異業種交流会で名刺を50枚配った日の夜、なぜか少しむなしくなる。
連絡先は増えた。でも、誰一人として顔が浮かばない。あの「人脈づくり」は、いったい何だったのか。
本書は、その違和感の正体を解き明かす一冊です。著者はグロービス経営大学院。100人超へのインタビューと延べ800人超のアンケートをもとに、人脈づくりを「名刺交換のテクニック」から切り離し、自分の成長そのものと連動させる方法を体系化しています。
こんな人におすすめ
この本が特に効くのは、こんな場面で立ち止まっている人です。
- 交流会には行くけれど、名刺が増えるだけで何も起きずに終わってしまう
- 社外につながりが欲しいのに、何から始めればいいのか見当もつかない
- 「自分のやりたいこと(志)」がまだぼんやりしていて、動き出す理由が見つからない
- 人に頼るのが苦手で、いつも一人で抱え込んでしまう
逆に、手っ取り早く人脈を「狩り集めて」目先の利益につなげたい人には、本書は遠回りに見えるかもしれません。本書が前提に置くのは、自分の志と能力を育てることだからです。
この本が問うていること
著者がまず壊しにかかるのが、人脈づくりへの根強いイメージです。
「人脈づくり=名刺をばらまいて、自分のビジネスの利益に直接つなげること」。多くの人がそう思っている。でも、それは違う、と本書は言い切ります。
本書での人的ネットワークの定義は、シンプルです。
人的ネットワークとは「1対1の人のつながり」である
その集合体がコミュニティだ、という整理になっています。そして、このつながりが与えてくれるのは目先の儲けではなく、内省や安心、人間的な成長といった、もっと広く深い恩恵だと位置づけ直すのです。
背景にあるのは、時代の変化です。
ピーター・F・ドラッカーが指摘したように、働く者の労働寿命は約50年に及ぶようになりました。一方で、組織の寿命はそれより短い。「人生100年時代」「VUCAの時代」と呼ばれる予測困難な状況では、1つの会社の中の自分ではなく、個人としての自分が問われます。
だからこそ、組織の枠を越えた人とのつながりが資産になる、というわけです。
人脈は単独では育たない――自己実現のサイクル
本書の背骨が、この「自己実現のサイクル」です。
人的ネットワークは、人が集まる場所に顔を出すだけでは、いずれ限界が来ます。大切なのは、3つの要素を回すこと。
1. 志 自分の価値観に基づき、人生をかけてコミットしたいと思う方向性や目標。
2. 能力開発 自分の能力を発見し、高め、活かすこと。自信の獲得にもつながります。
3. 人的ネットワーク 多様な他者とのつながり。志の明確化や能力開発のきっかけになります。
この3つは、別々に存在するのではなく、互いに影響し合います。志が明確になればつながりが生まれる。つながりの中で能力が磨かれる。能力が上がれば、より高い能力を持つ人とつながれる。螺旋階段を登るように、成長が加速していく。
面白いのは、出発点が「志」でなくてもいいことです。志がまだぼんやりしていても、まず行動してコミュニティに飛び込めば、他者との対話を通じて内省が深まり、後から志が明確になっていく。本書には、そういう順番でサイクルを回し始めた人が何人も登場します。
つながりがくれる「5つの恩恵」
では、このつながりは具体的に何をもたらすのか。本書は5つに整理します。
恩恵1 内省 他者との対話を通じて、自分の内面を客観視し、気づきを得る。自分では見えていなかった強みや価値観に気づく入口になります。
恩恵2 安心・うれしさ 仲間と一緒にいることで得られる心地よさや、精神的な安定。つながりは情報源であると同時に、心の支えでもあります。
恩恵3 享受 自分にはない情報や機会、学び、影響力を他者から受け取る。いわゆる「役に立つつながり」の側面です。
恩恵4 協奏 自分と他者の相互作用で、一人では生み出せない価値を共創する。仲間と組んで、自分だけでは届かなかった成果を出すことです。
恩恵5 循環 自分と直接の相手以外からも、巡り巡って作用が返ってくる。
この「循環」が、本書のいちばん腑に落ちる部分でした。勉強会などで「目の前の人に喜んでもらいたい」と、自分の得意な情報を提供し続ける。すると、直接支援していない相手から、人づてに評判が伝わって声がかかる。貢献が、思いがけない経路で自分に戻ってくるのです。
ネットワーキング・レベル――人脈づくりは「能力」だった
本書がユニークなのは、人脈づくりを天賦の才ではなく、後天的に開発できる「能力」として扱った点です。
その能力の現在地を測るのが、6段階のネットワーキング・レベルです。
