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『「人生が充実する」時間のつかい方』キャシー・ホームズ氏|自由な時間が増えても、幸せにはならない

生産性・時間術・習慣 ✍ キャシー・ホームズ氏
約9分で読めます

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『「人生が充実する」時間のつかい方』
目次

「時間さえあれば、もっと幸せになれるのに」

私はずっとそう思っていました。やることに追われ、いつも何かに急かされている。だから、自由な時間が増えさえすればこの息苦しさは消えるはずだ、と。

でも本書を読んで、その前提が根っこから揺らぎました。UCLAのMBA教授キャシー・ホームズ氏が数万人のデータから導いた結論は、私の「時間観」を静かに、しかし決定的にひっくり返すものだったのです。

図解

この本が突きつけてくる、ひとつの問い

本書の出発点はシンプルです。私たちはお金の使い方には敏感なのに、時間の使い方には驚くほど無頓着だ――。

家計簿はつけるのに、自分が一日のうち何時間を何に費やしているかを把握している人はほとんどいません。けれど著者に言わせれば、これは順序が逆です。

お金は失っても働けば取り戻せる。一方で時間は、一度過ぎたら二度と戻ってこない。だとすれば、何にどれだけ時間を割くかは、本来お金以上に慎重に決めるべき「投資判断」のはずなのです。

人の意識はたいていお金に向いていますが、人生における成功や満足度を決める真の要因となるのは、お金をどれだけ稼ぐかより、時間をどう過ごすかなのです。 (キャシー・ホームズ『「人生が充実する」時間のつかい方』より)

ここで著者は、もう一つ厳しい現実も突きつけます。時間は、待っていれば向こうからやってくるものではない、というのです。

時間を見つけることなどできない。時間が欲しければ、自分で作ることだ。

「忙しくて時間がない」という言葉の裏には、たいてい「誰かが時間を空けてくれるのを待っている」という受け身の姿勢が隠れています。本書が教えてくれるのは、その時間の「作り方」と、作った時間の「投資先の選び方」です。

だから単なる時短テクニック集ではなく、社会心理学と行動経済学のデータを土台に、限られた人生の時間をどう使えば幸せになれるかを問い直す一冊だと言えます。

私自身、読み始めたときは「また効率化ノウハウか」と身構えていたのですが、すぐにその予想は裏切られました。

「自由な時間が多いほど幸せ」は、本当か

本書がまず崩しにかかるのが、誰もが疑いもせず信じている前提です。自由な時間(可処分時間)は、多ければ多いほどいい――。

ところが著者らが数万人を調べたところ、可処分時間と幸福度の関係はきれいな右肩上がりにはなりませんでした。描いたのは「逆U字曲線」です。少なすぎてストレスで参ってしまうのは想像どおり。

1日2時間を切ると、人は時間に追われて不幸になる。問題はその逆側です。自由な時間が5時間を超えると、幸福度はむしろ下がっていくのです。

理由は「生産性を実感できなくなる」から。やることがなさすぎると、人は目的意識を失い、かえって落ち着かなくなる。最も幸福度が高いのは、1日あたり2時間から5時間という、意外なほど現実的な範囲でした。

これを象徴するのが、著者の友人ベンの話です。ヘッジファンドで成功し、39歳で早期リタイアした彼は、有り余る時間を持て余してイライラを募らせます。

そして無理やり目標をひねり出すように過酷なトレイル・ランの大会に出場し、毒オークの茂みに倒れ込んで救急隊に囲まれることになりました。「暇になりたい」という万人の願いが、いざ叶うと人を追い詰める。

笑い話のようでいて、ぞっとさせられる事例です。

私がここで膝を打ったのは、続いて語られるもう一つの逆説でした。時間が足りないと感じると、人はまず自分のための時間――運動や睡眠、誰かを助ける時間――を真っ先に削ります。

これは私にも覚えがあります。締め切りに追われると、最初に消えるのは運動と睡眠でした。ところが著者の研究では、あえてその逆をやった人のほうが、時間に余裕を感じていたのです。

