時間をかけて書いた記事が、検索結果のどこにも出てこない。アクセス解析を開くと、訪問者は1日20人。
こんなとき、人はつい「キーワードをもっと文章に入れよう」と考えます。本書はその発想を「化石のような知識」と一刀両断する。じゃあ、代わりに何をすればいいのか。
『沈黙のWebライティング』は、経営難の温泉旅館「みやび屋」を舞台に、伝説のWebマーケッター、ボーン・片桐がWeb集客の本質を叩き込んでいくストーリー形式の実用書です。著者は株式会社ウェブライダーの松尾茂起さん、作画は上野高史さん。2016年の本ですが、語られている原則は今のSEOでもまったく色褪せていません。
こんな人におすすめ
本書が効くのは、たとえばこんな経験がある人です。
- ブログや自社サイトの記事を書き続けているのに、アクセスがほぼ増えない
- 「SEOはキーワードを何%か入れること」という知識のまま、更新が止まっている
- 商品ページに人は来ているはずなのに、申し込みや予約につながらない
- 分厚いSEO専門書で一度挫折したが、基本だけはちゃんと押さえたい
漫画形式だからといって、内容は入門の入り口だけではありません。ストーリーで読ませて、各エピソード末の「ヴェロニカ先生の特別講義」で体系化する二段構え。読み物と教科書が交互に来る構成です。
この本の核心と強み
本書の主張は、一文に集約できます。SEO(検索エンジン最適化)の本質とは、検索エンジンを使うユーザーの「意図」を満足させることである。
根拠は、Googleのビジネスモデルです。Googleは広告で収益を上げる一企業であり、ユーザーに使い続けてもらうために利便性を最優先しています。だから「Googleが掲げる10の事実」の筆頭にこう書かれています。
ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる
日本の検索エンジンシェアは、2016年9月時点でGoogleが90%超。Yahoo!もGoogleの検索の仕組みを採用しているからです。つまり日本のSEO対策とは実質Google対策であり、Google対策とはユーザー対策にほかなりません。
著者の視点で面白いのは、検索という行為の捉え方です。ユーザーは手元にガイドブックがないから、仕方なく検索エンジンを使っている。その「手間を省いてあげられるコンテンツ」こそが評価される。アルゴリズムの裏をかくのではなく、究極の読者ファーストが最強のSEOだという話です。
そしてこの本、まじめな話を劇画調のバトル漫画で進めます。主人公ボーンのノートPCは純金製で39.9kg、コンサル料は1時間5万ドル。ふざけた設定に笑っているうちに、講義パートで本気の知識が流れ込んでくる。
著者いわく、ストーリーには記憶に定着しやすい効果があるそうです。実際、私はジャムの実験の数字を一発で覚えました。
本書の全体像
要約資料がカバーする前半は、3つのエピソードで進みます。
episode 01「SEOライティングの鼓動」 キーワードの詰め込みを卒業し、検索意図に寄り添う。見つけてもらうための章。
episode 02「解き放たれたUSP」 情報を網羅しても、選ばれる理由がなければ成果は出ない。選んでもらうための章。
episode 03「リライトと推敲の狭間に」 正確で分かりやすいだけの文章では、人は動かない。動いてもらうための章。
見つけてもらう、選んでもらう、動いてもらう。Web集客の流れがそのまま章の順番になっています。なお本書の後半ではオウンドメディアの運用やバズコンテンツも扱われますが、本記事は前半の核心部分を中心にまとめています。
キーワードの詰め込みは、なぜ「化石」なのか
物語は、みやび屋の弟・ムツミの失敗から始まります。「上位表示したいキーワードを文章の5%くらい詰め込むといい」という古い知識で記事を書き換えていく。でも順位は上がりません。
今の検索エンジンは「インテントサーチ」、つまりユーザーが何の目的で検索したのかを推測して結果を返す仕組みだからです。キーワードの出現率ではなく、意図への答えを評価する。
たとえば「栃木 温泉」と検索する人は、何が知りたいのか。特定の旅館の情報ではなく、「栃木にはどんな温泉や旅館があるのか」を網羅的に知りたいはず。栃木県には200を超える温泉旅館があると言われます。
だから一覧でまとめたページが上位に来やすく、一軒の旅館の紹介ページは戦う土俵から外れている。この推測が、すべての出発点になります。
では、意図はどうやって調べるのか。ボーンの答えはシンプルです。
上位表示するコンテンツのヒントは、すべて“検索結果”に隠されている。
