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『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』国分峰樹さん|専門性は「知っていること」ではなく「生み出せること」

キャリア・働き方 ✍ 国分峰樹さん
約7分で読めます

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『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』
目次

「あなたの専門は何ですか」と聞かれて、会社名や肩書きでしか答えられない。

そういう人ほど、この本の最初の一撃が深く刺さります。本書が突きつけてくるのは、私たちが「専門性」という言葉に抱いてきたイメージそのものへの異議申し立てだからです。

資格を取った、分厚い専門書を読んだ、業界の知識には詳しい——そうやって積み上げてきたものが、実は専門性の本体ではないかもしれない。そんな不穏な問いから本書は始まります。

著者の国分峰樹さんは、電通で働きながら東京大学の大学院で博士課程の研究を続けてきた人です。ビジネスの現場とアカデミアの両方に足を置く稀有な立場から、大学院で磨かれる「研究」という型を、そっくりビジネスパーソンの専門性づくりに翻訳してみせる。

それが本書の独特な味わいになっています。

図解

専門性とは「知っていること」ではなく「生み出せること」

本書の心臓部から先に明かしてしまいます。著者は、専門性とは「すでにある専門知識をインプットすること」ではなく、「新たな専門知識をアウトプットできること」だと言い切ります。知識の消費者であることと、生産者であること。この二つは決定的に違う、と。

具体例がわかりやすい。DXのセミナーに出て「なるほど、わかった」と満足して帰るのはインプットにすぎません。そうではなく、そこで得た知識を自社の固有の課題に当てはめ、「うちの会社ではこう進めるべきだ」と誰も言っていなかった答えを差し出す。

これがアウトプットであり、専門性の発揮だというのです。

なぜ今これがそこまで重要なのか。理由はシンプルで、身も蓋もありません。AIに聞けばすぐにわかることを、わざわざお金を払って人に聞く人はいなくなるからです。

既存の知識を学習し、与えられた枠組みの中で答えを返すのは、まさにAIが圧倒的に得意とする領域。「知っている」だけの土俵に上がった時点で、人間はもう分が悪い。

ここで著者は「勉強」と「研究」をはっきり分けます。勉強とは、すでに答えのある既知の領域を学ぶこと。研究とは、まだ誰も答えを出していない「知のフロンティア」を切り開くこと。

いくら勉強を積み重ねても、それだけでは新しい知識は一ミリも生まれない——この線引きが、本書全体を貫く背骨になっています。私はここで、自分が長年やってきた「勉強」が、研究の入り口にすら立っていなかったことに気づかされました。

すぐ役立つものほど、すぐ役立たなくなる

では、なぜ多くの人はこれだけ勉強しても専門性が身につかないのか。著者は失敗の落とし穴をいくつか類型化していますが、なかでも一番刺さるのが「すぐ役立ちそうな知識ばかり集めてしまう」という指摘です。

象徴的なのが、慶應義塾の塾長だった小泉信三の逸話。実業家から「すぐ役に立つ人間を造ってほしい」と注文された彼は、こう応酬したと紹介されます。

すぐ役に立つ人間はすぐ役に立たなくなる人間だ

そして基本理論を徹底して教え込む方針を貫いた。変化が激しい時代ほど、表面的なノウハウの賞味期限は短い。だからこそ、すぐ役立つものほど、すぐに役立たなくなる。

この逆説は、英語・プログラミング・会計と「とりあえず役立ちそうな参考書」を買い込んでは積んできた身には、耳が痛いどころの話ではありませんでした。

著者はほかにも、年収アップなど「お金」を目的にした勉強は外発的動機ゆえに息切れすること、過去の実績や経験への固執が知識を「不良債権化」させること、今の仕事に直結する分野しか見ない狭さが専門性を浅くすること、を挙げていきます。

そして到達するのが、本当に役立つのは「専門知識そのもの」ではなく「深掘力」だという結論です。深掘力とは、目に見えない構造やメカニズムを読み解く力。

知識は陳腐化しても、現象の裏側を見抜く力はどんな分野でも腐らない。ここは本書の核心の一つだと思います。

情報をいくら集めても、知識にはならない

専門性をつくるのは何か。著者の答えは「構造的な知識」です。そしてここで、情報と知識を厳しく区別します。

いくら情報をかき集めても、構造がなければ専門知識にはならない。

(本書の主張を要約)

情報とは、バラバラな要素にすぎない。知識とは、それらの要素が因果関係や論理で結びつき、全体として一つの体系をなした状態を指す。飛行機の部品をいくらバラバラに集めても、飛行機が飛ぶ仕組みはわからない——著者のこの比喩が、両者の差を一発で腑に落としてくれます。

SNSやネット検索で断片を浴び続けても、それは情報の堆積であって、知識にはならないわけです。

歴史的な例として引かれるのがコペルニクスです。活版印刷の普及で集まった大量の天文データ(情報)を、自分の仮説に基づいて選別し、数式と結びつけて検証した。

そうしてただのデータの山を「地動説」という体系へと昇華させた。ここで著者が言いたいのは、知識の構造を理解するにはネット検索より「本」や「論文」を読むほうが有効だということです。