仕掛けはこうです。誰かを助けたり、自分の体に投資したりすると、「自分はやるべきことをきちんとこなせる」という自己効力感、つまり自信が芽生える。

その自信が、時間的な余裕の感覚そのものを生み出す。多忙を極めた80代でも週に数回の筋トレを欠かさなかった、あの故ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事のような例が、それを裏づけます。

逆に時間貧乏は、人から優しささえ奪います。神学生に「善きサマリア人」の話を語らせる前に、一部の学生だけに「もう時間がない、急いで」と伝えた実験では、急かされた学生は道端で苦しむ人を助ける確率が目に見えて下がりました。

時間に追われている、と感じるだけで、人は目の前の他者が見えなくなるのです。

忙しいときほど、削るのではなく、あえて費やす。直感には完全に反しますが、ここには時間に追われている人ほど読む価値のある、発想の転換があります。

まず「時間記録」で、自分のゴルフボールを探す

では、自分にとって本当に価値のある時間とは何か。著者はそれを気分や思い込みで決めず、データで突き止めることを勧めます。その手法が「時間記録エクササイズ」です。

やり方は拍子抜けするほど単純です。1〜2週間、起きている時間を30分単位で区切り、「何をしたか」と「そのときどれくらい幸せだったか」を10段階で書き留めていく。たったこれだけで、自分が何に時間を奪われ、何に喜びを感じているのかが、輪郭を伴って見えてきます。

ダニエル・カーネマン氏のチームが就労女性約900人を調べたところ、最も楽しくない活動は「通勤・仕事・家事」でした。逆に幸福度が高かったのは、人との深いつながりや、自然の中で過ごす時間。

多くの人が、楽しくない活動に長い時間を割き、本当に幸せを感じる活動を後回しにしている――記録は、その不都合な現実を静かに突きつけます。

ここで本書を貫くキーワードが登場します。「ゴルフボール」です。自分にとって一番大切な活動――家族や友人、健康、情熱。記録を通じて自分のゴルフボールが何かを特定すること。それが、この本のすべての戦術の出発点になります。

嫌な時間は、好きなことと抱き合わせる

通勤も家事も、現実には簡単になくせません。だったらどうするか。著者の答えが「バンドル戦略」です。「やらなければいけない活動」に、「やりたい活動」を抱き合わせる。原理はこれだけです。

行動経済学者ケイティ・ミルクマン氏のチームは、学生に「トレッドミルで走るあいだだけ、続きが気になる人気小説『ハンガー・ゲーム』のオーディオブックを聞ける」というルールを課しました。

結果、学生がジムに通う頻度は51%も増えた。退屈な運動と、先が知りたくてたまらない物語。この組み合わせが、苦痛を「待ち遠しさ」に変えたのです。

いつものように何も考えずにラジオ局を変えまくったりスマホをいじったりする代わりに、自宅から職場までの移動時間を、意図を持って過ごしてみましょう。

注意点が一つあります。抱き合わせるのはあくまで「楽しい活動」に限ること。嫌な作業に別の義務を二つ重ねても、苦痛が増えるだけです。ある理学療法士は片道2時間の通勤に、スパイ小説と街の観察を組み込み、苦行だった移動時間を「一人で楽しむ贅沢な時間」へと変えました。

やっていることは同じ通勤でも、意図ひとつで時間の色が変わるのです。

もう一つの選択肢が、嫌な作業をお金でアウトソースすることです。著者によれば、家事を外注する人は全体の3分の1にも満たない。けれどデータ上は、節約に励む人より、時間にお金をかける人のほうが生活満足度が高い。

月300ドルで掃除を外注し、空いた時間で家族とピクニックに行けるようになった女性の例が紹介されます。「節約は美徳」という常識が、ここでも反転します。

そして仕事の時間そのものも変えられます。鍵は「なぜこの仕事をするのか」を掘り下げる「5つのなぜ」。病院の清掃員が、嘔吐物の処理という過酷な作業をしながらも「患者さんの一日を明るくする」という目的を自分の中に見出したとき、同じ作業が満喫できる時間に変わった――やる中身は一ミリも変わらないのに、目的が変われば時間の質が変わる、という話です。

「今ここ」に集中するほど、時間は濃くなる

楽しい予定を入れても、心がそこになければ意味がありません。マット・キリングワース氏らが数千人を調べると、人は起きている時間の約47%、心がどこか別の場所をさまよっていました。

