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『こうやって頭のなかを言語化する。』荒木俊哉さん|言語化力のベースは「話す力」ではなく「聞く力」だった

コミュニケーション・文章術 ✍ 荒木俊哉さん
約6分で読めます

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『こうやって頭のなかを言語化する。』
目次

会議で急に意見を求められて、頭が真っ白になったことはありませんか。

言いたいことはある。でも言葉が出てこない。あとから「ああ言えばよかった」と悔やむ。私も何度もありました。

そういうとき、多くの人は「自分には言葉のセンスがない」と片づけてしまいます。でも本書『こうやって頭のなかを言語化する。』は、その思い込みを真正面から否定します。

著者の荒木俊哉さんは、言語化力は才能やセンスではなく、正しい方法を反復すれば誰にでも身につく「能力」だと言い切ります。そして、その土台にあるのは「話す力」でも「書く力」でもなく、意外にも「聞く力」だと。

しかも、ここでいう「聞く」は他人の話を聞くことではありません。自分で自分の話を聞くこと――つまり自問自答のことです。この一点で、本書はよくある「伝え方の本」とは別の場所に立っています。

図解

「どう言うか」より先に、「なにを言うか」

世の中の伝え方の本は、たいてい「どう言うか」を教えます。結論から話す、PREPの型を使う、間を取る。けれど著者は、そこに大きな違和感を抱いています。

本書のたとえでいえば、「伝え方」はレシピで、「言語化」は食材です。

「伝え方」はレシピで、「言語化」は食材

中身(食材)がないのに、外側(レシピ)だけ工夫しても、いずれメッキは剥がれる。言葉にする中身、「なにを言うか」が定まっていないのに伝え方のテクニックだけ磨いても、結局は伝わらない――という指摘です。

料理本を何冊読んでも、冷蔵庫が空っぽなら一皿も作れない。当たり前のようでいて、伝え方の悩みを抱える人ほど見落としているポイントだと思います。

ここで著者は、思考そのものを「自問自答」と定義し直します。考えるとは漠然と悩むことではなく、明確な問いに対して自分で答えを探す行為だ、と。だから「思考量=自問自答する量」であり、「思考の質=自問自答の質」になる。

この定義はシンプルですが、効きます。私たちが「考えている」と思っているとき、その多くは同じ不安をぐるぐる反芻しているだけで、問いの形になっていない。

問いがなければ答えも出ない、という当たり前の構造を突きつけてくるからです。

説得力があるのは、プロのコピーライターである著者自身の告白です。コピーは一瞬のひらめきで生まれるものではなく、言葉をつくる時間の約9割は「聞く(自問自答する)」工程に費やされている、と打ち明けます。

何時間も何日も自分に問い続けて、ようやくたった1行を見つけ出す。きらびやかな言葉の裏にあるのが、地味な自問自答の積み重ねだという事実は、言語化を「センス」と捉える発想を静かに崩してくれます。

看板メソッドの肝は、たった6文字

本書の心臓部は、1日3分・3ステップでできる「言語化ノート術」です。ここは出し惜しみせず、手順をそのまま紹介します。

第一のステップは「ためる」。その日に心が動いたできごとと、それに対して感じたことを短くメモします。1日1つでかまいません。「プレゼン終了。テンション上がった」「先輩に挨拶されなかった。モヤモヤした」――これくらい砕けた言葉でいい、という気軽さがまずいい。スマホのメモで十分です。

第二のステップが「きく」。ここが本書最大の発明だと感じました。メモの末尾に「のはなぜか?」という6文字を足すだけで、自分への問いが一瞬で完成してしまう。「先輩に挨拶されなかった。

モヤモヤした。のはなぜか?」という具合です。問いができたら、浮かんだ言葉を3分間、目標5つ以上、きれいに書こうとせず書きなぐる。「自分に問いを立てるのが難しい」という、誰もがつまずく壁を、たった6文字で越えさせる。

前著の読者の声から生まれた仕組みだそうですが、この一手だけでも本書を手に取る価値があると思います。

第三のステップが「まとめる」。書き出した言葉から印象的なものを選び、現時点の「結論」を1行にまとめます。「プレゼンでテンションが上がったのは、相手に認めてもらえたから」。これで完了です。著者はこのメソッドを約1年かけて手探りで開発し、1000人以上に体験してもらったといいます。

ちなみに著者は「手書き」と「ネガティブな感情」を強く推します。手書きを勧めるのは、デジタルから離れて自分と向き合えること、書きなぐることで本音が出やすいこと、後から見返して思考の癖に気づけることの3点。

そしてモヤモヤや怒りこそ深掘りの宝庫だといいます。きれいな文章を書こうとした瞬間に本音が引っ込む――この指摘は、多くの人の実感に反するけれど、確かに思い当たります。

