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『3D思考』泉本行志さん|思考は変えられない。でも「視点」なら動かせる

思考法・問題解決 ✍ 泉本行志さん
約8分で読めます

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『3D思考』
目次

「もっと頭を柔らかく」と言われても、具体的にどうすればいいのか分かりませんよね。

私もずっとそうでした。アイデアを出そうと机にかじりついても、同じ考えがぐるぐる回るだけ。新しい企画を任されるたびに、結局いつもの引き出しからしか答えが出てこない。能力が足りないのかと落ち込んでいました。

本書『3D思考』が面白いのは、その落ち込みの矛先を「能力」から「視点」へとずらしてくれる点です。著者の泉本行志さんは、思考が行き詰まるのは頭が悪いからではなく、無意識のうちに視点が一カ所に凝り固まっているからだと言います。そして、思考そのものは直接コントロールできなくても、視点なら意識的に動かせる。

「レベル」「ポジション」「時間」という3つの軸で、頭の中のカメラを立体的に動かす——それが3D思考です。以下、私なりに要点を整理しつつ、感じたことを書いていきます。

図解

こんな人におすすめ

なぜ「思考」ではなく「視点」なのか

本書の出発点は、シンプルな逆転の発想にあります。

思考というのは、直接コントロールしようとしてもなかなかうまくいかないものです。では、どうすれば思考を切り替えられるかというと、「視点」を変えればよいのです。(泉本行志『3D思考』より)

頭をひねって発想を絞り出すのは難しい。「もっといいアイデアを出せ」と自分に命じても、出てこないものは出てこない。でも「今、自分はどこから物事を見ているか」という焦点の置き場所なら、意識して動かせる。

ここに本書のうまさがあります。意志の力ではなく、操作可能なレバーに問題を置き換えているのです。

著者によれば、人はそれぞれ「思考の枠組み」を持っていて、同じものを見ても見え方が違う。同じ地下鉄のポスターでも、アート好きの人と無関心な人とでは認識がまるで変わる。

この枠組みは、日常業務を効率よくこなすには大いに役立ちます。毎回ゼロから考えていたら仕事は前に進みませんから、過去の経験で固めた枠は本来ありがたい味方なのです。

ところが、未経験の問題や新しい企画に直面した瞬間、その同じ枠が柔軟な発想を縛る足かせに反転する。便利さと窮屈さが表裏一体になっている。だからこそ、必要なときに視点を3方向へ動かして枠の外へ出る技術がいる、というわけです。

私が感心したのは、これがロジカルシンキングのような個別スキルの「手前」を扱っている点です。フレームワークや論理の組み立て方をいくら磨いても、それを向ける方向がズレていれば成果は出ない。

視点のマネジメントは、その方向を決める土台にあたります。上下・左右・前後とカメラを動かすイメージに落とし込まれているので、抽象論で終わらず、行き詰まった瞬間に思い出せる道具になっている。

理屈として正しいだけの本は多いけれど、この本は「使える形」まで降りてきているのが強みです。

上下に動かす――レベルの視点軸

1つめの軸は「レベル」、つまり抽象度の高さです。

レベルが高いとは、より抽象的・全体的であること。事業理念やコンセプトがこれにあたります。レベルが低いとは、より具体的・個別的であること。日々の作業手順がそうです。

著者はこれを「鳥の目(全体を俯瞰する)」と「虫の目(細部を見る)」と呼びます。空高くから地形全体を眺めるか、地面の草の一本一本を見るか。どちらが偉いという話ではなく、必要に応じて高度を変えられることが大事だ、という整理です。

面白いのは、このレベル感のズレこそが会議の噛み合わなさの正体だと指摘するところです。家電量販店で店員が「A社は画質がいい」「B社は音がいい」という具体的な話と、「C社は信頼できる会社だ」という抽象的な話を混ぜて並べて説明すると、聞くほうの判断はゆがむ。

比べているものの粒度が違うのに、同じ土俵に乗せてしまうからです。会議も同じで、戦略レベルの人と作業レベルの人が同じテーブルで平然と議論するから空回りする。

この例えで、私は自分の説明の下手さの理由をようやく言語化できました。相手と「同じ高度」に立っていなかったのです。

著者の言う「高度な思考」とは、低いレベルの事象をきちんと理解したうえで抽象度を上げて話せること、そして何より、自分が今どのレベルの話をしているかを意識できていることです。

人に説明するときは、まず全体像という高いレベルから入り、徐々に詳細へ落とす順番が効く。抽象的で大きな課題を、実行可能な小さい単位へ刻んでいく「チャンクダウン」も、この軸の応用です。

逆に細部から積み上げて最後まで全体像が見えない説明は、聞き手を迷子にします。

さらにレベルを上げると、問題そのものが解けてしまうことがある。著者の部署で高価な分析ソフトが予算不足で買えなかったとき、視点を一段上げて全体を見渡し、似た作業をする他部署に共同購入を持ちかけたら初期費用が半減して導入できた、というエピソードが紹介されます。

「予算が足りない」という同じ次元でいくら粘っても出口はなかったのに、一段高い視点に移った途端、別の道が見えた。問題は、それが発生したのと同じ次元では解けない——アインシュタインの言葉として知られる発想を、地に足のついた形で示してくれます。

