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『新版 ハマトンの知的生活』P.G.ハマトン氏|「知的な人」は、知識の量では決まらない

学習・インプット
約4分で読めます

知的になりたいと思って、本を増やしてきました。

でも、冊数が増えるほど、頭が良くなっている実感は薄れていく。むしろ情報に追われて消耗している。そんな感覚、ありませんか。

私もそうでした。知的生活とは、知識をたくさん持つことだと思い込んでいたからです。

19世紀イギリスの文筆家P.G.ハマトン氏は、この前提をはっきり否定します。知的とは、何を知っているかではなく、どう考えるかを選ぶ姿勢の問題だ、と。知識が乏しかった古代にも、知的に生きた人はいた。だから蔵書量でも才能でもなく、態度の問題なのだ、と本書は言い切ります。

そしてもう一つ、本書が古典でありながら今に刺さる理由があります。ハマトン氏は知的生活を精神論で語りません。睡眠、食事、運動、時間の使い方という、極めて泥臭い土台の話として語るのです。

「知的とは何か」という問いの立て方が面白い

まず私が惹かれたのは、本書の出発点そのものです。

知的な人とは知識の多い人ではなく、いつも少しでも高いほうの考えを選び、生き生きとものを考えることに喜びを感じる人。ハマトン氏はこれを一種の「徳」と呼びます。

常に程度の低い思考より高度な思考のほうを採る

この一文に、本書の射程がぎゅっと詰まっています。知的生活を「徳」として捉えた瞬間、それは特別な才能を持つ人だけのものではなくなる。誰にでも開かれた、日々の選択の積み重ねになる。

ここが見事だと思うのは、著者がこの態度を理想論で終わらせないところです。本書の大半は、その態度を毎日どう支えるかという、生活の技術に割かれています。精神の話を、徹底して身体と習慣の話へ降ろしていく。その落差が、この古典を実用書として読ませます。

いちばん意外だったのは「体の話」が多いこと

知的生活の本だと聞いて、私は思索や読書術の話を想像していました。ところが本書は、驚くほど多くのページを睡眠・食事・運動に割きます。

象徴的なのが哲学者カントの例です。カントは知的生活を維持するために、ほとんど偏執的なまでに厳格なルーチンを守っていました。なかでも私の心に残ったのは、寝る少し前になると頭を使う仕事をきっぱりやめていた、というエピソード。脳を休ませてから眠りに入る。思考の質を守るための、就寝の作法です。

なぜカントがそこまで生活を律したのか、そのほかにどんな規則を自分に課していたのかは、本書で確かめてほしいところ。読むと、知的生活が机の上だけの話ではないとはっきりわかります。

この章が効くのは、頑張っているのに頭が冴えない、という人だと思います。原因を「やる気」や「能力」に求めて消耗している人ほど、眠り方や食べ方という動物的な欲求の管理こそが高度な思索の前提だ、という指摘に救われるはずです。

「1日2時間」というシンプルすぎる処方箋

本書の中心には、忙しくて学ぶ時間がない、という誰もが抱える悩みへの答えがあります。

それがハマトン氏の言う「2時間の原則」です。どんなに多忙でも、ある条件を満たした「1日2時間」を最良の読書や研究に充てる。それだけで、知的生活は守れるというのです。

ここで肝心なのは、ただ2時間を確保すればいい、という話ではない点です。本書が付ける一つの条件にこそ核心があり、それを外すと2時間はあっさり無価値になってしまう。その条件が何か、なぜそれほど重要なのかは、ぜひ本文で受け取ってください。

私がこの原則に説得力を感じたのは、「1日24時間すべてを捧げよ」と言わないところです。たった2時間でいい。働きながらでも続けられる。学ぶ時間がないのではなく、その2時間を聖域にできていないだけかもしれない。そう気づかせてくれます。

「断念する勇気」という、いちばん勇気のいる主張

時間が有限である以上、避けて通れないのが取捨選択です。本書はここに「勇気」という言葉を持ち出します。

すべてを習得するのは不可能だから、本当に必要な対象を絞り込み、不完全に終わるものは断念する。何を学ぶかと同じくらい、何を学ばないかが大事だ、と。

面白いのは、これが単なる「あれもこれも切れ」という割り切りではないことです。手放すべきものと、教養として守るべきものの線引きがある。地質学に深入りしすぎて本業を損ねた画家の例など、どこで踏みとどまるべきかを考えさせる挿話も用意されています。その基準のありかは、本書でたどってみてほしい。

このほかにも、知的生活が沈滞したときの備えや、「人間は人類の知性という鎖の一部である」という個人を超えた視点など、読みどころは多く残っています。

どんな人に効く本か

この本を読んで、私は知的生活のイメージが変わりました。本に囲まれて難しいことを考える、という像が、もっと地味で実践的なものに置き換わったのです。早寝早起きをして、食べ過ぎず、決まった時間を守り、学ぶ対象を絞る。その積み重ねの上に、高い思考が乗る。

だから本書は、読む本も情報も増えたのに思考が深まらない人、いつか学びたいと先延ばしし続けている人にこそ効きます。一方で、最新の効率ハックだけを手早く知りたい人や、古典特有の回りくどい語り口が苦手な人には、やや遠回りに感じられるかもしれません。

知的生活は今日から始められる、というのが本書の希望です。まずは、邪魔されないまとまった時間を、明日のどこに置くか。その一歩を、本書と一緒に決めてみてください。


合わせて読みたい

『20歳の自分に伝えたい 知的生活のすゝめ』齋藤孝さん ハマトン氏が「態度」として語った知的生活を、現代の習慣に落とし込んだ一冊。後天的な教養が心の土台をつくるという主張が、本書の「高い思考を選ぶ徳」と重なります。

「知的生活」が、長期的な成果を決めていた 本書の核心である「日々の知的習慣が長期の成果を分ける」というテーマを、もう一歩具体的に掘り下げたコラムです。2時間の原則を続ける意味が腑に落ちます。

『知識を操る超読書術』メンタリストDaiGo氏 ハマトン氏の「重要でない箇所は飛ばし読み」という読書観を、科学的な手法に翻訳した一冊。読書の取捨選択を技術として鍛えたい人におすすめです。


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