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『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』牛尾剛さん|核心は「音から入って、訳さず理解する」

学習・インプット
約7分で読めます
『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』

単語を覚え、文法を勉強したのに、外国人を前にすると言葉が出てこない。リスニングはお手上げ。──そんな経験、ありませんか。

著者の牛尾剛さんも、まさにそうでした。英語の成績は暗黒。留学経験もネイティブの知り合いもない、ごく普通のITエンジニアです。なのに、たった8カ月で国際カンファレンスに登壇し、英語で質疑応答までこなせるようになりました。

この本は、その独学メソッドを丸ごと体系化したものです。学校で習った「文字と文法から入る」やり方を、真っ向から否定します。代わりに置くのは「赤ちゃんが言葉を覚えるプロセス」。音から入り、状況とともに理解する道です。

こんな人におすすめ

この本の核心――正解の勉強法は、存在しない

本書の出発点は、ちょっと身もふたもない一文です。

「すべての英語勉強法は、その著者がたまたまうまくいった方法にすぎない。」

世にあふれる「この方法で英語がペラペラ」は、その人にたまたま効いただけ。だから万人共通の正解はありません。代わりに著者が示すのが、土台となる5つの原則です。

この5つは「赤ちゃんが学ぶプロセス」と同じ順番です。聞く→真似してしゃべる→経験で意味を理解する→本を読む。文字も文法も、ずっと後でいい。

著者自身が、その証明です。意味を考えずCDを聞き取り・書き取り・音読することに集中した結果、1カ月で英語が聞き取れるようになり、6カ月でネイティブスピードで話せるようになりました。

そして8カ月後には、国際カンファレンス「Agile2011」でサムライ姿で講演し、質疑応答までこなした。文法の参考書を一冊もやり込まずに、です。

「意味を考えるな」という衝撃

5原則の一番手、サウンドファーストには、強烈な指示が付いてきます。

「聞き取りをするときに『意味』を考えるな。」

英語を聞いてすぐ意味を考えようとするから、ネイティブのスピードに置いていかれる。しかも頭の中に「スペル」が浮かんでしまう。これが上達を止めます。

理由は脳の仕組みにあります。日本人の脳は6歳を過ぎると日本語のフィルターがかかり、日本語にない音を「ノイズ」として捨ててしまう。だからまず、その音を自分で発音できるようにする。人間は「自分で発音できる音は、簡単に聞き取れる」からです。

つまり発音練習の本当の目的は、きれいに話すことではありません。聞き取れる耳をつくることです。ここが、多くの人の思い込みとひっくり返っています。

訳さない脳――「英語脳」をつくる

2つ目のダイレクト理解は、リスニングとスピーキングの心臓部です。

「英語を聞くたびに日本語の音にいちいち翻訳していると、そのぶん脳を余計に使うことになる。」

たとえば “water” を聞いて、頭の中で「水」と訳す。この一瞬の変換が、会話では致命的な遅れになります。そうではなく、コップに入った液体そのものを直接思い浮かべる。これが「英語脳」の状態です。

著者は、英語は日本語に1対1で翻訳できないとも言います。言語ごとに文化や背景が違うから、日本語訳だけを頼ると、ニュアンスがズレた不自然な英語になる。だから単語の意味を深掘りしたいときは、英和辞書ではなく英英辞書を勧めます。

ただし、すでに日本語経由で覚えた語彙を捨てる必要はありません。ニュアンスのズレは、映画や多読を続けるうちに少しずつ直っていきます。

著者自身、日本語をはさむ勉強をした後に、再び英語だけの環境に身を浸して英語脳を呼び戻すことを「消毒」と呼んでいました。一度鈍っても、英語のシャワーを浴び直せば戻る、というわけです。

4つのフェーズで実践する

原則がわかったら、具体的に何をするのか。本書は実践を4つのフェーズに分けます。

フェーズ1――発音と耳を育てる 個別の音を練習し、ナチュラルスピードの会話CDを1枚だけ選んで、意味もスペルも考えずにひたすら聞き込む。聞き取れたら音読とシャドーイングへ。シャドーイングとは、お手本の音声に少し遅れて、影のように真似て発音する練習です。

このとき必須なのが録音です。

「ネイティブの発音、イントネーションを真似て音読をすることは、ペラペラになるための超絶必殺技である。」

スマホで自分の声を録音し、お手本と比べる。母音が強い、リズムが悪い――録音すると、自分では気づけなかった癖が一気に見えてきます。著者はこれを究極の練習ツールと呼びます。

