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『変える技術、考える技術』高松智史さん|MECEは「宝探しをやめる免罪符」だった

思考法・問題解決

イライラした瞬間に、心の中で「ムラムラするなぁ」と言ってみる。

ふざけているようですが、これが本書の入口です。「イ」を「ム」に変えるだけで、ネガティブな感情がふっと笑いに変わる。著者はこれを行動を変える「スウィッチ」と呼びます。

元BCGの高松智史さんが書いたこの本は、難しい理論を徹底的に避けます。代わりに、暗記してすぐ使える具体的な技を並べる。そしてその先で、MECEやフレームワークといったコンサルの常識を「ポンコツの所業」と斬っていきます。

こんな人におすすめ

どれかにドキッとしたなら、この本はあなたの明日の振る舞いを具体的に変えてくれます。

この本の核心――人は抽象論では動かない

本書の根っこにあるのは、たった一つの確信です。人は「気をつけなさい」では動かない。

タクシーの運転手が「忘れ物に気をつけて」と言っても、忘れ物は減りません。「降りたあと、もう一度振り返って座席と足元を見ましょう」と具体的に言われて、初めて行動が変わる。歯医者が「1時間食べないで」と言うより、「お店に入らず、ひたすら携帯をいじり続けて」と言うほうが効く。

だから本書は、変えたい行動を一瞬で切り替える「スウィッチ」を提唱します。スウィッチ化には3つの要素があります。「ちょっとしたことで行動は変わると心底信じること」「今この瞬間に動けるプラクティカルさ」「特定のモノや場所に結びつける物理化」。

そして高度な思考技術は、後半に置かれます。なぜなら著者は、論点思考や示唆の前に、人としての土台が要ると考えているからです。その土台が「愛と想像力」と「チャーム」です。

1つ目のスウィッチ――愛と想像力

最初の柱は「愛と想像力」。相手の状況や感情を先読みして動く力です。

象徴が即レスの定義です。即レスとは、すぐに回答を完成させることではありません。

「即レス=『気づいたら返す礼儀(=愛)』×『メールを予想する力(=想像力)』」

予定がまだ分からなくても、「数日で分かるので分かり次第お返事します」と一次返信する。相手を待たせないための礼儀が愛、相手の不安を先読みするのが想像力です。

悪いニュースほど先に伝える、というのも同じ発想です。

「悪い内容の連絡であれば、その悪いことを先に伝えてしまおう。」

電話がつながらなければ、用件と「良い話か悪い話か」をショートメールで先に渡す。相手の無駄な不安を取り除くのです。著者の言葉は容赦ありません。日程調整すら愛と想像力を持てない者が、大きなことを為せるわけがない、と。

2つ目――チャーム(可愛げ)

次の柱は「チャーム」。一緒に働きたいと思わせる人間的魅力です。能力より先に、これが効くと著者は言います。

具体的なのが言葉の選び方です。アドバイスをもらって「参考にします」と返すのはNG。「参考程度だった」と受け取られかねません。「勉強になりました」と言う。「そうなんですよ」も封印します。

「『そうなですよ』には、『そんなことわかっています。わかっていますよ。言われなくてもわかっています』という意図・意味が含まれており、それが相手に伝わってしまう」

代わりに「確かに、言われてみればそうですね」と返す。さらにオンライン会議では第一声を自分が取り、ご馳走になったら4回お礼を言う。テンションは2度だけ上げる。

「通常よりも『2度』だけ、ほんの少しでいいからテンションを上げろ」

無理に明るくする必要はない。ほんの少しだけ意図的に上げる。その積み重ねが、可愛がられる力になります。

3つ目――答えのないゲーム

3つ目の柱は、ビジネスを「答えのないゲーム」と捉える視点です。

学校のテストと違い、ホワイトカラーの仕事に唯一の正解はありません。だから結果の正しさでは勝負できない。攻略法は3つです。

ひとつ、プロセスをセクシーにする。答えを出す過程の質に徹底的にこだわる。

「答えを出すプロセスがセクシーなのだから、きっと答えもセクシー」

ふたつ、選択肢を2つ以上作る。いきなり1案に絞らず、複数を比較して選ぶ。すると「なぜそれを選んだか」を論理的に説明できます。

みっつ、炎上を恐れない。多様な意見が出るのは当然で、スムーズに終わる会議はむしろ危険信号。誰かが忖度しているか、メンバーがポンコツな証拠だ、と。「炎上万歳、先炎上」の精神で議論を重ねます。

4つ目――フレームワークとMECEの正体

ここが本書で最も挑発的な章です。著者は、多くのコンサル本が崇めるMECEとフレームワークを、思考の出発点にするなと言い切ります。

フレームワークから考え始めるのは、発想を制約で狭める「フレームワークバカ」の所業。正しい使い方は逆です。

「フレームワークは説明責任のためだけに、フレームワークを使うのだ。」

自由に発想して言いたいことが揃ったあと、相手にモレなくダブりなく見せるために、後から当てはめる。それが本来の役割です。

そしてMECE(モレなくダブりなく)への批判はもっと鋭い。MECEにこだわると「とりあえず全部調べた」という気になり、思考が止まる。著者はこれを「宝探しをやめる免罪符」「言い訳の始まり」と呼びます。フレームワークで付加価値が出るプロジェクトは稀で、99%はそんなことで価値はつかない、とまで言います。

