安全で無難な道を選んだとき、あなたはたぶん、ほっとしている。岡本太郎さんは、その「ほっとした」が一番危ないと言います。
「芸術は爆発だ」で知られる岡本太郎さん。でもこの本は、絵の描き方の本ではありません。社会の常識に合わせて、波風立てず、ぬくぬくと生きようとする私たちに向けて、強烈な平手打ちを食らわせてくる一冊です。
私は読んでいて、何度も本を閉じたくなりました。耳が痛いからです。安全な選択ばかりしてきた自覚があるからです。それでも最後まで読ませる熱が、この本にはあります。
こんな人におすすめ
- 何をしていいかわからず、なんとなく虚無感を抱えている人
- 安全で無難な選択ばかりして、人生に手応えを感じられない人
- 他人の目や世間体が気になって、自分を出せずにいる人
- 自信が持てず、失敗が怖くて一歩を踏み出せない人
この本の核心――幸福でなく、歓喜を生きろ
普通の自己啓発書は、成功する方法や幸せになる方法を教えてくれます。この本は、その真逆を行きます。
「ぼくは”幸福反対論者”だ。幸福というのは、自分に辛いことや心配なことが何もなくて、ぬくぬくと、安全な状態を言うんだ。」
著者にとって、安全でぬくぬくした幸福は、鈍い人間が感じるものにすぎません。本当に生きがいがあるのは、危険に直面したときに湧き起こる「歓喜」だ、と。
「人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。ぼくは逆に、積みへらすべきだと思う。」
知識も財産も、蓄えれば蓄えるほど身動きが取れなくなる。だから瞬間瞬間に生まれ変わり、過去を捨てて無一物になれ。そう説きます。
この本の主張は、つきつめると一つです。自分自身と闘い、目的も見返りもなく生命を「爆発」させて生きろ。ここから、その核になる思想を順に見ていきます。
迷ったら、危険な道を選ぶ
本書で最も有名なメッセージがこれです。
「自分は駄目な人間なんだとか、こうやったらきっと駄目になるだろう、それならそのマイナスのほうに賭けてみるんだ。」
人生の分かれ道で、私たちは無意識に安全な方を選びます。でも著者は、危険だと感じる道こそが、本当は自分が行きたい道なのだと言い切ります。
これは机上の理屈ではありません。著者自身が25歳のとき、パリのカフェで「安全な道をとるか、危険な道をとるか」と絶望的なほど悩み、危険な道を選ぶと決意した経験から来ています。
日本に帰国してからも、誰にも理解されず批判されることを覚悟で、当時の常識に反する原色の作品を発表し続けました。
作家の瀬戸内晴美さん(後の寂聴さん)は、この「マイナスや危険な方を選ぶ」という話を岡本さんから聞いてショックを受け、以来それを実行したそうです。そして、ちゃんと食えて、それ以上に堂々と生きている。著者は本書でそう紹介しています。
最大の敵は、自分自身――「己を殺せ」
著者の言う闘いとは、他人や競合との競争ではありません。
「いのちを賭けて運命と対決するのだ。そのとき、切実にぶつかるのは己自身だ。己が最大の味方であり、また敵なのである。」
状況に甘え、自分を守ろうとする己。それこそが人生を貫く上での最大の敵だ、と。
この思想を象徴する出来事があります。著者は京都文化会館に集まった2〜3千人の禅僧の前で、臨済禅師の「道で仏に逢えば、仏を殺せ」という言葉を引きました。そして「仏とは己自身であり、己を殺せ」と解釈をぶつけたのです。会場全体がどよめき、猛烈な拍手が湧き起こったといいます。
「自分に忠実に生きたいなんて考えるのは、むしろいけない。そんな生き方は安易で、甘えがある。」
「自分らしく」という言葉が、苦手なことから逃げる言い訳になっていないか。著者の問いは鋭く刺さります。
未熟も失敗も、力に変えろ
著者は、未熟さや下手さを欠点ではなく可能性として捉えます。
「未熟ということをプラスの面に突きあげることが人間的であり、素晴らしいことだと思わなければいけない。」