フェーズ2――基礎語彙を多読で育てる やさしい絵本を、辞書を引かずに大量に読む「多読」へ。わからない単語は飛ばす。状況や絵から意味を推測しながら読むことで、日本語を介さない語彙と文法が自然に身につきます。目安は、読んだ単語が100万語くらいになると、英語が溢れ出す人が多いそうです。

フェーズ3――語彙を爆発させる 英英辞書が使えるレベルになったら、アプリ「Anki(スーパーメモ)」を導入します。人間の忘却曲線を利用し、忘れる直前の最適なタイミングで復習を促してくれる仕組みです。読書や映画で出会った文脈つきの単語を、1日10語までのペースで登録し、毎日の通勤で復習を自動化します。

フェーズ4――映画で自然に増やす 最後は、同じ映画を字幕なしで最低5回以上、好きなだけ見る。ここでも完璧主義は禁物です。すべての意味を理解しようとせず、辞書も引かない。同じ場面に何度も出会ううちに、その状況で使われる表現が体に染み込みます。

こうして増えるのがレスポンシブボキャブラリ、つまり会話の中で意識せず即座に口をついて出る語彙です。単語帳で覚えた「知っているだけの単語」とは、別物です。

続けるコツ――「辛い」は間違いのサイン

どんなに良い方法も、続かなければ意味がありません。ここで著者は、エンジニアらしい発想を持ち込みます。学習を仮説検証サイクルで回す、という考え方です。

仮説を立てて実行し、数週間たっても効果が出なかったり、辛いと感じたりしたら、評価して別の方法へ切り替える。この方向転換を、IT用語でピボットと呼びます。

「『辛い』ということは何かが間違っているサインなのだ。」

辛いのは、根性が足りないからではない。その方法が、今の自分のレベルや前提に合っていないだけ。だから自分を責めず、楽しい方法に切り替えていい。著者は、効果的な勉強法は学習者のレベルとともに刻々と変わる「Moving Target」だと言います。

モチベーションが落ちたときの工夫もあります。「サバイバル・ルール変換」といって、「〜しなければならない」という縛りを「〜してもよい」と緩める。人は1年の目標は過大に、10年の目標は過小に立てがちです。短期で完璧を求めず、気長に構えることが続ける力になります。

学習タイプ別のプランも用意されています。ゼロから一気に攻める「速攻タイプ」、ゆっくり着実に進める「ものぐさタイプ」など、自分の性格や生活に合うものを選べる。これも「正解は人それぞれ」という本書の思想の表れです。

ITエンジニアだけの近道――IT英語はやさしい

そして、エンジニアには大きな朗報があります。

「IT英語は普通の日常会話や映画で使われる英語と比較するとハードルがかなり低い。」

理由は3つ。技術用語は英語と日本語で意味が一致しやすい。そもそもカタカナのまま使われていることが多い。技術書は世界中の人が読むので文が平易で、発音もはっきりしている。

だから事前に日本語でその分野の知識を持っておけば、英語での情報収集力は一気に上がります。手始めは、身近なプログラミング言語のAPIリファレンスを英語で読むこと。日常英会話を広く浅く学ぶより、ずっと現実的な一歩です。

明日から何を変えるか

おわりに

この本を読んで、英語への向き合い方がほどけました。

これまで私は、話せないのは自分の努力や才能のせいだと思っていました。でも著者は、英語は知識ではなく、自転車に乗るのと同じ「慣れ」だと言います。筋トレと同じで、頭ではなく体で覚えるもの。

そして、辛いのは間違いのサイン。合わない方法をやめて、自分に合うやり方を探していい。この許しが、何より効きました。

正解の勉強法はない。あるのは、原則を知って、自分でカスタマイズし、つまずいたら方向を変えていく力だけ。英語に限らず、何かを学び続けるすべての人に効く考え方だと思います。


合わせて読みたい

英語学習の順番が逆だった。 本書の「文字と文法から入るのが間違い、音から入れ」という主張を、もう一歩かみくだいたコラムです。なぜ学校式の順番では話せるようにならないのか、腑に落ちます。

『ゼロから12ヵ国語マスターした私の最強の外国語習得法』Kazu Languagesさん 本書がIT英語に的を絞るのに対し、こちらは12言語を操る著者が「語学を遊びに変える」コツを語ります。ピボットして学習を楽しむという発想の、別バージョンとして読めます。

ChatGPTに英語を聞いた。翻訳も頼んだ。──なのに、全然上達しなかった。 本書の「日本語に訳すと英語脳が育たない」という指摘を、AI時代の文脈で考え直したコラム。翻訳に頼るほど話せなくなる理由が、別角度から見えてきます。


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