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『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか?』安達裕哉|「話し上手」が評価されない本当の理由

コミュニケーション・文章術
『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか?』

飲み会では盛り上がるのに、仕事では評価されない。正しいことを言っているのに、なぜか伝わらない。「コミュニケーション能力が大事」とは言われるけれど、具体的に何をすればいいのかわからない。

コンサルタントとして1000社以上を訪問し、8000人以上と協働してきた安達裕哉氏は、企業が求めている「コミュニケーション能力」が、多くの人が想像しているものとまったく違うと指摘します。話し上手であること、場を盛り上げられること、人あたりが良いこと。そのどれでもありません。本書が定義するコミュニケーション能力の正体は、「相手の要求を気を利かせて読み取り、自分のアウトプットを誰かに利用してもらうための力」です。この再定義を知るだけで、仕事の景色が変わります。

こんな人に読んでほしい

専門知識には自信があるのに、職場で正当に評価されていないと感じる人。部下に仕事を頼んでも期待通りの成果物が返ってこないマネージャー。「どうすればいいですか?」が口癖になっている若手ビジネスパーソン。

「気が利くかどうか」が、すべてを決めている

本書が最初に覆すのは、「コミュニケーション能力=話し上手」という思い込みです。

著者が出会った、企業から本当に評価されている人物の共通点。それは話がうまいことでも、場を盛り上げることでもありませんでした。「気が利くかどうか」です。相手が何を求めているかを想像し、先回りして動ける力。相手が楽になるように、自分のアウトプットを調整できる力。

たとえば「ウェブサイトのデザインをもっと良くしてほしい」という抽象的な依頼を受けたとき。コミュニケーション能力が低い人は「どこから手をつければいいかわかりません」と指示を待ちます。一方、真に能力が高い人は「なぜデザインを良くしたいのか?」「今のページのどこが使いにくいか?」と、相手の意図を想像して具体的な質問を投げかけます。

ドラッカーの言葉が引用されています。「専門家にとってはコミュニケーションが問題である。自らのアウトプットが他の者のインプットにならないかぎり、成果はあがらない」。現代の知識労働は分業で成り立っています。どんなに優秀な専門家でも、自分の成果物を他者が使える形にして渡せなければ、組織にとっての貢献はゼロです。

スタンフォード大学のターマン教授が行った追跡調査が象徴的です。25万人の中からIQの高い1400人を選び出し、その後の人生を追いかけた結果、全国的に名前が知られるほどの成功を収めた人はほとんどいませんでした。「知能と成功の間には完璧な相関関係があるというにはほど遠い」。知的能力を活かすには、コミュニケーション能力が不可欠だったのです。

「察してくれ」を捨てる勇気

本書の2つ目の重要な指摘は、日本の職場に根深い「察し」の文化への警鐘です。

「言わなくてもわかるだろう」「この前も言ったはずだ」。著者はこれを自動車の「だろう運転」に例えています。相手がわかっているだろう、察してくれるだろう、と思い込む。でも相手は察してくれない。期待が裏切られると、不満は次第に「なぜわかってくれないのか」という憎しみに変わります。

多様な背景を持つ人々が働く現代の職場では、ハイコンテクスト(言わなくても通じる共通認識)は機能しません。正社員だけでなく、契約社員、パートナー企業、フリーランスが混在するプロジェクトでは、「察し」に頼ること自体がリスクです。

著者が提唱するのは「かもしれないコミュニケーション」への転換です。「伝わっているかもしれないが、伝わっていないかもしれない」と常に確認を怠らない姿勢。具体的には、仕事の依頼時に「品質管理の基準」を最初に明示すること。「急ぎで適当にお願い」は最悪の頼み方です。「どの形式で、どの粒度で、どの範囲で作るか」を言語化し、相手と合意してから着手してもらう。

トヨタの品質管理の考え方が引用されています。「品質は上流工程の設計でつくり込む。検査では品質は向上しない」。後から文句を言うのは「検査」です。最初の依頼段階で基準を合意するのが「設計」。これはコミュニケーションにおいても同じです。

「教えてやろう」は、信頼を壊す

3つ目の視点は、「聞き方」と「アドバイスの仕方」に対する逆説的な教訓です。

相手の話を聞くとき、多くの人は4つの態度のどれかを取っています。「否定してやろう」「解決してやろう」「ただ聞くだけでいい」「自分の中に取り込もう」。著者が真の聞き上手と呼ぶのは、最後の態度──相手への深い敬意を持ち、「相手から学ぼう」とする姿勢です。

