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『目的ドリブンの思考法』望月安迪さん|「何のために」を忘れた仕事は成果ゼロ

思考法・問題解決 ✍ 望月安迪さん
約8分で読めます

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『目的ドリブンの思考法』
目次

毎日きちんと働いている。タスクもこなしている。なのに、評価も成果もついてこない。

この本は、その理由を最初の数ページで突きつけてきます。

「仕事で失敗したければ、目的を忘れ去ってやればいい」

『目的ドリブンの思考法』は、デロイト トーマツ コンサルティングのシニアマネジャー、望月安迪さんによる一冊。変化が激しく先の読めない時代に、最小の労力で最大の成果を出すための「思考の型」を体系化した本です。

私がこの本を手に取ったのは、まさに「忙しいのに手応えがない」という感覚に心当たりがあったから。読み終えて感じたのは、これは小手先のタスク管理術ではなく、仕事の出発点そのものを問い直す本だということでした。

冒頭の挑発的な一文は、裏を返せば「成功したければ、まず目的を握れ」というメッセージにほかなりません。本書はその一点を、骨格と動作の両面から徹底的に掘り下げていきます。

図解

「業務の完了」と「成果」は、まったくの別物だ

本書の核心は驚くほどシンプルです。成果とは「業務の完了」ではなく「目的の達成」と等しい。だから仕事は「何を(What)」ではなく「何のために(Why)」から始めなければならない――。

タスクを大量にこなしても、それが目的に貢献していなければ成果はゼロ。言われてみれば当たり前なのに、日々の現場ではこの当たり前がいちばん抜け落ちます。「やること」に追われるうち、いつの間にか手段そのものが目的にすり替わっていく。あの感覚を、本書は「手段の目的化」と名指しして容赦なく突いてきます。

ここが効くのは、忙しさで自分を慰めてきた人にこそ、です。私はこの一節を読んで、「量で自分を評価する癖」がいかに楽な逃げ場だったかを思い知らされました。

締め切りに追われ、メールを返し、会議をこなす。一日の終わりに「今日もよく働いた」と感じる。けれどその達成感は、目的に照らした成果とは何の関係もないかもしれない。

厳しい指摘ですが、無駄な努力から人を解放してくれる視点でもあります。望月さんはこの「目的起点」の発想を、〈目的→目標→手段〉という骨格と、それを動かす「5つの基本動作」へと落とし込んでいきます。

なぜ「逆算」でなければ間に合わないのか

本書が前提に置くのは、変動的で不確実、複雑で曖昧な――いわゆるVUCAの時代背景です。10年先が読めない世界では、過去を参照して未来を考えるやり方が通用しなくなる。前例踏襲や改善の積み上げという「バックミラー思考」では、変化のスピードに置いていかれてしまう。

そこで著者が掲げるのがバックキャスト思考です。まず「望む未来(目的)」を描き、そこから現在へ逆算して、いま何をすべきかを決める。未来は予測するものではなく、目的として先に決め、自分で創りにいくもの――この姿勢が本書全体を貫く通奏低音になっています。

リンカーンが残したとされる「未来を予測する最良の方法は、それを創り出すことにある」という言葉も、この文脈で引かれます。

「目的地を知らない船乗りに、追い風を捉えることはできない」

向かう先が定まっていなければ、どんな好機が来ても活かせない。逆に目的が明確であれば、予想外の追い風すら推進力に変えられる。シンプルですが、計画と運の関係を一行で言い当てた、刺さる比喩です。

〈目的→目標→手段〉という、たった一本の背骨

抽象的な目的だけでは人は動けません。そこで本書は、目的を具体的な「目標」に変換し、さらに目標を「手段」へと分解する三層の構造を土台に据えます。

「健康な身体を取り戻す」が目的なら、「睡眠を最低7時間確保する」が目標、「寝る前にスマホを触らない」が手段。この縦の一貫性が崩れた瞬間に、手段の目的化が始まります。