愚痴が「自分の軸」に変わる瞬間

このメソッドが侮れないのは、単発のスッキリで終わらないところです。

本書には、メーカー勤務の30代会社員Kさんが5日間ノートを続ける実践例が出てきます。「謝らない先輩にモヤモヤした」という愚痴から出発し、問いを重ねた末に「自分の失敗を他人事のように考え、今後の改善も見られないから」という具体的な結論にたどり着く。

最初はただの感情の吐き出しだったものが、「自分は何を大切にしているのか」という価値観の発見へと変わっていく。その過程が生々しく描かれているので、自分でも再現できそうだと思わせてくれます。

さらに本書には、もう一段上の「結論の普遍化」という工程があります。「あの先輩にモヤモヤした」という個別の結論を、「私はこういう人にモヤモヤする」という汎用ルールへと主語を広げて捉え直す。

すると、その結論は特定の人間関係を超えて、あらゆる場面で使える「自分の判断基準」になります。職場のトラブルから得た学びを、プライベートの人間関係にも適用できる、という具合です。

1年続ければ365のメモ、つまり365の問いに対する自分の答えがストックされ、それが揺るぎない「自分の軸」になっていく。日々の3分が、人生の判断基準を積み上げる作業に変わるわけです。

そして本書は最後に、冒頭の「会議で頭が真っ白」へと話を戻します。結論から話せない本当の原因は、伝え方のスキル不足ではない。そもそも結論が自分のなかでまとまっていないだけだ、と。

逆にいえば、ノート術で自分なりの結論を日々ストックしておけば、急に振られても普段考えてきた結論を思い出して冒頭で言える。「なにを言うか」を整えれば、「どう言うか」は後から自然についてくる――冒頭の主張がここで一周して回収される構成は、読んでいて気持ちがいい。

最高の聞き手は、結局のところ自分自身

本書の根っこにあるのは、ひとつの発想の転換です。悩んだとき、人はつい誰かに相談したくなる。でも他人に話すと、上から目線でアドバイスされたり、本音を全部はさらけ出せなかったりして、かえって思考の幅が狭まることもある。

著者は、24時間いつでも遠慮なく本音を聞いてもらえる相手は、結局のところ「自分自身」だと言います。

正解のない時代に、インフルエンサーや他人の生き方に答えを求めるのではなく、自分との対話で軸を見つける。本書を貫くのは「いつだって答えは、すでに、自分のなかにある」という一文です。シンプルなノート術に深みを与えているのは、この思想だと思います。

もっとも、ここには留保もつけておきたい。「答えは自分のなかにある」という構えは、裏返せば、知らない世界や他者の視点に開かれにくくなる危うさも含んでいます。

自問自答は既知の材料を整理するには強力でも、自分が持っていない発想を外から取り込む装置ではない。だからこそ本書のノート術は、読書や人との対話で材料を増やす営みと組み合わせてこそ生きる、というのが私の読み方です。

どんな人に効くか

本書が向いているのは、伝え方の小手先テクニックをひと通り試して、それでも何かが足りないと感じている人です。型は知っているのに、いざ口にすると的外れになる。

職場やキャリアに、言葉にならないモヤモヤを抱えている。そういう人にとって、本書は「中身のつくり方」という抜けていたピースを差し出してくれます。

逆に、すぐ使える言い回しのストックだけが欲しい人や、日々の小さな習慣を続けるのが苦手な人には、少し回り道に感じられるかもしれません。本書が求めるのは1日3分とはいえ、続けることそのものだからです。

リスキリングだ新しいスキルだと言われる時代に、本書はあえて逆を行きます。どんな資格よりも、まず「自分」を学べ、と。言語化とは、絶えず変化する自分を繰り返し学び直す行為であり、だから著者は「言語化に終わりはない」と書きます。

一度出した答えに縛られず、価値観が変わればまた書き直せばいい。

明日、心が動く瞬間がきっとあります。そのとき、スマホに一行だけメモしてみてください。「○○があって、△△と感じた」。そこに「のはなぜか?」を足すところから、自分との対話は始まります。

合わせて読みたい

『瞬時に「言語化できる人」が、うまくいく。』荒木俊哉さん 本書の著者の前著で、本書でも続けて読む一冊として挙げられています。ノート術でためた「なにを言うか」を、いざという場面でどう瞬時に引き出すかが詳しく学べます。

『人は聞き方が9割』永松茂久さん 本書が言語化の土台に置く「聞く力」を、対人関係の側から深掘りできます。他人の話を聞く技術と、自分の話を聞く技術を両輪で身につけたい人に。

『すごい言語化』木暮太一さん 「語彙力がないから言葉にできない」という誤解を解く一冊です。語彙ではなく中身(なにを言うか)が問題だという本書の主張と、響き合いながら補い合います。


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