私たちが「壁」だと思い込んでいるものの多くは、視点の高さを変えるだけで回避できる障害なのかもしれません。

左右に動かす――ポジションの視点軸

2つめの軸は「ポジション」、自分以外の他者の立場へ視点を移すことです。上司、部下、他部署、顧客、競合。それぞれが何を考え、自分に何を期待しているかを想像します。

これを怠ると、自分が売りたいものを「相手も望んでいるはず」と都合よく解釈してしまう。この自己中心的な思い込みは、本人にはまず自覚できないのが厄介なところです。

本書には身近な例があります。他部署に頼んだ仕事のメール返信が来ない。「なぜ返さないんだ」とイライラする前に、相手の椅子に座ってみる。すると「これを簡単に引き受けたら、今後も頻繁に振られるかも」と相手が警戒している可能性が見えてくる。

気づければ「今回は特別なケースです」と伝え方を変えられる。相手の沈黙を「やる気のなさ」と決めつけていたのは、こちらの視点が動いていなかっただけ、というわけです。

本書がさらに鋭いのは、直接の相手で止めず「目の前にいる人の一歩先」まで視点を伸ばせと説く点です。上司に頼まれた資料なら、上司がその先の役員にどう説明するかまで考えて構成する。

「顧客の顧客」がどう感じるかまで想像すれば、提案の本質的な価値が一段上がる。多くの人が相手の表情を読むところで止まるのに対し、その背後にいる第三者まで射程に入れる。

ここまで来ると、ただの気配りが戦略になります。他者像を属性の羅列ではなく一人の生きた人物として詳細に描く「ペルソナ」も、この軸を深めるための道具として登場します。

架空でも具体的な顔を与えると、自分の都合の入り込む余地が減るのです。

前後に動かす――時間の視点軸

3つめの軸は「時間」、過去・現在・未来のどこに視点を置くかです。どのスパンで物事を捉えているかで、同じ状況でも判断はまるで変わります。そして特に効くのが、理想の未来に立ってそこから現在を逆算する「未来からの視点」。

人間関係のトラブルで「誰が悪い」と過去を追及すると、ネガティブな感情が燃え上がって泥沼になります。それより「問題が解決した未来」に視点を移し、「そこへ近づくには何をすべきか」を問えば前向きに進める。

著者はこの未来視点を、人の感情が絡むケースと、過去の延長線から離れて斬新な発想が欲しいケースで特に機能すると整理します。原因追及が悪いのではなく、場面によっては解決志向のほうが速い、という使い分けの提示です。

未来視点には心を整える効果もあります。未来から振り返って「あのときやっておけばよかった」と先回りして後悔する「予悔(よかい)」という技術。済んだことを悔やむのではなく、これから悔やむであろう自分を先に想像して、今の先延ばしを止める。

期限に間に合うか不安なときも、達成して喜んでいる未来の自分を一度思い描いてから現在に戻ると、不安が少しやわらぐ。後悔を、自分を動かす燃料に変える発想です。

ただし著者は「感情的なときは動かない」と釘を刺します。怒りや緊張で揺れているときは、そもそも視点を柔軟に動かせない。まずその場を離れるなどして気持ちをニュートラルに戻す——この順番の指摘は地味ですが誠実で、技術の限界を正直に認めている点に好感を持ちました。

万能の魔法として売らないところに、かえって信頼が置けます。

3つの軸は重なって効く

そしてこの3軸はバラバラではなく、互いにリンクしています。経営の「ビジョン」とは、高いレベル・長期の時間・広いポジションが組み合わさった視点であり、現場の「オペレーション」は具体的なレベル・短期の時間・局所的なポジション。

レベルが上に行くほど、未来へ向かう時間軸と広い立場が自然と組み合わさっていく。組織がうまく回るには、この遠い視点と近い視点に一貫性が要る、という見立ては腑に落ちます。

部門間で「それは担当範囲じゃない」となすり合いが起きたときも、視点をより高いビジョンや未来へ引き上げると、個々のエゴから離れて共通の目的が見えてくる。

すると対立が協力に変わる。三つの軸を同時に動かせる人ほど、こうした膠着を解きほぐせる。本書の核心は、まさにこの3軸が重なる地点にあります。

正直に言えば、個々の概念——抽象と具体の往復、相手目線、未来からの逆算——は、それぞれ他書でも見かけるものです。本書の独自性は、それらを「視点を動かす」という一つの身体感覚に束ね直したフレーミングの巧みさにある。

バラバラの良い教えを、いつでも取り出せる一本の道具にまとめた手柄です。逆に、各スキルを一つひとつ深掘りしたい人には、やや物足りなく感じるかもしれません。

ここは期待値を合わせておいたほうがいい点です。

私自身、会議でモヤモヤしたとき「あ、今みんなレベルがズレてるな」と気づけるようになりました。それだけで議論を立て直せる。頭が固いと悩む前に、まずカメラを1段上げてみる。

そこから景色は確かに変わります。視点を動かすという小さな習慣が、思考の自由度を少しずつ、しかし確実に広げてくれるはずです。


合わせて読みたい

『具体と抽象』細谷功さん 3D思考の第1軸「レベル」を、もっと深く掘りたい人へ。抽象と具体を行き来する往復運動こそ思考の核心だと教えてくれます。本書と相互補完の関係です。

『未来に先回りする思考法』佐藤航陽さん 第3軸「時間」を未来側へ伸ばす一冊。点ではなく流れで未来を捉える発想が、未来からの逆算をさらに鍛えてくれます。

『論点思考』内田和成さん 視点を動かして「解くべき問い」を見極める技術。レベルを上げて本質的な論点をつかむ感覚が、3D思考と響き合います。


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