- レベル0:活動をしていない段階
- レベル1:コミュニティに参加し始めた段階
- レベル2:コミュニティの場づくりに、中心として寄与する段階
- レベル3:自分の価値観に沿ったネットワークに、選択と集中をする段階
- レベル4:特徴が認知され、ネットワークをビジネスや活動に活かす段階
- レベル5:志の発信により人が自然と集まり、経済圏になる段階
ある日突然レベル5になることはありません。意図的に行動を積み重ね、ときに失敗しながら、一段ずつ登っていく。だから、まずは自分が今どこにいるかを知ることが出発点になります。
ここで効いてくるのが、紐帯(つながり)の種類です。著者は、社会学者マーク・S・グラノヴェターの「弱い紐帯(ウィーク・タイ)の強さ」を土台にしています。
役立つ情報や新しいアイデアは、家族や親友のような強いつながりよりも、たまにしか会わない知人=弱いつながりからもたらされることが多い。
本書はこれをさらに細分化し、目的を共有する「ミートアップ・タイ」や、信頼で結ばれた「トラスト・タイ」など複数の状態に分け、レベルに応じて狙うべきつながりを変えていくと整理します。
レベル0から1へ上がるなら、まずは興味のあるイベントや勉強会に「足を運ぶ」。そこでミートアップ・タイを作る。自分の知っている情報を提供したり、SNSで発信したりして、徐々に登っていく。具体的なはしごが用意されているのが、本書の親切なところです。
「誘われる力」と「応援される力」
自分から動くだけが人脈づくりではありません。本書は、相手から求められる力を2つに分けます。
誘われる力は、他者から「会いたい」「一緒に仕事をしたい」と思われる力です。
この力はピラミッド構造になっています。土台は「基礎力」。約束を守る、相手の話を聴くといった、信頼される言動や前向きな姿勢です。その上に「発信」が乗る。自分がどんな成果・能力・志を持っているのかを、SNSや日々の会話で知らせ、相手に認知してもらう。
ここで著者が強調するのは、すべてを完璧に備える必要はない、ということです。突出した強みを1つ持ち、それを適切に発信するだけで、誘われる力は高まる。
何者でもない自分にできるのは、周囲が困っていることを解決して支えること。1つの領域を尖らせれば、才能あふれる人たちが頼ってくれる瞬間が生まれる、という言葉が印象に残ります。
応援される力は、自分の志や目標に対して、周囲から支援や協力を得られる力です。
ここで鍵になるのが、意外にも「頼る力」でした。一人で抱え込まず、自己開示をして素直に相手を頼る。それが相手の「助けたい」という気持ちを呼び起こします。
本書はこう書いています。「弱みを自己認識した上で、できないことを人に頼るのである」。頼ることは弱さの露呈ではなく、応援を引き出すスイッチなのです。普通は「人に頼るのは迷惑で恥ずかしい」と思われがちですが、実際には人は頼られるとうれしいもの。この事実を知るだけで、動きやすくなります。
「踊る阿呆」になる――真ん中に入る勇気
コミュニティに参加したときの、最大のコツがこれです。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら 踊らにゃ損々
阿波踊りの一節を借りて、著者はこう言います。コミュニティの端で傍観しているだけでは、何も起きない。自ら幹事を引き受け、企画に立候補し、中心的な役割を担って周囲を巻き込む。エネルギーはかかります。でも、真ん中に入ることで顔と名前を覚えられ、良質なネットワーク構築の「てこ」になる。
土台にあるのは、GIVEの精神です。まずは自分から相手の役に立つこと。議事録の作成、イベントの幹事、人が面倒がるけれど喜ばれる役割を、自ら引き受ける。受け取ること以上に、与え続けること。著者の言葉では「GIVE & TAKE & GIVE」。この姿勢が、誘われる力と応援される力の両方の土台になります。
ここに本書の一貫した思想が表れています。人脈は奪うものではなく、まず与えることから始まる、という考え方です。
まず「自分を知る」――志と能力の棚卸し
行動の前に、本書がもう一つ強調するのが「自分を知る」プロセスです。
漠然と人を集めようとすると、エネルギーと時間を浪費して途中で挫折します。だから、過去の経験から自分の価値観や「ありたい姿(志)」を言語化する。そして、他者に貢献できる自分の能力を棚卸しする。
能力の棚卸しに使うのが、カッツ・モデルです。自分の能力を「テクニカル(業務知識)」「ヒューマン(対人関係力)」「コンセプチュアル(概念化能力)」の3つに分解して、自分が他者にどう貢献できるかを分析します。