検索は幹と枝の関係を無視して情報を切り出してしまうので、体系化には向かない。

この指摘は、読書のしかたそのものを問い直してきます。書かれた事実をつまみ食いするのか、それとも著者が論理をどう組み立てているかという「構造」のほうを読み取るのか。同じ一冊を読んでも、得るものがまるで変わってくる、というのです。

そして専門性を身につける方法を、著者は一言で表します。「巨人の肩の上に立つ」。ゼロからすべてを発明するのではなく、先人が積み上げた知的遺産の上に立って、新しい知見を一段だけ積み増す。

新しく見えるアイデアのほとんどは、過去に誰かが言ったことの組み合わせにすぎず、本当に新しいのはその「組み合わせ方の距離」だけだ、と。ここから本書は実践の三ステップへ入っていきます。

自分らしい問いを、極端に狭く絞る

第一のステップは、自分で問いを立てること。専門性を身につける過程には、答えを教えてくれる先生はいません。与えられた問題を解くのではなく、自ら問題をつくる。学校教育で「正解のある問いを解く」ことに最適化されてきた大人にとって、これ自体が大きなパラダイムの転換です。

起点になるのは「役に立つか」ではなく「自分が面白いと思うか」。世の中の当たり前に「なぜ?」「本当に?」と疑問を持ち、見えない構造を暴こうとする。

そしてコツは、問いを「狭く小さく」絞ること。入り口を広げると迷子になり、浅い結果に終わる。「えっ、こんな小さな問題でいいの?」と思うくらい絞り込むほうが、かえって深く掘れて、結果的に広がりも生まれる、という逆説です。

象徴的な実例が「お酒が飲める人は本当に稼ぐのか?」という研究。東京大学の研究者たちがデータで検証した結果、飲酒と所得に因果関係はなかった——いわゆる「飲みニケーションが武器になる」は幻想だったわけです。

ばかばかしいほど狭い問いですが、絞られているからこそ厳密に検証でき、独自の結論にたどり着く。この「狭さこそ武器」という感覚は、企画でも分析でも、明日からすぐ試せるものだと感じました。

著者の会社の先輩が、自身の受験や就活での挫折から「エリート街道を歩んでいない人が組織で成功する要因は?」という問いを立て、プロ野球の「ドラフト下位指名で活躍した選手」になぞらえて論文化した話も、問いが自分の痛みから生まれる好例として印象に残ります。

オリジナリティは「距離」で測り、議論で一人の限界を超える

問いを立てたら、第二のステップでその独自性を確かめます。ここで著者が示すオリジナリティの定義が鋭い。それは「すでにある情報の集合に対する距離」だというのです。

独自性はひらめきから降ってくるのではなく、すでにわかっていることを徹底的に知った上で、そこからどれだけ離れているかで決まる。知らないことからは、独自性は生まれない。

だからまず先行研究を調べる。誰がどんな問いを立て、どんな答えを出してきたかを整理すると、まだ誰も手をつけていない「空白地帯」が見えてくる。そこを掘れば「この領域はアイツに聞け」という独自のポジションが築ける、という筋道です。

ここで著者がビジネスパーソンに強くすすめるのが、論文を読むこと。本より短くだいたい15ページほどで、知の最前線に直接触れられる「知の産地直送便」だと表現します。

文献の目利きとして「参考文献がきちんと明記されているか」を最重要の基準に挙げる点も、実務的で説得力がありました。

第三のステップは、多様な意見を尊重すること。答えのない問いに一人の頭で立ち向かうには限界がある。人は無意識に信じたいことだけを信じ、所属する組織の常識に染まる。

だからこそ異なる視点を持つ他者と議論し、視点を広げる必要がある。ここで著者が求めるのが「不同意の度胸」です。会議で「特にありません」と無難に同意してしまう同調圧力こそ、創造的な議論を殺す犯人だと。

イノベーションは同質な集団の内側ではなく、異質なものが交わる「交差点」の摩擦から生まれる——この主張は、組織で働く者なら誰しも思い当たる節があるはずです。

一点だけ正直に留保しておくと、「論文を読み込む」「学会発表を目指す」といった行動は、多忙な業務を抱える人にはハードルが高い。今日明日の仕事をすぐ楽にしたい人に、本書はあえて応えません。

著者が「すぐ役立つ知識」を否定するところから出発している以上、これは欠点というより、本書が引き受けた覚悟だと受け取るべきでしょう。腰を据えて、会社の看板に頼らない一生モノの武器を取りに行きたい人にこそ、最初の一歩を具体的に示してくれる一冊です。

会社名を外したとき、自分は何者か。その問いに自分の言葉で答えたい人に、強くすすめます。


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『問題発見力を鍛える』細谷功さん 本書のステップ1「自分らしい問いを立てる」を、専門的に深掘りした一冊です。AIが解けないのは「問いを立てること」だけだという主張は、本書の「正解信仰から抜ける」というメッセージと響き合います。

『転職と副業のかけ算』moto 「社名がなくなったらただの人」になりたくない、という本書の危機感への実践的な答えがここにあります。組織に依存せず、自分自身のスペシャリティで市場価値を高める具体策を補強できます。


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