本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『バビロンの大富豪』ジョージ・S・クレイソン氏|稼いだ金の十分の一は、まず自分に払う

投資・資産形成 ✍ ジョージ・S・クレイソン氏
約8分で読めます

※ 本記事はアフィリエイトリンク(Amazonアソシエイト)を含みます。

『バビロンの大富豪』
目次

給料日が来る。家賃が引かれる。カードの請求が引かれる。残ったお金で月末まで耐える。気づけば、また財布は空っぽ。

この感覚に心当たりがある人へ。同じことで悩んでいた人たちがいます。数千年前の、古代バビロンの市民です。

世界一裕福だった都市に住み、毎日懸命に働いていた。なのに財布はいつも空。本書は、その「空っぽの財布」を治すための物語です。著者のジョージ・S・クレイソン氏が1926年にアメリカで発表し、いまも読み継がれる蓄財哲学の古典になりました。

面白いのは、これが教科書ではなく「物語」だということ。戦車職人や楽士、元奴隷といった登場人物が、それぞれの失敗と再起を通して原則を体得していく。

だから理屈ではなく、人間の手触りで腹に落ちる。読み終えるころには、お金の話のはずなのに生き方の話を聞かされていた、という不思議な余韻が残ります。

図解

こんな人におすすめ

特に効くのは、こんな場面で立ち止まっている人です。

逆に、最新の金融商品や税制テクニックを知りたい人には物足りないかもしれません。本書はインフレや税金の具体策を扱いません。扱うのは、お金に対する人間の心理と、時代が変わっても崩れない原則のほうです。だからこそ、何から始めればいいか分からない人の最初の一冊になります。

「働いているのに貯まらない」の正体

本書がいちばん最初に突きつけるのは、貧しさの原因です。

腕の良い職人が、それでも財布を空っぽにしている。彼が幼なじみの大富豪アルカドに問います。同じ街で同じように働いているのに、なぜお前だけが豊かなのか、と。

返ってくる答えは厳しい。お金が貯まらないのは、運が悪いからでも給料が安いからでもない。富を増やす法則を学んでいないか、学んでも守っていないからだ──。

ここで本書が放つ比喩が鮮烈です。稼いだお金を生活費や買い物で全部、店や他人に払ってしまう。それは結局、他人のために汗水たらして働く奴隷と同じではないか、というのです。自分のためには一銭も残っていない。耳が痛い人は多いはずです。

そして本書の背骨になるのが、アルカドが説く「空の財布を太らせる七つの知恵」。順に挙げると、(1)稼いだものの最低でも十分の一を自分のために取っておく、(2)残りで生活する予算を組む、(3)貯めたお金を投資で働かせる、(4)元本を危険にさらさず財産を死守する、(5)家賃を払い続けずに住まいを持つ、(6)老後と家族のための備えを確保する、(7)稼ぐ力そのものを学び続けて磨く。

現代のマネー本が説くことの原型が、ここにほぼ出そろっています。

なかでも全体の土台が、第一の知恵「自分自身への支払い」です。税金や家賃として他人に払う前に、まず自分の未来へ払う。今でいう「先取り貯蓄」の源流が、ここにあります。

残ったお金で暮らすのではなく、取り分けた残りで暮らす。順番を入れ替えるだけ。それだけのことが、なぜか世界を変えるほど難しい。

本書はその難しさを物語で解いていきます。

欲望と必要経費を、混同しない

七つの知恵の中で、いちばん耳が痛いのが予算の話です。

著者の指摘はこうです。私たちが「必要経費」と呼んでいるものは、放っておくと収入と等しくなるまで際限なく膨らんでしまう──。

私たちがそれぞれ必要経費と呼んでいるものは、自分で気をつけていない限り、必ず収入と等しくなるまで大きくなってしまう

(ジョージ・S・クレイソン『バビロンの大富豪』より)

昇給したのにお金が残らない理由が、ここにあります。収入が増えると、それに合わせて「必要なもの」も増えてしまう。少し良い部屋、少し良い外食、少し良い服。気づけば、また収入とぴったり同じだけ使っている。