狙うキーワードで実際に検索し、上位10位のページを分析する。Googleが今どんな意図に応えるページを評価しているかは、検索結果そのものが教えてくれます。
ここで実務的な注意がひとつ。検索はシークレットモードで行うこと。普段のブラウザでは検索履歴に応じて結果がパーソナライズされていて、世の中の人が見ている素の検索結果とずれるからです。地味ですが、知らないと最初から調査が狂います。
「専門性・網羅性・信頼性」で、検索する人の手間を省く
検索意図がわかったら、それを満たすコンテンツの条件が3つ示されます。プロの視点で深く解説されている「専門性」、必要な情報が漏れなくまとまっている「網羅性」、誰が発信しているか信用できる「信頼性」です。
この3要素を満たすために、本書は具体的な手を用意しています。
ひとつはマインドマップです。上位サイトが扱っている情報を書き出して整理し、抜け漏れがないかを確認する設計図にする。頭の中だけで「網羅できているはず」と思うのが、いちばん危ない。
もうひとつはQ&Aサイトの活用です。Yahoo!知恵袋やOKWAVEでキーワードを検索すると、ユーザーが生の言葉で悩みを吐露しています。「ダイエットの情熱が続かない」という投稿には430万を超える閲覧がありました。検索窓には現れない悩みの本音が、ここに転がっています。
ただし、上位サイトの真似だけではダメです。同じようなページばかり並んだら、検索する人にとっての利便性が下がる。参考にしつつ、自社にしかないオリジナリティを加える。この条件を満たしたコンテンツなら、みやび屋のドメインの場合で約2週間で上位表示の可能性がある、と作中では語られます。
そしてこの章には、ライターほどグサッとくる一言があります。
検索エンジンを使って何かを検索するユーザーの多くは、おもしろい文章を求めているわけでも、感動する文章を求めているわけでもない。“情報”を求めているんだ。
うまい文章を書こうとする前に、求められている情報を過不足なく出す。順番を間違えるな、という話です。
ジャムは24種類より6種類のほうが10倍売れる
episode 02の主役は、USP(Unique Selling Proposition)。他社にはない独自の強みのことです。
検索意図を満たす網羅的なページが作れたとしても、それだけでは「優秀な参考書」止まり。読者の役には立つけれど、自分の宿を選ぶ理由にはならない。アクセスと成果の間には、もう一段の壁があります。
ここで出てくるのが、コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授によるジャムの実験です。スーパーで6種類のジャムを並べたテーブルと、24種類を並べたテーブルを用意したところ、試食した人数は同じなのに、購入率は6種類が30%、24種類はわずか3%。選択肢が少ないほうが10倍売れました。
人は選択肢が多いほど得した気分になる。でも同時に選べなくなり、満足度まで下がる。これが「選択のパラドックス」です。情報をたくさん見せること自体が、サービスではない。だからこそ、選ぶ理由を一発で示すUSPが要るわけです。
選ばれ方にも作法があります。自社のゴリ押しはしない。あえて中立的な立場で他社とも比較できる情報を提供したうえで、自社の強みを伝える。1980年代のペプシコーラは、ブラインドテストで「コカ・コーラより美味しいと答えた人が半数を超えた」という比較広告で、選ぶ基準そのものを提示してみせました。
人は、誰かに一方的に商品をオススメされるより、“自分で納得して選んだ感”がほしいものだ。
売り込むのではなく、買い物をアシストする。この姿勢が、結果的に信頼と成約を連れてきます。
弱みを裏返すと、USPになる
とはいえ、「うちには独自の強みなんてない」というのが大半の現場です。みやび屋もそうでした。温泉が心地いい、料理が美味しい。全部、他の旅館にも言えてしまう。
ボーンの指示は逆方向でした。弱みを洗い出せ、と。
みやび屋の弱みは、若女将サツキの経験不足です。ところが視点を変えると、若いからこそ若い世代の気持ちがわかる。そこから「若者が親孝行をするための宿」というコンセプトが生まれ、「親孝行プラン」が形になります。
プランは平日お一人様16,000円から、50歳以上のお客様は食事や部屋がランクアップする特典つき。古いだけだった建物も、「大正15年創業、90年の歴史」と語り直せば老舗の証になる。
その弱みを“強み”に変えてみろ。
