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『小飼弾の超訳「お金」理論』小飼弾さん|お金の正体は「みんなで信じている幻」だった

投資・資産形成
約8分で読めます
『小飼弾の超訳「お金」理論』

私たちはいつも、給料が安い、将来が不安だと、お金に振り回されています。でも、そもそもお金の正体って何なのでしょうか。

この問いに、プログラマーで投資家の小飼弾さんが出した答えは身もふたもないものでした。お金は「共同幻想」、つまり、みんなが価値があると信じているだけの実体のないものだ、と。

『小飼弾の超訳「お金」理論』は、この一点を出発点に、バランスシートというたった一つの道具で資本主義の仕組みを丸ごと解き明かしていきます。会社は誰のものか。なぜ消費税は不公平なのか。これからの時代になぜお金を配るべきなのか。読み終えると、お金にまつわる景色がずいぶん違って見えてきます。

こんな人におすすめ

お金の正体は「共同幻想」である

本書はいきなり、私たちのお金観をリセットします。

「お金の正体とは『共同幻想』です。」

お金それ自体に価値はありません。ただの紙切れであり、データです。それでも私たちが買い物できるのは、みんなが「これには価値がある」と信じ込んでいるから。この共同の思い込みのおかげで、見ず知らずの他人とも取引が成立します。

お金には3つの機能があると著者は整理します。モノの価値を測る「価値尺度」、交換を仲立ちする「交換手段」、そして価値をためておける「価値貯蔵」。腐ってしまう野菜と違い、お金にすれば価値を保存して好きなときに使えます。

お金の起源についても面白い指摘があります。経済学者フェリックス・マーティンさんが紹介したミクロネシア・ヤップ島の巨大な石貨「フェイ」。あれは現物を動かさず、所有権だけを帳簿のように移していました。ここから、お金の起源は物々交換ではなく「貸し借りの記録」だったという説が導かれます。お金とは、もともと信用の記録なのです。

バランスシートで、世界がスッキリ見える

共同幻想の次に著者が渡してくれる道具が「バランスシート(貸借対照表)」です。これが本書を貫く軸になります。

仕組みはシンプルで、こういう式で表せます。

資産(自分が使えるもの)=負債(他人から借りているもの)+資本(自分自身のもの)

左の「使えるもの」が、右の「借りもの」と「自分のもの」の合計と必ず釣り合う。だからバランスシートと呼ばれます。12世紀ごろに発明されたこの複式簿記こそ、人類の叡智であり資本主義の原点だと著者は言います。

ここで常識がひっくり返ります。多くの人は「借金しないことが偉い」と思っています。でも著者の見方は逆です。

「『借金しないことが偉い』と思っている人が多いのですが、借金できるだけの『信用を持っている』ことのほうが偉いのです。」

借金をプログラミングにたとえて、著者は「仮想記憶」と呼びます。自己資本がメインメモリなら、借金はストレージ。両方を合わせた分だけ、手持ち以上の大きなことができる。たとえば800万円の学資ローンを組んで大学へ行くと、負債は増えますが、同時に「知的な労働力」という資産も手に入ります。将来の収入増がその借金を上回るなら、立派な投資です。著者自身、留学中に実家が全焼して年利6.5%で借金に走った経験から、借りられるのは信用がある証だと実感したと言います。

ちなみに「よいバランスシート」とは何か。答えは、資産に占める現預金の割合が高く、負債の割合が低い状態。いつでも動かせる現金の強さを、著者は重く見ています。

会社は、あなたのものじゃない

バランスシートの道具を手にしたところで、著者はもっとシビアな事実を突きつけます。会社は誰のものか、という問いです。

会計的にも法的にも、答えは一つ。「株主のもの」です。会社とは、株主の資本と負債を組み合わせて利益を生み出す「仕組み」にすぎません。

「会社を所有している株主からすれば、従業員とは外様にすぎません。賃金という費用を支払って労働してもらっている、『会社の外にいる人』なのです。」

著者はさらに踏み込んで、従業員は法的に「什器と同じ消耗品」だと喝破します。だから会社が利益をためた内部留保も、すべて株主のもので、従業員に分配する義務はありません。アップルが1000億ドルの自社株買いで株主に還元する一方、組み立て工場の労働者の賃上げには応じない。これは冷たいのではなく、会社が株主のものだから当然だ、というわけです。

ではどうすればいいか。著者の答えは挑発的です。

「『給料を上げて』と言うのは、『どうやったら、ただの二等奴隷から奴隷軍曹や奴隷将校になれますか?』と聞いているようなものです。」

給料を上げてもらっても、労働力を売っている限り「奴隷」の構造からは抜け出せない。本当の正解は「オレにも所有権をよこせ」と要求すること、つまり自分も株主になって不労所得を得る側に回ることだと言います。

働き方についても同じ論理です。残業して頑張るのは、ストックオプションという巨額の分け前をもらえる経営陣の特権であって、お駄賃しかもらえない労働者がやることではない。「ただの労働者が超過勤務なんて10年早い」と一刀両断します。儲からない非効率な会社はさっさとつぶすべきで、守るべきは会社という器ではなく中の人だ、というのも本書の主張です。