私がこの一節に唸ったのは、貯まらない原因を「収入の低さ」ではなく「欲望の性質」に置いた点です。これは年収がいくつでも、誰にでも当てはまる。だから本書はツールとしての予算立てを勧めます。

使いたいものを全部書き出し、収入の9割の枠に収まるものだけを残す。枠を超えた「叶えられない欲求」は思い切って消し、残した1割には絶対に手をつけない。

手順としては拍子抜けするほど単純です。それでも徹底できる人が驚くほど少ないのは、家計の問題が技術ではなく意志の問題であることを、本書が見抜いているからでしょう。

「黄金の奴隷」を働かせる──複利の力

貯めるだけでは富になりません。本書は、お金を「働かせる」段階を擬人化して描きます。

貯めたお金が利息を生み、その利息がさらに利息を生む。著者はこれを「黄金の奴隷」と呼びました。所有者のために24時間、休まず働き続ける存在です。要するに複利のことですが、この呼び名のおかげで、抽象的な金融用語が急に生き物のように見えてくる。

数字も具体的です。ある農夫が息子のために銀貨10枚を金貸しに預け、4年ごとに利息を上乗せする複利で運用し続けたところ、50年後には163枚、元手の約16倍に育っていた。

元本そのものはわずか10枚です。ここで「自分の少ないお金には関係ない」と思う人ほど、本書の別の言葉に立ち止まることになります。「富というものは一本の樹と同じく、小さな種から育つ」。

最初の一枚が種になる。少額だから意味がない、という考えそのものが富から遠ざかる原因なのだ、と。

もっとも、現実の利回りは古代バビロンの設定ほど高くはありませんし、4年で25%という条件をそのまま現代に持ち込めるわけでもありません。ここで本当に効くのは数字の大きさではなく、「時間を味方につければ最初の一枚が樹になる」という発想の転換のほうです。

損失から財産を死守する

増やすことよりも、まず失わないこと。本書はリスク管理を強く説きます。

象徴的なのが、若き日のアルカド自身の失敗です。一年かけて貯めたお金を、宝石の目利きなどできるはずもないレンガ職人に託し、遠い国で宝石を買ってきてくれと頼んだ。

当然、価値のないガラス玉をつかまされ、全額を失います。師は彼を馬鹿者と叱りました。専門外の人間に投資を相談するのは、富の苗木を根元から引き抜く行為だ。

宝石を知りたいなら宝石商へ、羊を知りたいなら羊飼いへ行け、と。

そして元本の確保。あり得ない高利回りをうたう話、詐欺師の魅惑的な誘い、自分の未熟な欲望。そこから黄金は逃げていく。一攫千金を否定し、堅実な元本保全を説いたこの姿勢が、本書が1929年の世界恐慌を生き抜く知恵として読み継がれた理由でもあります。

バブルのたびに人は同じ過ちを繰り返すという意味で、この章はおそらく今いちばん読み直す価値があります。

借金からの脱出──70・20・10の割合

本書がただの理想論で終わらないのは、借金まみれの状態からの再起を、これも物語で描くからです。

元奴隷のダバシアは、若い頃に浪費と借金でバビロンを追われ、強盗に身を落とし、ついにはシリアで奴隷にまでなりました。負債は銀貨119枚と銅貨141枚。彼を変えたのは、主人の妻からの問いです。お前の魂は自由人のものか、奴隷のものか、と。

一念発起したダバシアの返済計画が、極めて具体的でした。収入を三つに割る。十分の七(70%)を生活費に、十分の二(20%)を債権者への返済に、十分の一(10%)を自分の貯蓄に。

借金を返しながら、同時に自分の財産も築く。彼はこの割合を固い決意で守り抜き、完済して商人として成功します。

唸らされるのは、この古代の法則が現代でも機能することを、本書が入れ子の物語で証明してみせる点です。発掘されたダバシアの粘土板を翻訳した考古学者が、同じ割合を自分の借金に適用する。

