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『続ける思考』井上新八さん|気合はいらない、仕組みが10割

生産性・時間術・習慣
約7分で読めます

「今度こそ続けよう」と決めた三日後、もうやめている。

その繰り返しを、意志の弱さのせいにしてきませんでしたか。本書はその思い込みを根本からひっくり返します。年間200冊の本をデザインする超多忙なブックデザイナー・井上新八さんが、20年以上かけてたどり着いた結論はシンプルでした。続けるのに必要なのは、やる気ではなく「仕組み」だと。この記事では、その仕組みの作り方と、継続を阻む意外な敵まで丸ごと辿ります。

こんな人におすすめ

この本の核心――継続は「気合」ではなく「仕組み」

著者は、ある日突然こう気づいたと言います。自分にとって継続は「趣味」なのだ、と。2022年11月22日12時37分。その瞬間を正確に覚えているほどの衝撃だったそうです。

続けることを、何かを達成するための辛い手段ではなく、続けるプロセスそのものを楽しむ趣味として捉え直す。この発想の転換が本書の出発点です。

そのうえで、継続の方法論を著者は一言で言い切ります。

続けることは、「仕組み」さえつくってしまえば、あとは勝手に続いていく。継続は仕組みが10割だ。

意志の力には限界があります。だから「やる気を出す」のではなく、やる気がなくても自動的に続いてしまう環境を整える。ここに本書のすべてが詰まっています。

そしてもう一つ、出発点で大事な順番があります。

「何かをはじめてみようかな?」と思ったときに、まっ先に考えること。「どうやったら続くかなー?」

目的の崇高さより先に「どうやったら無理なく続くか」を考える。逆転の発想です。仕組みの作り方を、4つの要素で見ていきます。

仕組みその1――「正しい努力」を捨て、「正しい継続」を選ぶ

何かを始めるとき、私たちはつい効率的に、正しい方法で成果を出そうとします。著者はこれが挫折の入り口だと言います。

最短の攻略法ですぐにうまくなると、かえってすぐ飽きてしまう。思い通りに上達しないと、つまらなくなってやめる。だから「上達」より「ただ続けること」を最優先にする。これが「正しい継続」です。

「正しい努力」という考えを捨てて、「ただ続ける」ことをまずは意識する。

しかも、自分なりのやり方を試行錯誤するプロセスにこそ意味があります。

自分で解き方を見つけると、応用力が生まれる。

短歌を詠めるようになりたいなら、いきなり良い歌を作ろうとしない。「毎日歌集を数ページ読む」「気に入った歌を書き写す」という、絶対に失敗しないことから続ける。著者は実際、5ヶ月で150の歌を作りました。

仕組みその2――「毎日やる」と決める

ここが本書で最も意外な主張かもしれません。「週に数回」より「毎日やる」ほうが、圧倒的にラクに続く。

週3回と決めると、「今日やるか、明日に回すか」を毎回考えることになります。その決断そのものがエネルギーを消耗させ、やがてフェードアウトする。

ラクに続けるには、選択肢を減らすのがいちばん手っ取り早い。まず「やらない」という選択肢をなくしてしまう。

「やらない」を消してしまえば、迷う余地がない。旅行中だろうと忙しかろうと毎日やる。そうすると、次第に歯を磨くように無意識でできるようになります。週に数回というほうが、実は難しいのです。

仕組みその3――「1日5分」まで小さくして、既存の習慣にくっつける

毎日やるためには、負担をゼロに近づける必要があります。行動を極限まで小さく刻む。

「1日5分だけ」は、「無理かも」を「やれる」に変える魔法の考え方だ。

読書を続けたいなら「本を読む」ではなく「本を手に取ってページを開くだけ」。これなら1秒で終わります。でも開いてしまえば「ついでに数ページ」となり、結果的に読書が続く。

そして忘れないための工夫が「2つセット法」です。

「小さなこと」と「小さなこと」をセットにして2つでひとつの習慣として考える。

「歯磨きをする+スクワット」「体温を計る+3行日記」のように、すでに定着した習慣に新しい行動を紐づける。普段の行動がスイッチになるので、忘れにくい。「ついで」の力です。

応用編として「小さな前置き」もあります。

「難しくてめんどうなこと」の前には「簡単な小さいこと」をセットする。

難しい企画書を書く前に、お気に入りのコーヒーを淹れる。心地よい小さな行動をクッションにして、脳のスイッチを入れる。

仕組みその4――「記録」で継続をゲームに変える

仕組みの最後のピースが記録です。

「続ける」ことを圧倒的に楽しくするのが「記録」だ。

カレンダーに○をつけるだけでも達成感が生まれる。続けた記録が積み上がっていくと、継続そのものがコレクションのように楽しくなります。これが継続のエンジンになる。

しかも記録には副産物があります。毎日の「当たり前の行動」を記録し続けると観察力が高まり、解像度が上がる。著者は納豆を毎日記録するうちに、各メーカーのこだわりに気づき、納豆が趣味になったと言います。なんでもない日常から「好き」が発見される。

