本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『ハイパフォーマー思考』増子裕介・増村岳史|成果を出す人は「スキル」ではなく「OS」が違う

思考法・問題解決
『ハイパフォーマー思考』

同じ研修を受けて、同じスキルを身につけたはずなのに、なぜ成果に差が出るのか。

増子裕介さんと増村岳史さんの『ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式』を読んで、その答えがようやく腑に落ちました。スキルはパソコンでいう「アプリ」に過ぎない。本当に差がつくのは、その下で動いている「OS」──つまり思考・行動様式だった。

図解

こんな人に読んでほしい

資格を取っても、勉強会に通っても、どこか空回りしている感覚がある人。努力の量は負けていないのに、なぜか評価されない人。「自分に足りないスキルは何だろう」と問い続けている人。

この本は、その問い自体が間違っているかもしれないと教えてくれます。足りないのはスキルじゃない。思考と行動の「型」だったのかもしれません。

この本の核心──「アプリ」を入れても「OS」が古ければ動かない

一言でいうと、高い成果を出し続ける人は、知識やスキル(アプリ)ではなく、7つの思考・行動様式(OS)が違う

著者の増子裕介氏は人事コンサルタントとして1000人以上のハイパフォーマーにインタビューを実施。増村岳史氏は電通やアート・アンド・ロジック代表として、左脳と右脳を融合する人材育成に取り組んできました。2人の知見を掛け合わせて、「成果を出す人に共通するOS」を7つに体系化したのがこの本です。

ユニークなのは、この7つのOSが後天的に誰でも習得できると明言している点。才能論ではなく、具体的な行動変容の方法まで踏み込んでいます。

本書の全体像

構成は明快です。まず「なぜスキル(アプリ)を積み上げても成果に差が出るのか」という問いから始まり、働く人を「レイバー」「ワーカー」「プレイヤー」の3段階に分類。その上で、プレイヤーに共通する7つのOSを1つずつ解説していきます。

後半では、自分のOSを分析する「ハイパフォーマー分析」の5ステップや、大谷翔平選手が高校時代に使った「マンダラチャート」の活用法も紹介。理論と実践が交互に現れる構成で、読みながら自分のOSをアップデートしていける設計になっています。

レイバー・ワーカー・プレイヤー──あなたはどこにいるか

本書は働く人を3つに分類します。

レイバーは「言われたことを、言われた通りにやる」人。時間を売って対価をもらう働き方です。マニュアル通りに動くことが求められる。

ワーカーは「自分で考えて工夫する」人。業務改善やプロセスの最適化に取り組み、「頑張っている」と評価される。でも、ここに落とし穴がある。

プレイヤーは「仕事をゲームのように楽しむ」人。既存の枠組みを超えて、自分で仕事の意味を再定義できる。著者によれば、日本の労働生産性がOECD38カ国中23位なのは、ワーカーのまま止まっている人が多いからです。

レイバーからワーカーへの移行は比較的わかりやすい。でも、ワーカーからプレイヤーへのジャンプには、OSのアップデートが必要になる。

OS①:なんとかなると思ってやってみる

7つのOSの最初は「楽観性」。ただし、根拠のない楽観ではありません。

「やったことがないからできない」ではなく、「やったことがないからやってみよう」。この思考の向きが違うだけで、行動量が変わります。

面白いのは、山中伸弥教授のエピソード。研修医時代は手術が下手で「ジャマナカ」と呼ばれていた。でも研究にシフトした結果、iPS細胞でノーベル賞を受賞。「今ダメでも別の道でなんとかなる」を体現した人です。

著者はこれを「チケット型」ではなく「パスポート型」の行動と呼んでいます。チケット型は「準備が整ってから動く」。パスポート型は「まず入国してから現地で考える」。ハイパフォーマーは圧倒的にパスポート型が多い

OS②:柔軟に方向転換する

ハイパフォーマーは方向転換が速い。しかも、それを「失敗」だと思っていません。

ゴルフの尾崎将司選手は、もともとプロ野球選手でした。20代でゴルフに転向し、通算113勝という大記録を打ち立てた。「せっかく野球で食べていたのに」と思うのが普通ですが、本人は「退却」ではなく「転進」だと捉えていた。

