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『ブチ抜く力』与沢翼さん|「コツコツ」が、いちばんの遠回りだった

キャリア・働き方 ✍ 与沢翼さん
約9分で読めます

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『ブチ抜く力』
目次

「今年こそ痩せる」「いつか副業を始める」。そう言い続けて、何年たちましたか。

私はずっとこのタイプでした。手帳に立派な長期目標を書く。3日でモチベーションが切れる。また来年、と先延ばしにする。その繰り返しでした。

『ブチ抜く力』を書いた与沢翼さんは、この「コツコツ長期戦」こそが、普通の人が結果を出せない最大の原因だと言い切ります。

著者は「秒速で1億円稼ぐ男」と呼ばれた後、会社を解散して無一文になった人です。そこから海外に移り、個人投資家として復活した。さらに65日間で22kgのダイエットにも成功している。稼ぐ、痩せる、というジャンルがまったく違う成果を、本書は同じ1つの法則で説明します。

その法則が、タイトルの「ブチ抜く力」です。常識を覆し、世間が考える限界を突破して、とてつもない結果を超スピードで出す。本書はそのための思考法と実践術を、綺麗事を抜きにして語っています。

読んでいて何度も身構えるほど物言いは強いのですが、その強さの裏に一貫したロジックがあるのが、この本を単なる成功者の自慢話で終わらせていない理由だと思います。

図解

こんな人におすすめ

どれも、かつての私のことです。本書は「もっと頑張れ」とは言いません。むしろ頑張る対象を一つに絞れ、と言ってきます。この方向転換こそが、本書を読む価値の中心だと私は思っています。

「コツコツ」が、いちばんの遠回りだった

本書の核心を、私なりに言い換えるとこうなります。複数の目標を同時に追うのではなく、一つだけに全エネルギーを注ぎ込む。しかも、できるだけ短い期間で一気にやり切る。著者はこれを「最短・最速」と呼びます。

普通は逆を教わりますよね。大きな目標は時間をかけてコツコツやれ、と。著者はこれを真っ向から否定します。理由は大きく3つ挙げられていました。

まず、長期目標は挫折しやすい。一回ごとの負荷は小さくても道のりが長く、よほど意志が強くないと途中で心が折れる。著者はここで身も蓋もないことを言います。

普通の人間は、そもそも長く続ける資質を持っていない、と。だったら資質に頼らずに済む短期決戦に切り替えたほうが現実的だ、という発想です。

次に、短期決戦のほうがPDCAを速く回せる。計画・実行・検証・改善のサイクルです。1年で結果を見るより、1か月で見たほうが、やり方の間違いに早く気づいて直せる。長くやればやるほど丁寧に見える気がしますが、実際は答え合わせの回数が減るだけ、というわけです。

最後に、希少価値が生まれる。「1年で10kg減量」より「1か月で10kg減量」のほうが、市場での価値が高い。周囲が「え、どうやって」と驚く存在になれる。

同じ成果でも、短く出すほど価値が跳ね上がるという視点です。私が一番うなずいたのはここでした。成果の中身だけでなく、出すスピードそのものが評価の一部になる、という指摘は、副業でも仕事でも思い当たる節があります。

ここで出てくるのが「センターピン」という言葉です。ボウリングの真ん中のピンのこと。これさえ倒せば、残りの9本も連鎖で倒れる。転じて、それを押さえれば物事がうまくいく「本質」を指します。

著者が新しいことを始めるとき、まずやるのはこの一点を見極めること。手当たり次第に動くのではなく、結果に直結するたった一つの急所を探し、それ以外のノウハウはいったん全部切り捨てる。

この「切り捨てる勇気」を持てるかどうかが、本書を実践に移せる人と移せない人の分かれ目になる気がしています。

そして、見つけたセンターピンを「最低3週間」やり抜く。人は3週間続けると、その行為が無意識の習慣になっていく、という習慣化の考え方が根拠です。

著者はこの過程を、飛行機の離陸にたとえます。離陸の瞬間がいちばんエネルギーを使う。でも一度、地上の重力を振り切って高い空に出てしまえば、あとは少ない力で悠々と飛べる。

