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『自分の変え方』村岡大樹|変われないのは意志が弱いからではなく、脳が正常だから

健康・メンタル
約5分で読めます
『自分の変え方』

「変わりたい」と思っているのに、気づけば同じ毎日に戻っている。

その自分を、何度責めてきたでしょうか。でも本書を読むと、責める必要がなかったとわかります。あなたが変われないのは、脳が正常に働いている証拠だからです

著者の村岡大樹さんは、ダメ社員から年商十数億円規模の経営者へと人生を一変させた認知科学コーチング。数千人の人生をサポートしてきたプロです。

鍵は気合でも根性でもありません。脳の仕組みを「逆手に取る」こと。本書はその一点を、最初から最後まで一貫して掘り下げていきます。

なぜ変われないのか――脳は「現状維持」を守るようにできている

まず本書は、変われない理由を精神論ではなく脳の仕組みで説明します。ここがこの本のいちばんの強みだと感じました。

人間にはホメオスタシス(生体恒常性)という本能がある。体温や心の状態を一定に保とうとする働きで、これが「変わりたくない」を生む。しかも私たちは、自分で思うほど自分をコントロールしていません。意思決定の大半は無意識が担っていて、意識のパワーは無意識に比べてゾウとノミほどの差しかない、と著者は数字を挙げて畳みかけます。

その無意識の奥にあるのが信念(ビリーフ)です。

「信念→感情→選択・行動→結果」のサイクルが常にぐるぐると回っていて、その起点となるのが信念です。

つまり、行動だけを変えようとしても結果は変わらない。起点である信念が手つかずだからです。私が読んでいて唸ったのは、著者がこの信念を「悪い人間関係を繰り返してしまう人」のような、誰の身近にもいそうな例で説明しきってしまうところでした。意志の弱さではなく、本人にとってその苦しい状態こそが「快適な領域(コンフォートゾーン)」になっている、という見立ては鋭い。

そして本書は、その信念は何歳からでも書き換え可能だと宣言します。過去がどうであれ変えられる――その「書き換えの方法」こそが本書の中身なので、ここは本書で確かめてほしいところです。

「自分を変える」とは、別人になることではない

ここで著者は、よくある誤解を一つ解きます。自分を変えるとは、まったく違うタイプの別人になることではない、と。

別の人になるのではなく、あなた自身の進化形になっていくのです

ポケモンの例えが秀逸でした。ほのおタイプのキャラが、みずタイプになるのではない。その素養を最大限に活かしきった「最終進化形態」を目指す。自己否定ではなく自己受容を土台にした変革――この一点が、ありがちな根性論の自己啓発と本書をはっきり分けています。

「今の自分を捨てなきゃ」と力んでしまう人ほど、この章で肩の力が抜けるはずです。

目標設定の常識が、ことごとくひっくり返る

では、どう変わるのか。中心になるのがGOAL設定です。ただし本書のそれは、私たちが学校や会社で習ってきた目標設定とは正反対の発想を取ります。

「昨対比アップ」「今の会社で昇進」。こうした今のやり方の延長で届くゴールでは、脳の認知は変わらない、と著者は切って捨てます。代わりに置くのは、今の生き方の「外側」にあるゴール。すると脳のフィルター(本書では網様体賦活系=RASとして説明されます)の通す情報が書き換わり、これまで見えなかった選択肢が見えてくる、という理屈です。

さらに痛快なのが、モチベーションという言葉の再定義でした。やる気のことではなく、むしろ「元の場所へ戻ろうとする力」のことだ――この逆転の説明には思わずページをめくる手が止まりました。だからこそ著者は、未来側に強い臨場感を抱き、そこを新しい居場所に設定しろと説きます。

具体的にどうやって未来側へ「臨場感」をズラすのか。その手順はいくつかのコツに分かれていて、本書の核心にあたる部分なので、ここでは預けておきます。気になる方はぜひ本書で。