逆に言えば、自分の仕事をこの三行で書けるかどうかが、迷子になっていないかの試金石になる。私はこの「三行テスト」が本書から得た最大の実用ツールだと思っています。

注意したいのは、目標は目的の代わりにはならない、という点です。「売上前年比110%」は立派な目標ですが、それ自体は何のためかを語りません。目標止まりで走り出すと、達成しても虚しさが残ったり、状況が変わったときに方向転換できなくなったりする。

三層を一本の線でつなぐとは、目標の上に必ず「なぜ」を据え続けることを意味します。

目的はどう見つけるか――「裏の問い」と「困難の分割」

では肝心の目的は、どうやって設定すればいいのか。本書はここで思考の向きを切り替えます。要素を細かく分けていく「分析(アナリシス)」ではなく、バラバラの要素を束ねて「要するに我々が目指すのはこれだ」と方向を示す「総合(シンセシス)」こそ、リーダーに求められる力だというのです。

分解は得意でも、束ねるのが苦手――多くの実務家に刺さる指摘ではないでしょうか。

目的が見えないときに効く問いも紹介されます。それが「裏の問い」――「もし、その仕事がなくなったらどうなるか?」です。この一問を投げると、その仕事が本来果たしていた役割、つまり真の目的が浮かび上がる。

惰性で続く定例会議や、誰も読まない報告書を見直すときにも有効です。「なくなって困らない」なら、それはやめていい仕事かもしれない。

そして目的を目標に落とすときの合言葉が「困難は分割せよ」。大きすぎる目標は、構成要素や時間軸で小さなマイルストーンに切り分けます。「英語を身につける」なら「リスニング」「単語」「3カ月後に基礎単語を聞き分ける」というように。

設定した目標がSMART(具体的・測定可能・達成可能・目的と整合・期限明確)を満たすかを点検すれば、ぐっと確実になります。

仕事を回す「5つの基本動作」

ここからが本書の真骨頂です。手段を実際に機能させるために、職種を問わず使える型として「認知・判断・行動・予測・学習」という5つの基本動作が用意されています。

前半の「認知・判断・行動」は目の前の問題に立ち向かう土台、後半の「予測・学習」は未来への先手。この5つのどこにボトルネックがあるかを点検すれば、仕事の詰まりの原因が見えてくる、という設計です。

認知とは、解くべき「正しい問題」を見極めること。問題とは、目指す姿と現状の「ギャップ」のことなので、目標がなければ問題も定義できません。アインシュタインが「人生を変える問題を解くのに1時間あれば、55分は正しい問いの確認に使う」と語ったという逸話が添えられ、いかに私たちが問いを疑う前に走り出しているかを思い知らされます。さらに、すべての問題に取り組む必要はなく、成果を左右する重要な問題は全体の2割程度。「インパクト」と「解決可能性」の2軸で選び、「なぜ」を繰り返して表面の症状ではなく真因に迫ります。

判断については、本書の定義が鋭い。判断とは選択肢を並べて比べることではなく、「すること」と「しないこと」を分かつことだと言い切ります。A案かB案かで迷ったら、目的・目標から「判断軸」を抽出し、その軸で評価して「B案はやらない」と明確に切り捨てる。やらないことを決めてリソースを一点に集中させる――これが本当の判断だ、と。素早く決める流動性知能と、経験に裏打ちされた結晶性知能の両方を使えという補足も実務的です。

行動のパートは、リーダーにとって最も耳が痛いかもしれません。計画を立ててもチームが動かないのは、「何を」「どのように」しか伝えていないから。それでは盲目的な作業者集団になってしまう。「何のために」を含めた〈目的→目標→手段〉のストーリーとして伝えてはじめて、メンバーは自分の存在意義を理解し、自律的に動き始めます。目的という旗印こそがリーダーに力を与える、という一節は印象的でした。最後は「誰が」「いつまでに」を決めて任せ、成果は行動の「スピード×正しさ」で決まると整理されます。

