「今年こそ痩せる」「いつか副業を始める」。そう言い続けて、何年たちましたか。
私はずっとこのタイプでした。手帳に立派な長期目標を書く。3日でモチベーションが切れる。また来年、と先延ばしにする。その繰り返しでした。
『ブチ抜く力』を書いた与沢翼さんは、この「コツコツ長期戦」こそが、普通の人が結果を出せない最大の原因だと言い切ります。
著者は「秒速で1億円稼ぐ男」と呼ばれた後、会社を解散して無一文になった人です。そこから海外に移り、個人投資家として復活した。さらに短期間で20kg超のダイエットにも成功している。ジャンルがまったく違う複数の成果を、本書は同じ1つの法則で説明します。
その法則が、タイトルの「ブチ抜く力」です。常識を覆し、世間が考える限界を突破して、とてつもない結果を超スピードで出す。本書はそのための思考法と実践術を、綺麗事を抜きにして語っています。
こんな人におすすめ
- 「今年こそ」と書いた手帳の目標を、毎年そのまま翌年に書き写している人
- 本もセミナーもこなしているのに、生活も成果も何も変わっていない人
- 会社の給料だけが収入源で、ふとした瞬間に将来が不安になる人
どれも、かつての私のことです。本書は「もっと頑張れ」とは言いません。むしろ頑張る対象を一つに絞れ、と言ってきます。この方向転換こそが、本書を読む価値の中心だと私は思っています。
「コツコツ」が、いちばんの遠回りだった
本書の核心を、私なりに言い換えるとこうなります。複数の目標を同時に追うのではなく、一つだけに全エネルギーを注ぎ込む。しかも、できるだけ短い期間で一気にやり切る。著者はこれを「最短・最速」と呼びます。
普通は逆を教わりますよね。大きな目標は時間をかけてコツコツやれ、と。著者はこれを真っ向から否定します。長期目標は道のりが長く心が折れやすいこと、短期決戦のほうが試行錯誤のサイクルを速く回せること——理由はいくつか挙げられますが、私が一番うなずいたのは「希少価値」の話でした。「1年で10kg減量」より「1か月で10kg減量」のほうが、周囲が「え、どうやって」と驚く。同じ成果でも、短く出すほど価値が跳ね上がるという視点です。
ここで出てくるのが「センターピン」という言葉です。ボウリングの真ん中のピンのこと。これさえ倒せば残りも連鎖で倒れる、物事の急所を指します。著者が新しいことを始めるとき、まずやるのはこの一点を見極めること。それ以外のノウハウは、いったん全部切り捨てる。この「切り捨てる勇気」を持てるかどうかが、本書を実践に移せる人と移せない人の分かれ目になる気がしています。
そして著者はこの過程を、飛行機の離陸にたとえます。離陸の瞬間がいちばんエネルギーを使う。でも一度高い空に出てしまえば、あとは少ない力で悠々と飛べる。最初のひと踏ん張りがすべてだ、と。見つけた一点をどれくらいの期間やり抜けば習慣として離陸するのか——その具体的な日数の目安は、本書の中で確かめてみてください。
65日のダイエットが、証明したこと
抽象論だけだとピンとこないので、著者が一番わかりやすく見せてくれる事例に触れます。ダイエットです。
著者は90kg台から60kg台まで、わずか2か月強で20kg超を落としました。このとき設定したセンターピンは、極端の一言。でも本人は「これだ」と決めた一点に集中し、他のノウハウには目もくれなかった。当然ながらネットでは猛批判を浴びますが、著者の返答が痛快で、
デブでいる事自体が不健康なのだから、デブが健康的に痩せる方法などない
まず1秒でも早く不健康な状態を抜け出し、痩せてから健康を維持すればいい、という発想です。ダラダラ1年かけるのは「時間をドブに捨てている」のと同じ——この割り切りに賛同するか反発するかで、読後感はかなり変わると思います。
面白いのは、このダイエットの型が、そのまま仕事や勉強に置き換えられる点です。減量の本質は一時的な我慢ではなく「生活習慣の革命」だと著者は言う。具体的に何kgをどう落としたのか、その数字とプロセスは本書で確かめてほしいところですが、私が受け取ったのは「短期で結果を出し、その勢いで習慣を体に叩き込む」という再現可能な順番でした。
「個」で戦う——会社というカゴから出る
本書は途中から、生き方そのものに踏み込みます。
象徴的なのが「カゴの中のバッタ」という比喩です。小さなカゴで育てられたバッタは、カゴを外しても、もう高く飛ぼうとしない。会社や他人の価値観に縛られて、自分で天井を決めてしまった人間の姿です。「なぜこの会社に入ったのか」に「給料のため」としか答えられない状態は、思考停止だと著者は指摘します。
ここで逆説が出てきます。会社にしがみつく人より、「いつ辞めたっていい」という強気の人のほうが、実は良い仕事をする。クビになっても生きていけると思えている人は保身に走らず、大胆に動けるからです。だからこそ、会社員のうちから副業や投資という「種」を蒔けと勧めます。金額の大小ではなく、給料以外の収入源を持つこと自体が心の余裕になる、と。
このほかにも、人と群れず単独で突っ走る働き方、一つの行動から複数のリターンを狙う発想、投資で少数の対象に集中する流儀など、独特の哲学が次々と出てきます。投資の章には、ある銘柄への集中投資を数か月で何倍にも増やした生々しい数字も登場しますが、その具体額と勝負のタイミングの取り方は、本書で読んだほうが迫力があります。すべてを紹介すると本書の面白みを削いでしまうので、ここでは入口だけ。気になった一点を、ぜひ原著で深掘りしてみてください。
他人の意見を、そのまま信じない
最後に、本書がもっとも繰り返し言うことに触れておきます。他人の意見を鵜呑みにするな、です。
ただし、これは「考えるな」ではありません。むしろ逆で、徹底的に考える手法とセットになっています。新しい分野を短期間で読み解くリサーチの段取りや、自分の決断にあえて反論を探しにいって論破できるか試す——いわば「自分への一人ツッコミ」といった具体的な型が用意されています。情報としては誰よりも集める。でも最後の判断は、自分の頭で検証したうえで自分が下す。その失敗は一生の教訓になり、成長につながる。だから決定権を他人に渡すな、ということです。この検証法の手順そのものは、本書で順を追って確かめるのがいちばんだと思います。
おわりに
正直に言うと、私は本書を読んで何度かムカつきました。彼女を切り、友達と遊ばず一点に賭ける——みたいな極端さは、普通の生活ではそのまま真似できない。生存バイアスもあるでしょう。
でも、ムカつくということは、心当たりがあるということでもあります。私はずっと、たくさんのことに薄く手を出して、どれも中途半端なまま「忙しい」と言い訳していた。本書はその言い訳を、静かに、しかし容赦なく剥がしにきます。
著者が言い切る「リスク」の定義は、読むとしばらく頭から離れません。生きてさえいれば、どんな挽回もできる——その一文を自分の状況に当ててみたとき、何が見えるか。まず一つ、期限を切って一つだけに賭けてみる。その実験を始めたくなったら、本書を開く合図だと思います。
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