分だけを何度も読み返して潜在意識に刷り込む。要約ノートを作るより、引っかかった一行を繰り返す方が定着するという発想です。
ライティング(日記) 感謝していること、達成したこと、学んだ教訓を書き出す。思考を頭から取り出して文字にすると、ひらめきが起こる。書くことは記録ではなく、頭の整理とアイデア創出のための行為だ、という位置づけです。
この6つを毎朝、自分のスケジュールに合わせて行う。基本は60分ですが、形式に縛られる必要はありません。
「時間がない」を、最初から潰しておく
本書がよくできているのは、読者の言い訳を先回りして潰しているところです。
最大の言い訳「時間がない」には、6分間版が用意されています。サイレンス、アファメーション、イメージング、ライティング、リーディング、エクササイズを各1分ずつ。たった6分でも、一日のクオリティと生産性は確実に上がる、と著者は言います。USAトゥデイの調査では、アメリカ人の82パーセントが「本を書いてみたい」と思いながら、実現できない理由の一位が「時間がない」でした。時間は、あるかないかではなく、確保するかしないかの問題だ、というわけです。
もう一つの言い訳が「どうせ三日坊主になる」。本を読んだ人の95パーセントは内容を実践しない、という統計まで突きつけられます。
30日間を、3つのフェーズに分けて越える
そこで提示されるのが、習慣を定着させる30日間の戦略です。心理学者マクスウェル・マルツ氏は、人が大きな変化に適応するには平均21日かかると主張しました。本書はそれを少し延ばし、30日を10日ずつの3段階に分けます。
第1段階・1〜10日「耐えがたい期間」 新しい習慣がとにかく辛い。でも、この辛さは一時的なものだと割り切って乗り切る。
第2段階・11〜20日「不快な期間」 少し楽になる。ただし楽になった分、古い習慣に戻りやすい。油断が危ない時期です。
第3段階・21〜30日「止まらなくなる期間」 習慣が自分のアイデンティティの一部になる。やらない方が気持ち悪くなり、無意識に、しかも楽しんで続けられるようになる。
挫折が一番起きやすいのは最初の20日だと、最初から知っておく。これだけで、辛さの受け止め方が変わります。
ここで著者が一つ警告するのが、日々の小さな選択の積み重ねです。
毎回「正しい道」ではなく「ラクな道」を選んでいれば、それがあなたのアイデンティティや人柄になる。
今日一回サボることは、ただ一日休むことではない。「サボる人間」になる方向へ、自分を一歩動かすことだ、という捉え方です。
明日からできる4つのアクション
本書を実生活に落とすなら、この順番が現実的です。
1. 今夜、アラームをベッドから遠い場所に置く 止めるために立ち上がらざるを得ない位置へ。同時に枕元にコップ1杯の水を用意しておく。最も簡単で、最も効果がある一手です。
2. 明日の朝、6分間版だけやってみる 最初から60分を狙わない。各1分ずつの6分から始める。ハードルを下げきることが、継続の最大のコツです。
3. 自分専用のアファメーションを1つ作る 「私は今日、最高の一日を過ごす」など、前向きになれる一文を紙に書き、声に出して読む。感情を込めるのが効くポイントです。
4. 責任パートナーを1人誘う 本を読んでも95パーセントが実践しないのは、誰にも責任を問われないから。一緒に挑戦し、進捗を報告し合える相手を1人見つける。これが挫折を防ぐ最後の安全網になります。
増やしすぎると続きません。まずは1番だけでいい。今夜やれることから始めるのが、本書の精神に一番合っています。
おわりに
読み終えて残るのは、6つの習慣のリストではありません。
朝の数分間に、自分は「ラクな道」と「正しい道」のどちらを選んでいるか。その小さな選択の積み重ねが、人間としてのレベルを作り、そのレベルが人生を引き寄せる。本書が言っているのは、結局そういうことでした。
あなたが今いる場所は、過去の自分の結果である。しかし、最終的にどこにたどり着くかは、今この瞬間からのあなたの選択にかかっている。
明日の朝、アラームが鳴ったとき。手をスヌーズボタンに伸ばすか、一気に起き上がるか。その一瞬から、本書の効果は静かに立ち上がってきます。
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『複利で伸びる1つの習慣』ジェームズ・クリアー 「ラクな道を選び続けると、それがアイデンティティになる」という本書の警告を、行動科学の視点から逆向きに体系化した本です。小さな習慣がどう自分という人間を作り変えるのか、その設計図が手に入ります。
『自分を変える習慣力』三浦将 本書のアファメーションが狙う「潜在意識の書き換え」を、より丁寧に扱った一冊です。意志の力で無理やり頑張るのではなく、無意識を味方につけて人生を好転させたい人にとって、モーニングメソッドの理論的な補強線になります。