最初のひと踏ん張りが、すべてだという話です。逆に言えば、私たちの多くは離陸する前にエンジンを切ってしまっている、ということでもあります。

65日で22kg、その数字が証明したこと

抽象論だけだとピンとこないので、著者が一番わかりやすく見せてくれる事例を紹介します。ダイエットです。

著者は2018年、65日間で91.2kgから69kgまで、22kgの減量に成功しました。このとき設定したセンターピンが「食べないで、鬼動く」でした。極端です。でも本人は「これだ」と決めた一点に集中し、他のノウハウには目もくれなかった。

面白いのは、ここで世間から猛批判を浴びている点です。「断食して運動もするなんて体に悪い」「どうせリバウンドする」とネット上で叩かれた。それに対する著者の返答が痛快で、

デブでいる事自体が不健康なのだから、デブが健康的に痩せる方法などない

まず1秒でも早く不健康な状態を抜け出し、痩せてから健康な体を維持すればいい、という発想です。ダイエットを1年かけてダラダラやるのは「時間をドブに捨てている」のと同じだ、とまで言い切ります。

長くやるほどストレスが続き、挫折確率が上がるから、短期で一気にケリをつける。この割り切りに賛同するか反発するかで、読後感はかなり変わると思います。

私は最初に反発し、考えるうちに半分くらい納得しました。

そして著者は、減量の本質は「生活習慣の革命」だと言います。一時的な我慢で痩せても意味がなく、短期決戦で結果を出したあとに、自分に最適な習慣を体に叩き込むことが大事だ、と。つまり短期集中は瞬発的な精神論ではなく、その勢いで生活そのものを上書きするための着火装置だ、という順番です。

このダイエットの話は、そのまま仕事や勉強に置き換えられます。実際、著者は高校を中退した状態から、8か月間の猛勉強だけで早稲田大学に合格しています。

減量も受験も、一点に集中して短期で仕上げるという同じ型でした。ジャンルが違っても型は同じ、という主張を、自分の経歴で裏づけてくる構成になっているわけです。

「個」で戦う――会社というカゴから出る

本書は途中から、生き方そのものに踏み込みます。

象徴的なのが「カゴの中のバッタ」という比喩です。小さなカゴで育てられたバッタは、カゴの高さまでしか飛べなくなる。やがてカゴを外しても、もう高く飛ぼうとしない。

会社や他人の価値観に縛られて、自分で天井を決めてしまった人間の姿です。「なぜこの会社に入ったのか」に即答できず、「給料のため」としか言えない。

それは会社に依存して思考停止している状態だ、と著者は指摘します。

ここで逆説が出てきます。会社にしがみつく人より、「いつ辞めたっていい」という強気のスタンスの人のほうが、実はずっと良い仕事をする。クビになっても生きていけると思えている人は保身に走らず、大胆な決断ができるからです。

これを著者は心理的安全性の話として語ります。安全が確保されている人ほど思い切った判断ができて結果を残す、という指摘は、経営者でも会社員でも当てはまるという見立てです。

だからこそ、会社員のうちから副業や投資という「種」を蒔けと勧めます。小さくていい。給料以外の収入源を持つこと自体が、心の余裕につながる。金額の大小ではなく、「会社に依存しなくてもいい」という状態を先につくることが目的だ、という順番に私は納得しました。

お金のために安全をつくるのではなく、安全をつくるためにお金の入口を増やす、という発想だからです。

ビジネスのやり方についても、主張は独特です。人とは群れず、誰とも組まず、単独で突っ走る。合議制は決断のスピードを落とし、責任の所在を曖昧にするから、一人で決めて一人で実行する環境に身を置けと言います。