ここは私もハッとしました。網羅した安心感が、肝心のインサイト探しを止めてしまう。整理の道具が、考えない言い訳になっていたのです。

5つ目――二項対立で本質を見抜く

5つ目は「二項対立」です。複雑な事象を、対立する2つの概念に整理する技です。

新規顧客狙いか、リピート客狼いか。あっちか、こっちか。A対Bの構造に落とすと、論点が浮かび上がり、本質が見えてきます。

この技が効くのは、スタンスを取りたがらない相手から本音を引き出すときです。

「直感で言うと、どっち?」

「どちらが良いですか」とオープンに聞くと、偉い人ほど責任を避けて答えません。「直感で言うと、どっち?」とクローズドに投げると、責任を負わずに答えやすくなる。二択にするだけで、意思決定が前に進みます。

6つ目――論点バカになる

6つ目の柱が、本書のクライマックスとも言える「論点」です。

多くの人は、解決策(打ち手)や作業(タスク)から飛びつきます。著者はこれを「打ち手バカ」「TASKバカ」と呼びます。新しい仕事を任された瞬間にTODOリストを作るのは、後者の典型です。

正しい出発点は、そもそも何の問いに答えるべきか、という論点です。

「『どんな問いに答えるべきか?』を十二分に検討してから、『タスク』『スケジュール』『作業』に移ってほしい。」

論点を間違えれば、どんなに頑張った作業も無駄になる。だから著者は「論点バカ」になれと言います。

これはマネジメントにも効きます。進捗会議で「終わりましたか?」と確認するだけのPMOは「悪いPMO」。「検討すべき論点は何か」「仮説はどう進化したか」を問う口ぐせを持つPMOが、メンバーの思考力を育てます。

「良いPMOと悪いPMOの差分は、『発言・口ぐせ』にある。」

7つ目――ファクトではなく示唆を出す

最後の柱が「示唆(SO-WHAT)」です。本書はこれを発言を鋭くする「攻め」の武器と位置づけます。

ファクトは100人中100人がそう思う事実。示唆は、そのファクトから「何が言えるか」を推測する力です。著者の定義はこうです。100人中10人しか気づかず、言われたら30人が「あー!」と驚くもの、それが示唆だ、と。

有名な例が、ある女の子が髪をばっさり切ったというファクトから、「失恋したのかもしれない」と読む力。

「論点は『守り』。論点を極めることにより、『仕事がセクシー』になる。一方で、示唆は『攻め』。示唆を極めることにより『発言がセクシー』になる。」

データを報告するとき、「売上が伸びています」で止めるのは事実の垂れ流し。「この事実から考えられるのは」と推論をセットにして初めて、ビジネスで価値が生まれます。著者がBCGの面接で何度も「他には?」と示唆を求められた話が、その重さを物語ります。

暗記して、不自然に使う

本書の学び方そのものも独特です。理解してから暗記するのではなく、まず暗唱して、不自然でも使ってみる。

感銘を受けた対話を、その時の感情ごと「冷凍パック」して記憶する。それを人に語り、職場で実際に「不自然に」使ってみる。生じた違和感をメモして質問する。この「暗記→不自然に使う→違和感→質問」のサイクルが、思考の癖を上書きします。

ちなみに著者は、ベストな戦略でも組織が変わらないものより、ベストでなくても組織が少し変わるものを選ぶと言います。知識ではなく、行動が変わることに価値を置く。本書の姿勢が、ここに凝縮されています。

明日から何を変えるか

数ある技から、今日すぐ試せる3つを選びます。

1. アドバイスには「勉強になりました」と返す 「参考にします」「そうなんですよ」を封印し、何かを教わったら「勉強になりました」と言う。チャームを上げる、最も簡単なスウィッチです。

2. メールは「気づいた瞬間」に一次返信する 回答が出せなくても、「いつまでに返すか」だけを即レスする。相手を待たせない愛と、不安を先読みする想像力の実践です。

3. 報告に「だから何が言えるか」を1つ足す 事実を伝えて終わらせず、「この事実から考えられるのは」と示唆を必ずセットにする。発言が一気に鋭くなります。

おわりに

行動が変われば、人生が変わる。よく聞く言葉ですが、本書はそれを精神論で終わらせません。

カバンに本を3冊入れる。夜に携帯を充電するのをやめる。連絡先に「大魔王」と登録する。くだらないと笑えるほど具体的な仕掛けだからこそ、人は本当に動き出します。

明日の会議で、まず「勉強になりました」と一言。その小さなスウィッチから、始めてみてください。


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『論点思考 内田和成の思考』内田和成さん 本書の「論点バカになれ」を、より体系的に学べる一冊です。打ち手やタスクから飛びつかず、解くべき問いを見極める力を、別の角度から深められます。

『「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術』高松智史さん 同じ著者による問題解決の書。本書で語られる「示唆」や「答えのないゲーム」の思考が、推定という具体的な武器とどうつながるかが見えてきます。

『外資系コンサルの知的生産術』山口周さん 思考技術だけでは成果が出ない理由を説く本。本書がチャームや愛と想像力を土台に置く主張と響き合い、コンサル流の知的生産を立体的に理解できます。


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