本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『「確率思考」で市場を制する最強の投資術』エミン・ユルマズ氏|株で勝てないのは「やりすぎ」だから

投資・資産形成 ✍ エミン・ユルマズ氏
約7分で読めます

※ 本記事はアフィリエイトリンク(Amazonアソシエイト)を含みます。

『「確率思考」で市場を制する最強の投資術』
目次

「投資はギャンブルだから怖い」。そう思って、長いあいだ現金のまま動かさずにいました。

でも本書を読んで、見方が反転しました。怖いのはギャンブルだからではなく、ルールを知らないまま参加しているからだと気づかされたのです。

本書は、トルコ出身のエコノミスト・エミン・ユルマズ氏と、東大卒でポーカーの世界チャンピオンになった木原直哉氏の対談です。二人が口を揃えて言うのは、株式投資はポーカーと同じ「確率と期待値のゲーム」だということ。

そして勝つために要るのは難しいテクニックではなく、「参加しすぎない」「勝てる場所を選ぶ」「下がる側を先に見る」という、態度の話に終始します。

派手な必勝法ではなく、自分の手つきを整える話。だから読み終えると、銘柄表ではなく自分のふるまいのほうを見直したくなる。そういうタイプの一冊でした。

図解

株とポーカーは、同じ構造をしている

本書の出発点は、ポーカーとはカードゲームの形をした投資ゲームにすぎない、という一点に集約されます。

なぜそう言い切れるのか。どちらも相手の手札も未来の業績も完全には見えない「不完全情報ゲーム」だからです。見えない部分を公開情報から推測して賭ける——本書はこれを「リーディング」と呼びます。

そしてどちらも、結果はスキルと運の両方で決まる。短期では初心者がプロに勝つこともあるが、長期で生き残るのはスキルのある人だけ。木原氏の整理が鋭くて、運は配られるものであり、巡ってきた幸運を活かして利益を最大化できるかどうかこそがスキルに依存する、と言います。

運とスキルをこう切り分ける視点が、本全体を貫く軸になっています。負けたとき「運が悪かった」で済ませる人は、勝ったときも「運が良かっただけ」を見落とす。両方を運のせいにできなくなるのが、この切り分けの効きどころです。

ここで私が膝を打ったのは、この比喩が「上手い投資家」のイメージを静かに壊してくれることでした。たくさん取引して難しい分析をする人ではなく、勝てない局面では降りて、勝てる場所だけで淡々と賭ける人。その地味な像が、ポーカーという補助線によって急に説得力を持つのです。

負ける最大の理由は、たぶんあなたが思うのと逆

本書で一番意外だったのが、ここでした。素人がポーカーで負ける最大の要因は「ゲームに参加しすぎること」であり、株式投資でもまったく同じことが起きる、と二人は言います。

常に何か持っていないと落ち着かず、相場に張り付いて毎日トレードする。それが「頑張っている投資家」だと思いがちですが、本書は、動けば動くほど多くの人が負ける仕組みになっていると突きつけます。

裏づけとして引かれる数字が強烈です。台湾の研究によれば、1992年から2006年に取引した約45万人のデイトレーダーのうち、利益を出せていたのはわずか4000人ほど。それ以下の層は手数料を引くと稼ぎがほぼゼロになり、さらに下はマイナスに沈んでいた。

つまり、頻繁に売買する人の大半は、手数料という形で確実に資金を削られていく。一方ポーカーで勝ち残る人の参加率(VPIP)は15〜30%程度、すなわち配られた手札の7割前後を降りている。本当に勝てる局面だけに絞る人だけが生き残る、という構図がきれいに重なります。

木原氏はさらに踏み込んで、「上位1%に入るなんて簡単だ」と本気で思える人でなければ、やるほどお金を失っていく世界だと言います。トレードで稼ぐとは、その上位1%の椅子取りに自ら飛び込むこと。

そこまでの覚悟がないなら参加回数を減らすほうが期待値は上がる。「休むも相場」という古い格言が、確率の言葉で裏づけられているわけです。動かないことは、怠慢ではなく戦略になりうる。これは「何もしない時間」に罪悪感を覚える私たちにとって、思いのほか効く解毒剤でした。

どのテーブルに座るか、で勝負は始まる前に決まる

参加を絞ったうえで次に効くのが「どこで戦うか」です。ポーカーには、自分より弱い相手がいる卓を選ぶ「テーブルセレクション」という発想がある。強すぎる相手と同卓するのは自殺行為、と木原氏は言い切ります。

これを株に移すとこうなります。プロの機関投資家は運用額が大きすぎて、基本的に時価総額1000億円以上の大型株しか買えない。小さな会社の株は、買おうにも量が足りないのです。だから木原氏は、あえて時価総額20〜30億円から数百億円規模の小型株を主戦場にする。

そこには強敵が少なく、個人が知識と時間を武器に戦える「有利なテーブル」になるからです。しかもエミン氏は、日本という市場そのものが——ポーカーで最強の手札であるエースのペアを配られたくらい——有利な卓だと見ています。