一人で気づけないなら、同僚や友人に「私の強みを3つ挙げて」と聞いてみる。自分では当たり前すぎて見えていない提供価値が見つかります。
そのうえで「タグ」を決める。「〇〇と言えば、あの人」と認知される、自分の特徴です。志や得意分野をタグにして、SNSなどで継続的に発信していく。これが、誘われる力と応援される力を底上げします。
「時間がない」という人には、優先順位の見直しを勧めます。時間管理のマトリックスで言う「第二領域(緊急ではないが重要なこと)」に、意図的に時間を割く。何をやるかと同じくらい、何をやらないかを決めることから始める、という現実的な助言でした。
理論を裏づける、7人の物語
PART2では、理論が現実で機能するプロセスを、7人の実践事例が証明します。
たとえば、ファンズ株式会社代表の藤田雄一郎さんは、SNSで自身のビジョンや事業の進捗を発信し続け、2019年に約7億円の資金調達をSNSで完結させました。投資家も人材も、発信から生まれたつながりです。
株式会社サポーターズ代表の楓博光さんは、「カッコイイオトナを増やす」というビジョンのもと、自分の想いや弱みを素直に発信して周囲を巻き込み、5000人を超える参加者を集めるテック・カンファレンス「技育祭」を主催しました。
株式会社トリプルバリューの山本龍太さんは、ビジネススクールで「人に頼る」ことを覚え、勉強会「ゲツガン」を4年間で150回以上開催。コミュニティの登録メンバーは1600人を超え、クラウドファンディングでは目標30万円を開始5時間で達成し、最終的に900%近くに達しました。
共通しているのは、最初から完璧な志や圧倒的な能力があったわけではないことです。行動し、発信し、頼り、与える。そのサイクルを回すうちに、後から志が明確になり、つながりが資産に育っていった。理論と現実が、きれいに重なります。
明日からできる4つのアクション
本書を実務に落とすなら、この4つから始めるのが現実的です。
1. 志と能力を棚卸しする 過去にこだわってきた価値観(志)を言語化する。同時に、自分が他者に貢献できる能力を書き出す。同僚に「私の強みを3つ挙げて」と聞いて、自分では見えない価値を拾う。
2. 自分の「タグ」を決めて発信する 「〇〇と言えば自分」というタグを1つ決める。それをSNSや日々の会話で、継続的に発信する。発信が、誘われる力の入口になります。
3. 興味のあるコミュニティで「役割」を引き受ける 参加して終わりにせず、議事録や幹事など、人が面倒がるが喜ばれる役割を自ら担う。GIVEから入って、真ん中に近づく。
4. できないことを、素直に頼る 自分の弱みや不足しているリソースを開示して、具体的に協力を求める。頼ることが、応援される力を動かします。
増やすほど続きません。1番から始めて、習慣になったら次へ進むくらいがちょうどいいです。
おわりに
本書を読み終えて残るのは、人脈づくりの「テクニック」ではありません。
知らない人とつながる前に、まず自分の志と能力に向き合う姿勢。役立ててもらう前に、まず与える姿勢。一人で抱え込まず、頼る姿勢。
著者が引くアフリカのことわざが、すべてを言い表しています。
早く行きたければ、一人で行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け。
人脈は、遠くまで行くための「てこ」です。そして本書によれば、その「てこ」は名刺の枚数では決まりません。あなたがどんな志を発信し、誰に何を与えてきたかで決まる。
これからの人生の価値は、どんな人と出会って、どんな時間をつくっていくかで決まる、と著者は書いていました。次に勉強会の案内を見かけたら、参加ボタンを押す前に、一つだけ考えてみてほしい。その場で、自分は何を与えられるか。そこから、サイクルは回り始めます。
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なぜあの人には仕事の話が集まるのか──「誘われる力」を高める3つの方法 本書の中核概念「誘われる力」を、より身近な3つの行動に落とし込んだコラムです。本書のピラミッド構造(基礎力+発信)とあわせて読むと、明日から何を発信すればいいかが具体的に見えてきます。
『LIFE SHIFT』リンダ・グラットン氏 本書が時代背景として引くグラットンの議論を、正面から扱った一冊です。人生100年時代に人的ネットワークが「無形資産」になる理由を腹落ちさせると、本書のサイクルを回す動機がより強くなります。