「解決してやろう」という態度は、一見親切に見えて、実は傲慢です。相手が求めているのは解決策ではなく、自分の考えを聞いてもらうこと、モヤモヤを整理する相手であることが大半です。

アドバイスを求められたときも、すぐに自分の意見を出してはいけません。著者が示す6つのステップは明快です。まず単に聞いてほしいだけか、解決してほしいのかを見極める。次に「すでにやろうと思っていること」を聞き出す。何が引っかかっているかを聞く。相手の本音を待つ。成果が出なかった原因を相手自身に考えさせる。そして最後に、自分の意見を直接言うのではなく「他者の事例」に変換して伝える。

「知っていることを話すよりも、知らないふりをしたほうがいい」という著者の言葉は逆説的ですが、核心を突いています。知識をひけらかすよりも、相手に語らせて疑問を投げかけるほうが、結果的に相手の真意を引き出し、深い信頼関係を築けるのです。

実践アクション:今日から始める3ステップ

1. 「どうすればいいですか?」を封印する

上司や先輩に質問するとき、「どうすればいいですか?」を使うのをやめてください。代わりに「私はこう考えましたが、この方向で合っていますか?」と自分の仮説を添えて聞く。「手順とポイントを教えてください」と聞く範囲を絞る。教わったことは最後に自分の言葉で確認する。Googleの新人オリエンテーションでも「質問する。とにかく質問する!」が最初に教えられますが、それは「丸投げの質問」ではなく「自分の理解を確認する質問」です。よくある失敗は、メモを取らずに同じことを二度聞くこと。同じ質問の繰り返しは、相手の信頼を確実に削ります。

2. 仕事を頼むときに「品質基準」を最初に言語化する

次に誰かに仕事を頼むとき、「これ、お願いね」で終わらせるのをやめてください。「いつまでに」「どのレベルの精度で」「どのフォーマットで」を具体的に伝える。ただし、作業の手順まで細かく指示するのは逆効果です。求める水準だけを明確にし、やり方は相手に任せる。よくある失敗は、曖昧に頼んでおいて、成果物を見てから「違うんだよな」と後出しで修正を求めること。品質管理を相手に丸投げした側の責任です。

3. アドバイスを求められたら、まず「今までに試したこと」を聞く

同僚や部下から相談を受けたとき、すぐに解決策を提示するのを我慢してください。「今までにどんなことを試した?」「何が引っかかっている?」と聞く。相手が本当に求めているのは、多くの場合、自分の考えの整理です。意見を求められても、自分の見解を直接ぶつけるのではなく、「こういうケースではこうした人がいたよ」と事例に変換して伝える。よくある失敗は、「あなたのためを思って」と前置きして正論をぶつけること。著者はこの常套句を「自分への免罪符」と断じています。

おわりに

「コミュニケーション能力の本質は、自分自身を俯瞰する能力である」。本書の終盤にあるこの一文が、すべてを集約しています。

自分の発言が相手にどう受け取られるか。自分の常識がどこまで通用するか。自分が「正しい」と思っていることが、本当に正しいのか。一歩引いて自分を観察する力こそが、コミュニケーション能力の正体です。話し上手になる必要はありません。相手のことをひたすら深く知ろうとする姿勢そのものが、仕事で最も求められている力なのです。


合わせて読みたい

『人は聞き方が9割』永松茂久|会話の主導権は「聞く側」が握っている 「聞く力」がコミュニケーションの本質であるという主張は本書と通底しています。テクニックではなく「姿勢」としての傾聴を、より多くの事例で学べます。

『頭のいい人が話す前に考えていること』安達裕哉|知性の見せ方 同じ著者による、「話す前の思考」にフォーカスした一冊。本書が「聞く力」と「伝える力」の全体像を描くなら、こちらは「考えてから話す」プロセスを深掘りしています。

『神トーーク』星渉|論理的に正しくても、人は動かない 「正しいこと」を言っても人が動かない理由を心理学で解明。本書の「感情を喚起しなければ伝わらない」という主張と重なる視点で、コミュニケーションの立体的な理解が深まります。


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