リスクを「目的の影」と捉える――予測と学習

後半の二つは、本書の独創性がとりわけ光る部分です。

予測におけるリスク観がユニークでした。本書はリスクを、目的をきっかけに生まれ、手段に取りついて目標達成を脅かすもの、と捉えます。旅行(目的)のために車(手段)を使うから、ガス欠(リスク)が問題になる。目的がなければ、ただの事象は脅威にすらならない。目的とリスクは光と影の関係にあるわけです。だから手段に潜むリスクを洗い出し、「脅威度」と自社の「脆弱性」でインパクトを評価し、重大なものには軽減・回避・移転・受容のいずれかの手を、問題が起きる前に打つ。データが揃わなくても、NASAが有識者の主観で確率を見積もったように判断は下せる、という現実的な姿勢も心強い。「備えは最悪に向け、希望は最良に向けよ」という言葉が、この章を締めくくります。

学習は、本書でもっとも示唆に富む動作です。学習の本質は習熟ではなく「転用」にある、と望月さんは言います。カギはアナロジー(類推)。未知の課題に出会ったら、その仕事が結局のところ何のためのものかと共通目的を一段抽象化し、同じ目的を持つ既知の領域からヒントを借りる。象徴的なのが、トヨタ生産方式の生みの親・大野耐一さんが、アメリカのスーパーマーケットの陳列を観察してジャスト・イン・タイム方式を着想した話です。スーパーと工場という無関係な領域が、「必要なものを必要なときに必要なだけ」という共通目的でつながった。「報告資料の作成」を「受け手を満足させる提供物をつくる」と抽象化すれば、料理の工夫から資料の構成のヒントが借りられる――この、共通目的をハブに異分野をつなぐ手法が、学びをレバレッジに変えます。

ここまで5つの動作を一気に紹介してきましたが、原書はそれぞれにワークシートのような問いと手順を備えていて、現場でそのまま試せる作りになっています。本稿で骨子をつかんだら、ぜひ実物の解像度を確かめてみてください。

明日から何を変えるか、どんな人に効くか

実践のうち、今日から始められるものを三つに絞ります。第一に、作業を振られたらすぐ手を動かさず「この仕事がなくなったら誰がどう困るか?」と裏の問いを立てる。

第二に、いま抱える仕事を「①何のために」「②何を目指して」「③どうやって」の三行で書き、上司やチームとすり合わせる。第三に、行き詰まったらアナロジーで考え、別領域の成功例から構造を借りてくる。

どれも道具を必要としない、思考の習慣です。

そのうえで、この本が刺さるのは、「忙しさ」と「成果」を別物だと言い切ってくれるからです。

努力の量で自分を測ってきたプレイヤーには、空回りの正体を突きつける鏡になる。プレイヤーから昇格したばかりのリーダーには、チームを「何を・どうやって」ではなく「何のために」で動かす言葉を授けてくれる。

一方で、前例の積み上げで安定して回る業務だけを担う人や、目的論より作業の時短テクだけを手早く知りたい人には、やや回りくどく感じるかもしれません。

読後に残るのは、手を動かす前に一度だけ「これは何のためか」と問い直す――その小さな習慣です。たったそれだけのことが、努力を成果に変える分かれ道になる。

仕事がうまくいかないときは、認知・判断・行動・予測・学習の5つのどこが詰まっているかを点検し、それでも迷ったら例の「三行」で自分の仕事を書いてみる。

本書を閉じたあと、まずそこから試してみてほしいと思います。


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『論点思考』内田和成さん 本書の「認知」――正しい問題(Right Issue)を見極める――を、もっと深く掘り下げた一冊。「正しい答えの前に正しい問いがある」という主張が、目的ドリブンの土台と重なります。

『問題解決 ビジネスパーソン必須の仕事術』高田貴久さん 「思いつきの対策」を捨てて、ギャップから真因をたどる手順を実務目線で解説。本書の5つの基本動作を、より具体的なステップで補完してくれます。

目標は戦略ではない。 「目標」と「目的・戦略」を混同する罠を扱ったコラム。本書の三層ピラミッドが、なぜ目標止まりではダメなのかを、短く鋭く確認できます。


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