消費税は「お金持ちの味方」だった

ミクロな視点(会社と自分)から、著者はマクロな視点(国の税制)へとスケールを広げます。

やり玉に挙がるのが消費税です。

「消費税というのは、一見フェアに見えてこれ以上にないほど、アンフェアな税制です。」

理由は逆進性にあります。消費税は消費に対してかかりますが、株や不動産の購入、つまり投資や貯蓄にはかかりません。だから、収入の多くを消費せざるをえない貧しい人ほど負担が重く、消費せずに投資へ回せる富裕層ほど負担が軽い。著者はこれを「持てる者の陰謀」と呼びます。

税の不公平はそれだけではありません。汗水たらして働いた給与所得には最大40%を超える累進課税がかかる一方、株の配当などの不労所得は約20%の固定税率。働くほど重く、持つほど軽い。資産家に圧倒的に有利な仕組みになっています。

この構造は、トマ・ピケティさんが示した法則ともつながります。「r>g」、つまり資本収益率(r)は経済成長率(g)より大きい。不労所得は、労働の給料よりも速いペースで増え続ける。だからこそ、ただ働いているだけでは格差は開く一方なのだ、と著者は指摘します。

お金を配ろう――自動化時代の処方箋

本書は最後に、社会全体の最適解へと着地します。それが「お金を配る」という結論です。

背景にあるのは自動化です。ゴールドマン・サックスのニューヨーク本社には2000年に600人のトレーダーがいましたが、AIへの置き換えが進み、2017年には人間がわずか2人になりました。人間の労働の価値は、こうしてどんどん下がっています。

労働を介してしかお金が分配されない今の仕組みのままでは、仕事を失った人は生きていけません。だから著者は「働かざる者食うべからず」という価値観を捨てよと言います。

「『働かざる者は食うべからず』などということを平気で口にしますが、その常識こそが、私たちを貧しいままにしているのです。」

そもそも、と著者は物理学まで持ち出します。地球上の価値を生み出しているのは太陽エネルギーと自然の法則であって、人間はそこから生まれたものを横取りしているだけ。だから「人間の労働こそが価値を生む」という思い込み自体が幻想だ、と。

具体策として挙がるのが、全国民に無条件でお金を配るベーシックインカムと、国が持つ株式などの資産からの配当を国民に配る「ベーシックアセット」です。社会をゲームの競技場にたとえ、全員が最低限の参加料をもらえる仕組みを作れば、人々は安心して挑戦でき、社会全体が豊かになると説きます。

放置すればどうなるか。富の偏在が極まると、フランス革命やポル・ポト派の虐殺のように、持たざる者が持てる者から奪う最悪のハードランディングが起きる。それを避けるためにも、所有権を分けて社会をソフトに着地させる必要がある、というのが著者の警告です。

明日から何を変えるか

本書の処方箋は、社会の話と個人の話の二段構えになっています。個人として今日からできることは、次の3つです。

1. まず「自分」に投資する 手元の資金が少ないうちは、いきなり株や不動産を買わない。著者いわく、最もエネルギー効率がいいのは自分の考え方を変え、行動を変えること。少しでもやりたいことについて、できないことをできるようにしていく。それが一番賢い投資戦略だと言います。

2. 身の回りを「バランスシート」で考える 家を買うか借りるか、どんな仕事を選ぶか。人生の選択を資産・負債・資本に置き換えて見る癖をつけます。たとえば持ち家は、負債を大きく増やすハイリスク・ハイリターンな投資。支払総額の損得ではなく、自分がどこまでリスクを許容できるかで判断する。世の中のお金の流れが、ぐっとクリアに見えてきます。

3. 少額から「所有する側」に回る お金が回ってこないのは、お金を生む資産、著者の言う「ガチョウ」を持っていないから。つみたてNISAやiDeCoを使い、少額から株式や投資信託を買ってみる。自分が働かなくてもお金が入ってくる不労所得の感覚を持つことが、労働者から所有者へ移る第一歩になります。

おわりに

読み終えて感じたのは、痛快さと、ちょっとした居心地の悪さでした。

「会社はあなたのものじゃない」「給料を上げてと言う時点で負けている」。挑発的な言葉が次々に飛んできて、自分の立ち位置を否応なく突きつけられます。著者はプログラマーらしく、お金や労働を道徳ではなくシステムとして冷静に分解していく。だから感情的な慰めはありません。

もちろん、お金を配るという結論をどう実現するかは、有権者の意識改革という重い宿題が残ります。それでも、お金は幻だと割り切り、バランスシートで世界を見て、所有する側へ一歩を踏み出す。この視点を持つだけで、お金への漠然とした不安が、少しだけ扱いやすいものに変わる気がしました。

「資本主義、本気出せ」。著者のこの一言には、仕組みさえアップデートすれば社会はもっと豊かになれる、という前向きな確信がこもっています。


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起業家が知るべき小飼弾『超訳「お金」理論』の衝撃的真実 同じ本を起業家・経営者の視点から読み解いた記事です。会社を「仕組み」として作る側の論理を知りたい人は、こちらと合わせて読むと立体的に理解できます。

『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』橘玲 本書が説く「所有者になれ」を、日本の税制や社会制度を具体的にハックする実務の側から教えてくれる一冊。消費税や不労所得課税の話と地続きで読めます。

『きみのお金は誰のため』田内学 お金そのものの本質を問い直す物語。本書の「共同幻想」という出発点を、別のやわらかい語り口で味わいたい人におすすめです。


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