著者はこの力を「知的体力」と表現します。過去の経験や蓄積を手放すことへの恐れを超えて、新しい方向に踏み出せる力。これは筋力と同じで、使わないと衰え、鍛えれば強くなる。

OS③:異なる価値観を認める

ハイパフォーマーは自分と違う意見を歓迎します。これは単なる「人当たりの良さ」ではない。

黒澤明監督は脚本を必ず複数人で書きました。自分と異なる視点が入ることで、作品の厚みが増すことを知っていたから。村上春樹氏も、妻に原稿を読んでもらい、「つまらない」と言われたら大幅に書き直す。

著者は「逆ブレスト」というメソッドを紹介しています。通常のブレインストーミングの逆。出てきたアイデアに対して、あえて反論や批判を投げかける手法です。これにより、アイデアが磨かれ、弱点が事前に洗い出される。

OS④:仕事をプレイする

これがワーカーとプレイヤーの最大の分水嶺です。

NASAの清掃員のエピソードが象徴的。「あなたの仕事は何ですか?」と聞かれた清掃員が、「人類を月に送る手伝いをしています」と答えた。同じ作業をしていても、仕事に対する意味づけがまったく違う。

著者の教え子である太田さんのケースも印象的です。メーカーのクレーム対応部署に配属され、毎日怒鳴られる日々。ところが太田さんは「怒っている人を笑顔にするゲーム」として仕事を再定義した。結果、クレーム対応のスペシャリストとして社内で引っ張りだこになった。

仕事の内容は変わらない。変わるのは意味づけ。これがOSの違いです。

OS⑤:常に学び続ける

葛飾北斎は70代になっても「やっと絵の描き方がわかってきた」と言いました。90歳まで描き続けた。

一方、イーストマン・コダックはデジタルカメラの技術を世界で最初に開発しながら、フィルム事業を手放せずに倒産しました。学び続ける個人は生き残り、学びを止めた組織は滅ぶ

著者は「2-6-2の法則」を引きます。上位2割は放っておいても学ぶ。下位2割は何をしても学ばない。勝負は中間の6割をどう動かすかにある。Googleの「Project Oxygen」の研究でも、優れたマネージャーの条件の上位に「チームの学習を促進する」が入っています。

OS⑥:人との縁を大切にする

「人脈」という言葉は誤解されがちです。名刺を配り歩くことではない。

ハイパフォーマーの人との縁の作り方には特徴があります。自分から先に「与える」こと。そして、直接的な見返りを期待しないこと。著者は1000人のインタビューから、ハイパフォーマーほど「偶然の出会い」を大切にしていることを発見しました。

計画された偶然──キャリア理論では「プランドハプンスタンス」と呼ばれる概念です。偶然のように見える出会いが、実はキャリアの転機になることが多い。ただし、それは偶然ではなく、日頃から多様な人と接点を持っているからこそ起きる。

OS⑦:物事を斜めから見る

最後のOSは「常識を疑う力」。

神田伯山さん(講談師)は、衰退する一方だった講談という芸能を、YouTubeやSNSを活用して若い世代に広めました。「伝統芸能にSNSは邪道だ」という業界の常識を無視した結果、講談ブームを起こした。

著者はこれを「水平思考」と位置づけています。垂直思考が「AだからB、BだからC」と深掘りするのに対し、水平思考は「AとXを組み合わせたらどうなるか」と横に広げる。電通インドネシアの事例が興味深い。現地スタッフに「日本の広告手法」を教えるのではなく、インドネシアの文化を軸にした広告を作らせたところ、広告賞10部門中6部門を独占した。

マンダラチャート──OSを実装する具体的な方法

大谷翔平選手が花巻東高校時代に作成した「81マスのマンダラチャート」は有名ですが、本書ではこれをキャリア設計のツールとして活用する方法が解説されています。

中心に自分の目標を置き、周囲の8マスに必要な要素を書く。さらにその8つの要素それぞれについて、周囲の8マスに具体的な行動を書き込む。合計81マス。

ポイントは、ここに「スキル(アプリ)」だけでなく「思考・行動様式(OS)」を入れること。大谷選手のチャートには「運」「メンタル」「人間性」といったOS的な要素が含まれていた。技術だけでなく、OSも含めた全体設計。これが81マスの真価です。