人を増やせば固定費が増え、機動力も落ちる。だから事業が回り出しても安易に拡大しない。一人のほうが速く、本気になれて、利益も大きい、という考え方です。

万人向けではありませんが、組織の中で動きが鈍くなっている感覚を持つ人には刺さる視点だと思います。

もう一つ、著者がいつも狙っているのが「一石五鳥」です。一つの行動から、最低2つ、できれば5つくらいのリターンを取りに行く。たとえばSNSの発信を、ただの記録で終わらせない。

思考の整理になり、人脈になり、将来の収益の基盤にもなるよう、最初から設計しておく。同じ労力でも、回収できる果実の数を意識するだけで時間の効率が何倍にもなる、というわけです。

投資の章では、この姿勢が生々しい数字で出てきます。著者は仮想通貨リップルに1億3500万円を投じ、3か月ほどで27億円に増やした。やみくもに分散せず、自分が深く理解し「心中しても悔いはない」と思える少数の対象に集中投資する。

そしてチャンスの「風」が吹く前から準備しておき、来た瞬間に一気に資金を入れる。「勝負は、チャンスが訪れる前から既に始まっている」という一文が、その態度を端的に表していました。

準備を終えた者だけが、好機を好機として掴める、という話です。

他人の意見を、そのまま信じない

最後に、本書がもっとも繰り返し言うことを取り上げます。他人の意見を鵜呑みにするな、です。

権威ある専門家でも、家族でも、世間の常識でも、自分が納得できないものは排除していい。著者は他人の言葉を鵜呑みにすること自体を、馬鹿げた行為だと断じます。

なぜか。他人の成功例は、育った環境も性格も資金力も「前提条件」が全部違うからです。安易に真似しても同じ結果にはならない。特に家族や親しい人の助言は、あなたを心配するがゆえに無難でリスクの低い方向に偏りがちで、規格外の結果を狙うときはかえって足を引っ張る、と。

ただし、これは「考えるな」ではありません。むしろ逆で、徹底的に考える手法がセットになっています。一つが「3週間のリサーチ法」です。新しい分野を学ぶとき、1週目で登場人物と全体像を把握し、2週目で「なぜこの会社は強いのか」といった仮説を立て、3週目でセンターピンを決める。

短期間で本質を見抜くための段取りです。なんとなく勉強するのではなく、最初から「急所を一つ特定する」というゴールに向かって情報を集める形になっています。

もう一つが「一人突っ込み」です。自分の決断に対して、あえて反論や悪口の記事を探しにいく。そして、それを自分の頭で論破できるかを試す。論破できなければ、仮説をやり直す。

投資なら、その銘柄を否定する意見を集め、全部に反論できれば実行し、できなければ見送る。ネガティブな情報をわざと取り込むことで、自分が見落としていた視点や知識を補える、という発想です。

賛成意見ばかり集めて安心しがちな自分には、耳の痛いやり方でした。

ここまで来て、ようやく「他人の意見を聞かない」の本当の意味がわかります。情報としては誰よりも集める。でも最後の判断は、自分の頭で検証したうえで自分が下す。

その失敗は一生忘れられない教訓になり、成長につながる。だから決定権だけは他人に渡すな、ということです。聞く耳を閉じるのではなく、決定の責任を自分に閉じる、と言い換えたほうが正確かもしれません。

おわりに

正直に言うと、私は本書を読んで何度かムカつきました。「彼女を切り、ケータイを解約し、8か月友達と遊ばない」みたいな極端さは、普通の生活ではそのまま真似できない。著者が成功したからこう語れているという生存バイアスもあるでしょう。

でも、ムカつくということは、心当たりがあるということでもあります。私はずっと、たくさんのことに薄く手を出して、どれも中途半端なまま「忙しい」と言い訳していた。本書はその言い訳を、静かに、しかし容赦なく剥がしにきます。

著者の言葉で、一つだけ刺さって抜けないものがあります。「死ぬこと以外、リスクじゃない」。生きてさえいれば、どんな挽回もできる。無一文から復活し、22kgを落とした人が言うと、妙な説得力があります。

全部を真似する必要はないと思います。まず一つ。今の課題で結果に直結する一点を決め、期限を切って、それだけに賭けてみる。その小さな実験から始めてみませんか。


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