エフィカシー――やり方が分からなくても飛び出せる理由

外側へ飛び出すのは怖い。やったことがないのだから、恐怖を感じて当たり前です。

そこで本書が持ち出すのがエフィカシー、つまりゴールに対する「自分ならやれる気がする」という根拠なき自信です。面白いのは、やり方が見えていなくても構わないという主張でした。ゴールさえ強く設定しておけば、脳が自動的に必要な情報を集め、道の途中で手段が見つかる、と。

この「先に行き先を決めてしまえば、道は後からできる」という発想は、転職や独立をためらっている人に効くと思います。準備が整ってから動こうとして、永遠に動けない人は多い。その順番こそが間違いなのだと、本書は脳科学の言葉で背中を押してくれます。

なお本書では、このエフィカシーを持ち続けられる人がどれくらいの割合なのか、決断できずに止まる人がどれくらいなのか、象徴的な数字がいくつも出てきます。その数字の生々しさは、読んで突きつけられてほしいので伏せておきます。

自己理解という「踏み台」――そして決断へ

本書は変革をいくつかのステップに整理しますが、私がいちばん実用的だと感じたのは「自己理解」のパートでした。

ここで自分を複数の軸で言語化します。たとえばその一つが自己欲求――誰かに止められても思わずやってしまうこと、呼吸をするくらい当たり前に続けてきたこと。ポイントは、「いつかやりたいこと」を未来に探すのではなく、過去の行動の中から掘り出す、という視点です。当たり前にやれてしまうことほど自分では気づけない。だから過去を因数分解する。この発想だけでも、やる価値があります。

ほかにも自分を捉える軸が用意されていて、それらを組み合わせると未知のゴールへ飛び出す踏み台になる――その全体像は本書で確かめてください。

そして最後に立ちはだかるのが「決断」です。決断できないのは、脳が「決断しないほうがいい理由」をもっともらしく創り出すから。それを超える鍵を、著者は信念のスタンスの問題として語ります。環境や他人のせいにする「被害者」の立ち位置を降りること。飛び出した先の混乱(カオス)すら、脳が新しい秩序へ変えてくれる正常なプロセスだと言い切るあたりに、コーチとしての胆力を感じました。

誰に効く本か――正直な評価

正直に書くと、外側のゴールを自力で設定するのは簡単ではありません。内側と外側の境界線が自分では見えにくく、本書も最終的にはプロのコーチの介在を勧めています。そこは独学の限界として知っておきたいところです。

それでも本書の価値は揺るぎません。変われないのは脳の本能であり、その本能は逆手に取れる。過去の信念は書き換えられる――この視点を、精神論ではなく一貫した理屈で手渡してくれます。

収入は悪くないのに「これじゃない」というモヤモヤが消えない人。世間体や期待に合わせ続けて自分の本音を見失った人。何度も「今度こそ」と決めては現状維持に戻ってしまう人。そういう人にこそ、本書は強く効きます。

最後の払い――「すべての人に可能性がある」という根底の一文が、なぜ精神論ではなく科学的な結論として導かれるのか。その答え合わせは、ぜひあなた自身の手で。過去の中から「苦もなくできたこと」を一つ紙に書く。あなたの最終進化形態に会いに行く旅は、それだけで始まります。


合わせて読みたい

『隠れた能力をどこまでも引き出す 苫米地式コーチング』苫米地英人 本書が認知科学コーチングの理論的背景として第一人者に挙げる苫米地氏の一冊。RASやコンフォートゾーンの理論を、源流からより専門的に学べます。

『「なりたい自分」へ加速する 問いかけコーチング』一条佳代 本書と同じく潜在意識(無意識)に働きかけるアプローチ。モヤモヤを「変わるための招待状」と捉え直す視点が、本書の信念の書き換えと響き合います。

『自分を変える習慣力』三浦将 潜在意識を味方につけ、頑張らずに人生を好転させる方法。本書の「気合に頼らない」変革論を、日々の習慣レベルに落とし込みたい人に。


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