ハイパフォーマー分析──自分のOSを棚卸しする5ステップ

著者が1000人以上のインタビューから編み出した、自分のOSを分析する方法。

ステップ1:自分が「成果を出せた経験」を3つ書き出す。

ステップ2:その経験で「なぜ成果が出たのか」を分析する。スキルではなく、思考・行動のパターンに注目する。

ステップ3:3つの経験に共通する思考・行動パターンを抽出する。

ステップ4:抽出したパターンを7つのOSに照らし合わせる。どのOSが自分の強みで、どれが弱いか。

ステップ5:弱いOSを強化するための具体的な行動計画を作る。

この分析の核心は「成果の原因をスキルではなくOSに帰属させる」ところ。営業成績が良かったのは「プレゼン力があったから(アプリ)」ではなく、「相手の価値観を受け入れる姿勢があったから(OS③)」と捉え直す。

行動の「順番」──パスポート型で動く

多くの人は「準備が整ってから行動する」チケット型。資格を取ってから、英語ができるようになってから、経験を積んでから。

ハイパフォーマーは「まず動いてから考える」パスポート型。入国してから言葉を覚え、現地の文化に適応していく。

これは無謀さとは違います。「最悪の場合でもなんとかなるか」を瞬時に判断する力があるから動ける。つまりOS①(なんとかなると思ってやってみる)が土台にある。

著者は「チケットを集めている間に、パスポート型の人はもう3カ国回っている」と表現しています。行動量の差が、経験の差になり、OSの差に変わっていく。

実践アクション:明日からOSをアップデートする3つのこと

1. 自分の仕事を「プレイヤー視点」で再定義する

今やっている仕事に、自分なりの意味をつけ直してみてください。「議事録を書く」ではなく「チームの意思決定を加速させる」。目の前のタスクは同じでも、捉え方を変えるだけで行動が変わります。

よくある失敗:「好きなことだけやる」と勘違いすること。プレイ化とは、既存の仕事に新しい意味を見出すことです。

2. 今週、「チケット」なしで1つ行動する

やろうと思って「準備」を言い訳に先延ばしにしていることを1つ選んで、今週中にやる。完璧でなくていい。「パスポート型」の筋肉を鍛えるトレーニングです。

よくある失敗:いきなり大きなことをやろうとすること。まずは小さな「入国」から。

3. ハイパフォーマー分析を1回やってみる

自分の成功体験を3つ書き出し、その原因を「スキル」ではなく「思考・行動パターン」に帰属させてみてください。7つのOSのどれが自分の強みかがわかれば、次に何を鍛えるべきかが見えてきます。

おわりに

アプリをどれだけインストールしても、OSが古ければフリーズする。逆に、OSをアップデートすれば、どんなアプリも動くようになる。あなたのOSは、最後にいつアップデートしましたか。


合わせて読みたい

『巨神のツール 知性編』ティム・フェリス 世界のトップパフォーマー200人が実践する思考ツールを集めた一冊。ハイパフォーマーのOSが実際にどう使われているかを、多様な事例で確認できます。

『答えのないゲームを楽しむ思考技術』青木真也 「正解がない時代の生き方」を格闘家の視点から解説。OS④「仕事をプレイする」の考え方を、ビジネス以外の世界から立体的に理解できます。

『仕事に生かす地頭力』細谷功 「言われたことをやったのに評価されない」問題を掘り下げた一冊。レイバー・ワーカーからプレイヤーへの壁を越えるために、地頭力という別の角度からOSを磨けます。


この記事をシェア:

前の記事
中島聡『人生はアウトプットで決まる』──AI時代に「夜空で輝く星」となるための発信術
次の記事
『新 コーチングが人を活かす』鈴木義幸|「引き出す」という言葉に、上下関係が潜んでいる