そして個人には、機関投資家が持てない最強の武器がある。「時間」です。プロは四半期や1年で結果を求められ、成績が悪ければ資金を引き上げられる。

けれど個人は結果が出るまで何年でも待てる。この差は思っている以上に大きい、という指摘は、四半期に追われるプロには真似できない優位として腑に落ちました。

弱みだと思っていた「少額」と「素人」が、卓の選び方しだいで武器に変わるわけです。

上がる夢より、下がる現実を先に見る

投資のメンタルを根底から変えるのが、この順番の逆転でした。

何%の上昇を期待できるかということよりも、何%下がるリスクがあるかのほうがはるかに重要です。

注目すべきはアップサイド(上値)ではなくダウンサイド(下値)。現金が豊富で借金が少なく、株価が会社の本当の価値より割れている——そういう「これ以上下がりようがない」会社を選べば、何が起きても致命傷にならない。

私たちはつい「どこまで上がるか」から皮算用を始めますが、本書はその順番を引っくり返します。先に最悪を見積もって、それでも耐えられる場所にしか座らない。すると焦って売る理由が減り、結果として持ち続けられる。

利益を伸ばしつつ損失を抑えるという都合のいい話は構造的に矛盾しており、ローリスク・ハイリターンは幻想だ、と本書は釘を刺します。だからこそ取るリスクを「コントロールできる範囲」に収める。これがリスク管理の出発点になります。

投資する理由を2つ書けば、売り時に迷わない

下がる現実を見たうえで、いつ買い、いつ売るのか。本書の答えは驚くほどシンプルです。買う理由を最低2つ、ノートに書き出す。「割安だから」「連続増益しているから」のように。

そして、その理由が崩れて1つになったら、株価がどうであろうと機械的に売る。市場の成長と会社のシェア拡大という物語を描き、それが続く間だけ持ち続ける——エミン氏の言う「ストーリー投資」です。

売り時を株価ではなく「理由の生死」で判断するので、株価の上下に一喜一憂しないための、感情の手すりになります。

このルールが効くのは、人間が「降りられない生き物」だからです。すでに使ったお金や時間が惜しくて損切りできなくなる、サンクコストの罠。本書は、損失を「お金」ではなく「ゲームのポイント」だと思え、と言い換えます。

お金だと思うから痛いのであって、点数だと思えば淡々と計算に戻れる、という発想の転換です。

それでもつらいなら一度損切りして口座から消し、ストーリーが崩れていなければ同じ株価で買い直す、という現実的な逃げ道まで用意されている。

逆に、ストーリーが崩れていないのに市場全体のパニックで株価だけが下がったなら、それは損切りではなく追加で買う場面だと言います。明らかに不当に安いところで売るのは期待値マイナスのプレーだから、というのが理屈です。

ここで効いてくるのが、結果ではなくプロセスで判断する姿勢。正しく損切りした直後に急騰しても、それは結果論として自分を責めない。逆に放置して助かったなら「間違った成功体験」として警戒する。

木原氏が「勝ったときのほうが反省点は多い」と言うのは、このためです。たまたまうまくいった成功ほど、再現できないクセを身につけてしまう、という警告でもあります。

どんな人に効くか、効かないか

この本が刺さるのは、研究も努力もしているのに市場平均に負けてしまう人、そして株価が下がるたびに眠れなくなる人だと思います。新しい銘柄や手法を足し算するのではなく、参加と感情を引き算するための本だからです。

留保もしておくと、本書には板や歩み値から大口の動きを読む話も出てきますが、それは一日中監視できる人向けで、日中働く人には再現しにくい——という限界を著者自身が正直に認めています。具体的な銘柄推奨やチャート分析の手順を求める人にも、期待した形では向きません。

むしろ本書の白眉は、インフレ下で現金を放置することこそ「暴落中の日本円という銘柄への集中投資」であり、全員が少しずつ取られるポーカーの強制参加費(アンティ)に等しい、というマクロな逆説のほうです。安全だと思っていた現金が、実は黙って目減りし続ける一票だった——この一撃で、動かないことの「別のリスク」が見えてきます。

最後に置かれた一言——資産運用の最適な目標は大金持ちになることではなく「人生にバッファ(ゆとり)を持つこと」——を読んで、肩の力が抜けました。

その目標なら、確率思考は十分に間に合う。まずは次に株を買うとき、買う理由を2つ書いてみてください。降りる基準が決まるだけで、夜の眠りが変わるはずです。


合わせて読みたい

『臆病者のための株入門』橘玲さん 投資の本質を「世界で最も魅力的なギャンブル」と言い切る一冊。本書の「株はギャンブルではなくスキルのゲーム」という主張と並べると、ギャンブルと投資の境界線がくっきり見えてきます。

『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』cisさん 本能に逆らうことを勝つルールにした個人投資家の哲学。「下がったら買う」「結果ではなくプロセスで判断する」という本書の発想と、深いところで響き合います。

『賢明なる投資家』ベンジャミン・グレアムさん 感情に惑わされず市場を乗りこなす古典中の古典。本書のメンタルコントロール論を、より体系立てて学びたい人への次の一冊です。


この記事をシェア:

次に読む一冊

同じテーマを、もう一段深く考えるための一冊です。

投資・資産形成『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス/グレッグ・カプラ|勝ち方ではなく「負け方」を教える本好決算が発表されたのに、株価が急落する。あの不思議な光景に、見覚えはありませんか。『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』(オリバー・ベレス/グレッグ・カプラ)の要約。