そして気が逸れているときほど、幸福度は低い。何をしているかより、それに集中できているかどうかのほうが、幸せを左右していたのです。

対策はシンプルです。一つは、スマホを物理的に視界から消すこと。カフェで食事をするグループのうち、スマホをしまった人たちのほうが食事を楽しめた、という実験があります。

裏返すだけでは足りない。見えるところにある、それだけで注意は奪われるのです。もう一つは、週末を「バカンスのつもりで過ごす」こと。遠出をしなくても、意識をそう切り替えるだけで、月曜の時点での幸福度とストレスに差が出ました。

ただし、楽しいことにも人はすぐ慣れます。これが「快楽順応」。昇給しても宝くじが当たっても、幸福度はやがて元の水準に戻る、あの現象です。著者の対抗策は意表を突きます。

「親と一緒に夕食を食べられるのは、人生であと何回か」を実際に数えてみる。少しゾッとする作業ですが、有限性を直視したとき、当たり前だった日常が急に愛おしくなる。

残り回数を意識することが、今この瞬間の濃度を引き上げるのです。

タイム・クラフティング――1週間を「作品」としてデザインする

これらの戦術を1週間のスケジュールに統合するのが、本書の集大成「タイム・クラフティング」です。色とりどりのタイルでモザイク画を作るように、喜びを最大化し苦痛を最小化するよう、1週間を意図的にデザインする。

その核心が、有名な「ガラス瓶」の比喩です。

ゴルフボールは、大切なもの。つまり、家族や友達、健康、情熱だ。もしも砂を先に入れてしまったら、小石やゴルフボールが入る隙間がなくなってしまうでしょう。

大きな瓶に先に砂(些細な雑用)を入れると、ゴルフボール(一番大切なこと)はもう入らない。だから順番を逆にする。大切な人との時間を真っ先に1週間の予定へ固定し、雑務はその隙間に流し込む。

この発想には、もう一つの効能があります。1週間を全体として眺めると、時間の悩みが「するか・しないか」から「いつするか」へと姿を変えるのです。

友人の誘いを断って罪悪感に沈むのではなく、「来週のどこに入れようか」と考えられる。葛藤が、ただのパズルに変わる。それだけで心はずいぶん軽くなります。

忘れてはいけないのが、何もしない余白の時間です。ジョージ・シュルツ元米国務長官は、毎週1時間だけ扉を閉ざし、妻と大統領以外の連絡を一切遮断して、ただ大局を考えるためだけの時間を確保していました。

緊急の用事に流されず、戦略的に考える「シュルツ・アワー」が週に一度あるかないかで、意思決定の質はまるで変わってきます。

どんな人に効くのか、そして最後に残ったこと

正直に言えば、「とにかく速く処理する時短ワザだけが欲しい人」には、本書はやや回り道に見えるかもしれません。逆に、効率化のノウハウをさんざん試したのに前より忙しくなった人、休んでいても焦りが消えない人にとっては、深く刺さるはずです。

なぜなら本書が変えようとしているのは作業の速さではなく、「何を先に置くか」という選択そのものだから。データと心理学で淡々と背中を押してくれるので、精神論が苦手な人にも届きます。

読み終えて私の中に一番残ったのは、「しなかった後悔」という言葉でした。人が人生の終わりに最も悔やむのは、間違ったことをしたことではなく、「やればよかったのに、やらなかったこと」だ――。

年長者への調査が示した最大の後悔は、「家族と充分な時間を一緒に過ごさなかったこと」でした。75年に及ぶハーバード成人発達研究もまた、幸せな人生を最もよく予測するのは富や名声ではなく「強力な人間関係」だと結論づけています。

著者は最後にこう書きます。幸せは、選択なのだと。毎日、毎時間、自分で選んでいくものなのだと。

時間がないから、ではない。何を先に置くかを、選んでいないだけかもしれない。そう思わせてくれる一冊です。読み終えたとき、私は思わず来週のカレンダーを開き、家族との時間を一つ、雑務より先に書き込んでいました。始めるなら、たぶんそこからです。


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