熟したものは無抵抗だが、未熟なものは世界全体を相手に自分の運命をひらいていける。だから未熟であること自体が、闘うエネルギーの源だと言うのです。
失敗についても、世間の常識をひっくり返します。
「挑戦した上での不成功者と、挑戦を避けたままの不成功者とではまったく天地のへだたりがある。」
「失敗は成功のもと」ではなく「成功は失敗のもと」。成功して一人前になった気になることこそ危ない、と。人気絶頂だった歌手の坂本九さんが、旅先で岡本さんから「人気者は大変だなあ」と同情されて突然泣き出したエピソードが、他人の基準に合わせた成功の空しさを物語っています。
そして著者は、自信そのものを否定します。自信とは他人と比べて得られる相対的な価値にすぎない。だから自信などない方がいい。ダメならダメで「やってやろう」と決意して、その瞬間にぶつかればいい、と。
美とは、きれいさではない
著者は芸術についても、強烈な原則を打ち立てます。
「芸術はきれいであってはいけない。うまくあってはいけない。心地よくあってはいけない。それが根本原則だ」
「きれい」は時代や社会の基準に合った相対的な心地よさにすぎない。一方「美」は、生命がひらき高揚したときに現れる絶対的な感動であり、時には醜悪さすら伴う、と区別します。
画家ゴッホの最期がその象徴です。ゴッホは自分の身体にピストルを撃ち込んでから、まる一日生き続けた。そしてその間に、自分が追求していた新しい芸術の意味をつかみ、「さて、いよいよ死ぬんだ」と誇りを持って死を迎えた。絶望の淵でこそ生命は輝く。著者はそう見ています。
この「全身全霊が宇宙に向かって無条件にパーッとひらくこと」こそが、著者の言う「爆発」です。物を壊す爆発ではない。損得や目的を超えて、命を完全燃焼させる至高の自己表現のことです。
明日から何を変えるか
1. 小さな選択で、あえて「危険な方」を選ぶ 会議での発言、休日の過ごし方、仕事の進め方。迷ったとき「どちらがうまくいくか」でなく「どちらにスリルがあるか」で選ぶ癖をつけてみる。命がけを、まずは日常サイズから。
2. 「下手」を堂々とさらけ出す 歌でもスポーツでも仕事でも、上手にやろうと背伸びするのをやめる。「自分は下手なんだ」と決めて、他人の基準を無視してのびのび楽しむ。岡本さんは46歳で初めてスキーをはき、急斜面で転びながらその喜びを語っています。
3. 三日坊主を恐れず、無条件に手を出す 「どうせ続かない」という心配は捨てる。著者いわく「三日坊主になるという計画を持ったっていい」。ふと惹かれたものに、結果を計算せず飛び込んでみる。
おわりに
この本を読んで、私はずっと安全な道を選んできた自分に気づかされました。世の中の99%以上は夢に向かって成功していない、と著者は言います。でもその上で、挑戦した上での不成功には、再挑戦者としての新しい輝きが約束されている、と。
すべてを文字通り実践するのは、正直しんどい。命を懸けろ、と毎日言われても困ります。でも、安全と常識という名の道を選んだとき、心のどこかで「本当にこのままでいいのか」と感じる。その感覚を、この本はえぐり出してくれます。
迷ったら、危険な道に賭ける。今日の小さな一つの選択から、私は試してみようと思いました。
合わせて読みたい
『1日ひとつだけ、強くなる。』梅原大吾さん 本書の「成功は失敗のもと」という逆説と深く響き合う一冊。勝ちに執着するほど弱くなる、と説くプロゲーマーの哲学は、岡本さんの結果より過程を重んじる姿勢と同じ場所を指しています。
「やりたいことがない」が、実は最強だった 「何をしていいかわからない」人に、岡本さんは無条件に飛び込めと言います。やりたいことがない状態をむしろ強みと捉えるこのコラムは、本書の「捨てる主義」と同じ風を吹かせてくれます。
『勝ち続ける意志力』梅原大吾さん 一時的な成功で終わらない努力とは何か。本書が説く「全生命を賭けて遊ぶ」生き方を、現代の勝負師の言葉で読み直したい人へ。挑戦し続けることそのものに価値を見出す点で共通しています。