計算上、毎月収入の20%を返済に充てれば3年弱で完済できる。そして彼は本当に借金地獄から抜け出した──。数千年前の比率がいまも完璧に通じる構成の見事さに、フィクションと分かっていても背筋が伸びます。

返済をゼロか百かで考えず、生活・返済・貯蓄を同時に走らせる発想は、債務整理の現場で語られる考え方と驚くほど近い。

幸運も労働も、行動する人の側に立つ

蓄財術と並んで本書が力を込めるのが、「幸運」の正体です。

私たちは富には大きな幸運や運命が必要だと思いがちですが、本書はこれを否定します。幸運は偶然降ってくるものではなく、チャンスのあとに続いてやってくる。女神は、のろまな人間を待ってはくれない。

チャンスを前に言い訳をして動きを遅らせる「優柔不断の心」こそ、人間の内なる最大の敵だ、と。良い機会だと判断したなら、その場で即座に動く。それが幸運を引き寄せる唯一の方法だと本書は言い切ります。

最後に置かれているのが、お金の話を超えた労働観です。かつて奴隷だった大商人が、働くことを苦役と軽んじる青年に、自分の過去を語る。奴隷の身から自由と成功を勝ち取れたのは、働くことを最高の友としたからだ、と。

労働を敵と捉えるか、成長と喜びをもたらす友と捉えるか。その視点の違いが、経済的な自立と、自尊心という精神的な自立を同時に左右する。「決意あるところ、道は開ける」。

本書を貫くこの一行は、お金の話であると同時に、生き方の話でもあります。

おわりに──知恵だけが残る

読み終えて残るのは、複雑なテクニックではありません。

稼いだものの一部を、まず自分に払う。欲望と必要経費を取り違えない。お金を働かせ、損失から守る。チャンスには即座に動き、労働を友とする。どれも、知ってしまえば当たり前に聞こえます。でも、当たり前を何千年も守り続けられる人だけが、富を築いてきました。

私がこの本を勧めたいのは、お金の知識がある人より、むしろ「お金の話が苦手」「何から始めればいいか分からない」という人です。物語として読めるので構えなくていいし、専門用語に挫折することもない。

それでいて、現代の投資本や家計術の根っこにある考え方が、するりと身につく。具体的な金融商品やインフレ対策が一切出てこないのは弱点でもありますが、原則を血肉にしてから個別の手段を学ぶ順番のほうが、結局は遠回りに見えて近道です。

バビロンは、森も鉱山も建築用の石材すらない、雨の少ない乾いた谷にありました。その途方もない富は、天然資源ではなく、人間の知恵だけで生み出されたもの。

富は外から降ってくるのではなく、自分の中の原則から育つ。それが本書のいちばん深いメッセージでした。次の給料日、家賃やカードの請求が引かれる前に、まず10%を自分のために取り分けてみる。

その一枚のコインから、あなたの富の樹が育ち始めます。


合わせて読みたい

『私の財産告白』本多静六 本書の「収入の十分の一を貯める」をさらに徹底し、「収入の4分の1を天引き貯金」して巨万の富を築いた日本の実例です。古代バビロンの原則が現実の日本でどう機能するかを、生身の人生で確かめられます。

『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』橘玲 「真面目に働くほどお金が貯まらない」という本書の問題提起を、現代日本の税制と制度の側から解き明かす一冊です。なぜ給料が増えても手元に残らないのか、その構造的な答えがほしい人に。

『複利で伸びる1つの習慣』ジェームズ・クリアー 本書の「黄金の奴隷」、つまり小さな積み重ねが雪だるま式に育つ複利の考え方を、お金以外の習慣全般に広げた本です。最初の一枚のコインが樹に育つ感覚を、行動の領域でも体感できます。


この記事をシェア:

次に読む一冊

同じテーマを、もう一段深く考えるための一冊です。

投資・資産形成『いらない保険』後田亨・永田宏|あなたが入るべき最強の保険は、もう入っている「大きな病気をしたら、医療費で家計が破綻するかもしれない」。『いらない保険』(後田亨・永田宏)の要約。