やり抜く力の正体――「やったフリ」と「休むなら明日!」

仕組みを作っても、気分が乗らない日は必ず来ます。そこで使うのが二つの言葉です。

一つは「やったフリ」。

「やる気」を出すためには「やる」しかない。永遠のパラドックスだ。だから、最初の一歩だけ「やる」。

やる気は、やらないと出てこない。だから最初のワンアクションだけやる。ジョギングなら「ウェアに着替えて玄関を出るまで」。やってみると、そのまま走ってしまうことが多い。

もう一つが「休むなら明日!」。サボりたくなったら「休むなら明日、今日だけはやる」と自分に言い聞かせる。明日休む許可を出すことで、今日のハードルが下がる。

「いつでもやめられる」って思ったら、きつかった仕事が少しラクに感じられた。

「続けなきゃ」というプレッシャーから自分を解放すると、かえって続く。逆説的な心理です。

ここで本書最大の警告があります。継続を阻む最大の敵は、サボりでも忙しさでもない。「大きな達成」です。目標を達成した瞬間の解放感で熱が冷め、再開が嫌になる。著者はこれを「魔物」と呼びます。打ち消す方法は一つ、達成した翌日も休まず淡々と続けること。達成の瞬間は喜びを噛みしめ、そのあとはまた日常のルーティンに戻る。

小さな継続が、人生を変える

ここまでは方法論でした。本書の後半は、その小さな仕組みが何を生むかという哲学に深まります。

目に見えないような日々の小さな変化を起こし続けていく。自分を「変える」ということは、小さく変化を続けることなのだ。

劇的な変身を求めるのではなく、微小な修正の反復。1日5分のダンス練習も、1日1秒ずつ振り付けを覚えれば300日で覚えられる。著者の継続実績はすさまじく、ジョギング25年、手書きの日記22年、Wii Fitでの運動は15年・5000日以上に及びます。

数字が示す真実があります。著者は16年かけてジョギングで累計2万キロを走りました。1年で2万キロ走る超人との差は、たった16倍。才能ではなく、時間をかけただけ。

小さくコツコツ続けることは、いつか未来の自分を助けるための積み立て貯金のようなものだ。

そして本書には、目的についての独自の視点があります。「なんのため」ではなく「なんとなく」で始めていい。意味は後からわかってくる。毎日納豆を記録するような一見くだらないことでも、続けるうちに個性や武器に変わる。

世界を切り拓くきっかけは誰も見向きもしないようなくだらないことの中に眠っている。

苦手なことも同じです。著者は大嫌いだった掃除を、毎日違う場所を小さな範囲だけ掃除するよう工夫した結果、「掃除が楽しい」に変わった。苦手は、小さく繰り返すうちに好きや武器に化ける。

一つ、本書の限界にも触れておきます。著者の「すべては朝飯前に!!」という朝特化型のルーティンは、夜勤や不規則な勤務の人にはそのまま使えません。著者自身が言うように、自分の生活リズムに置き換えて「自分なりのやり方を発見する」工夫が要ります。

明日から何を変えるか

1. 1分未満で終わる「超極小の習慣」を1つだけ決める 「朝起きたら水を1杯飲む」「本を1ページ開く」など、絶対に失敗しない小ささに刻む。完璧を目指して大きく始めると、それが挫折の入り口になります。

2. その行動を、既存の習慣の直後にくっつける 「歯を磨いたらスクワット」のように、必ず毎日やっている行動とセットにする。普段の行動がスイッチになり、忘れにくくなります。

3. 目につく場所のカレンダーに○をつける 記録を見えない場所に置くと忘れます。やったら○。やる気が出ない日は「休むなら明日!」と唱えて、道具を手に取る「やったフリ」だけでOK。質より「やった事実」を積みます。

おわりに

この本を読んで、自分のなかの「続かない=意志が弱い」という長年の言い訳が崩れました。

問題は意志ではなく、仕組みがなかっただけ。週3回という中途半端なルールが、毎回の決断を増やして自分を疲れさせていた。大きな目標を立てては達成して燃え尽きる、を繰り返していた。全部、構造の問題だったのです。

著者は最後にこう言います。世界を生きやすい場所に変えたいなら、まずは自分から。誰かに頼るのではなく、孤独に積み上げた小さな継続だけが、自分の世界を変えていく。

明日の朝、水を一杯飲んでカレンダーに○をつける。たったそれだけから始めてみます。


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