それでも見つからなければ、新しいコンセプトから考える。悩んだときはコンセプトに立ち返れ、アイデアは制約の多い状態でこそ出やすい、という助言も添えられています。USPは探すものではなく、視点の転換で作るもの。ここが本書のいちばん実務的な転換点だと感じました。
情報が完璧でも、人は動かない
episode 03は、多くの実用書が触れない領域に踏み込みます。正確で、分かりやすくて、網羅的。そのユーティリティ(機能的な価値)を突き詰めるほど、文章から感情が消えていくという問題です。
Webマーケティングの醍醐味は、人の心を動かすことだ。こんな文章では、人の心は動かせん。
完璧な説明書を読んで、宿を予約したくなるか。ならない。人を動かすには、感情に響くエモーショナルな文章が必要になります。
カギは「共感」です。本書の定義では、共感とは相手の感情を自分事として感じること。「日頃、親孝行がなかなかできていない」という一文が入った瞬間、読み手は「ああ、この気持ちわかる」と自分の話として読み始めます。騒がしい場所でも自分の名前は耳に入る、カクテルパーティー効果と同じ原理です。
さらに「話者の宣言」。誰がその感情を発しているかで、言葉のニュアンスは変わります。書き手の顔が見えると、読み手の感情移入は一気に進む。
親孝行プランのページには、こんな計算が出てきます。親の顔を1年に2回しか見ないのだとしたら、10年間で20回しか会えない。数字の羅列なのに、胸を突かれませんか。これがエモーショナルライティングの実物です。
読まれる文章は、脳に「ラク」をさせる
最後に、そもそも論が来ます。Webの文章は、基本的に読まれない。
人は文章を読むとき、脳のエネルギーを消費する。その脳のエネルギーをいかに消費させず、読み手にラクをさせられるかがポイントだ。
裏付けとして登場するのが、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』です。人間の行動は直観的・感情的な「システム1」と論理的な「システム2」で動いていて、大部分は前者が決めている。
読みづらい文章はシステム2に負担をかけ、読まれる前に捨てられます。作中でボーンは、この本をライティングノウハウの原点として薦めています。
そのうえで、読まれる文章の条件が3つにまとめられます。
1. 読み手にとって「自分事」になる感情や情報を取り上げる 2. 思わず読み進めたくなるように、「適度な興奮」を感じさせる 3. 読み手の脳の負担を減らす
3つ目には、見せ方の工夫が含まれます。スマホで勢いよくスクロールされても目に留まるように、カギ括弧で感情表現を視覚的に目立たせる、といったレベルまで具体的です。
どんな情報も感情も、伝わらなければ意味がない。だから「情報や感情の見せ方」に徹底的にこだわる。文章術というより、画面設計の思想に近い話でした。
明日からできる4つのアクション
本書のアクションプランは、そのまま執筆前後のチェックリストになります。
1. 書く前に、シークレットモードで検索する 狙うキーワードで検索し、上位10サイトを熟読する。あわせてYahoo!知恵袋などで、ユーザーがどんな言葉で悩んでいるかを拾う。
2. マインドマップに書き出す リサーチで得た「ユーザーが知るべき情報」を書き出して構造化し、網羅性の抜け漏れとプロの視点の有無を確認する。
3. 自社のUSPを言語化する 競合と並べて、決定的に違う点を言葉にする。見つからなければ弱みを書き出し、視点を変えて強みに転換する。
4. 書き上げてから、共感をリライトで足す 完成した記事が客観的な説明書になっていないか読み返す。読み手が「自分のことだ」と思える感情表現と、誰が書いているかの宣言を追記する。
順番が大事です。1と2をやらずに3や4から始めると、誰にも検索されない名文ができあがります。
おわりに
サイトの成約率は、一般に1%前後、高くても5%程度。1日20アクセスのみやび屋に予約が入らないのは、文章の才能の問題ではなく、構造の問題でした。
本書を閉じて残るのは、テクニックの一覧ではありません。検索窓の向こうには、ガイドブックを持たずに困っている人がいる。その人の手間を省き、選ぶ理由を示し、感情に寄り添う。全部、画面の向こうの人間に向けた行為です。
言葉はまさにコミュニケーションツール。その言葉の先にいる誰かのことを考え、その誰かに何を伝えるのか?ということを考えながら使う必要があります。
次に何かを書くとき、キーワードより先に、検索する人の困りごとをひとつ想像してみてください。本書の効果は、その一瞬から始まります。
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